プロローグ ファントム戦
時は1910年。ファブローム大陸にある3カ国「ファウドラ国」「ストラフ共和国」そして「ビクトリア帝国」を主軸とした「3カ国対戦」が幕を開けた。各国は独自の技術で作り上げた「魔術兵器」を駆使し、領地の拡大を狙ったその戦いで、それぞれの国が戦果を上げていた。しかし1916年、ビクトリア帝国の連敗が続き、帝国の領地は後退の一途をたどった…
同年6月6日青空国とビクトリア帝国の国境付近にある「ファントムの丘」この丘の周辺には草原が広がり、そよ風が吹き抜ける心地よい場所なのだが、この日だけは違った…
丘のまわりの草原には傷だらけの無数の死体が転がっており、悲惨な光景だった。本来、魔術兵器とは人を無効化させる魔力を込めた「魔弾」というものを使用するので、魔術兵器で人が死ぬことはもちろん、外傷を負うことは絶対にあり得ないのである。やがて丘の上に黒い雨雲が出始めた頃、ファウドラ国の兵士およそ100人が、ファントムの丘にやってきた。兵士達は丘の上まで来るとそこで足を止めた。あの大量の死体を目にしたからだ。彼等はこれほどまでに恐ろしく、そして残酷な光景を見たことがなかった。兵士の中にはあまりにも残酷すぎる光景だったからか、それとも死体からの悪臭のせいか、嘔吐してしまう者もいた。やがて、雨雲が空を覆い尽くし雨が降り始めた。その時だった!
「ヒハハハハハハハハ!」
雷音と共に女の笑い声が響き渡ったその瞬間、一人の兵士の頭が、――という音を立てて吹き飛んだ。突然の出来事に兵士達が混乱する中、女の笑い声と共に、兵士達の頭が一つ、また一つと吹き飛んでいく。
「逃げろ!みんな逃げろ!」
恐怖に耐えられなかった一人の兵士が叫んだ。それを皮切りに、他の兵士達も我先にと逃げ出す。だがその時、兵士達の行く手を塞ぐようにして、笑い声の主がついに姿を現した。その姿を見た兵士達の顔は真っ青になった。声の主は美しい女兵士だった。だがその体からは六本の腕が伸び、とても人間とは思えないような姿をしていた。少女の6本の腕にはそれぞれ銃が握られ、その顔は狂気に満ちた笑みを浮かべていた。
「ば…化け物」
一人の兵士が声を漏らした瞬間、その兵士の胸元を鉛の弾が貫いた。
「化け物とは失礼だな。私はこう見えてもれっきとした人間なんだよ。」
狂気に満ちた笑顔のまま、少女は言った。その顔を見た兵士達は恐怖に震え、その場から逃げ出した。その姿を見た少女は舌なめずりをすると、逃げ惑う兵士達に飛びかかった。少女の握った銃が火を吹くたびに兵士達は次々と倒れていく。
「ヒハハハハハハハハ!アハハハハハハハハハハハハハ!」
それを見た少女は只々笑いながら、銃の引き金を引くだけだった。その光景はまるで小さい子供がアリを殺すようだった。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
少女の狂気に満ちた笑い声は更に大きくなる。兵士達は抗うことすらできずに、次々と死んでいった。やがて雨が止む頃には100人近くいた兵士は全滅していた。死体の海と化した草原の真ん中で、少女はただ一人祈りを捧げていた。
「主よ。この哀れな罪人をお許しください…」
祈りを捧げた少女は、首からぶら下げたペンダントを強く握りしめた。
「こちら司令室!シグドナル少佐!応答願います!」
突然、少女の耳付いた小型無線機に通信が入った。
「あー。こちらシグドナル。どうぞ。」
「ご無事でしたか少佐!通信が途絶えたので心配しましたよ!」
「すまない。通信機の不具合いらしい…」
「今援軍が向かっていますから、もう少し待っていてください!」
あーその事なんだが、援軍は必要ないかもしれんな…」
「必要ないって…一体どういう事ですか少佐!?」
「…私一人で全滅させちまったんだ。詳しいことは帰還してから報告する。オーバー。」
少女は半ば強引に無線を切った。
「…報告書書くの面倒くさいな…」
少女は空に向かって、ポツリとつぶやいた。彼女の名前は「シグドナル・ビルゲナウ」。人は彼女を「六腕の兵士」と呼ぶ。
このような作品を読んでいただきありがとうございます。不定期投稿ですが、よろしくお願いします。