8話 何故か凄そうな奴に気に入られた
俺とクロイツの間で長い間視線が交わされていた。
「何でここにいる?盗賊風情が」
「………」
無言で立ち去ろうとする。
ここで手を出したりなんかしたら1番つまらないパターンになる。
「お前に出会ってから散々だよ盗賊。見ろよこのステータス」
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【名前】クロイツ
【ジョブ】勇者
【レベル】35
【攻撃力】89
【体力】328
【防御力】87
【素早さ】90
【魔力】247
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自分のステータスを見せつけてくる勇者。
流石勇者だな。この短期間でここまでステータスを戻すなんて。
「聞いているのか?盗賊」
「………」
聞いているがこいつと話すのは時間の無駄だ。
2人に視線を向けて去るぞと視線で伝える。
「さては怯えているな?!盗賊!この俺がまた現れるなんて予想もしていなかったな?」
むしろ好都合なくらいだが向こうの目にはそう映っているらしい。
「俺と決闘しろよ盗賊」
そう告げられて足を止めると振り向く。
「やっちゃえー!クロイツ!あんな雑魚にやられたままはだめなんだから!」
そう言うのは聖女の女。
「そうだ。勇者として盗賊に負けっぱなしというのは汚点だ。ここはどちらが上かもう一度ハッキリさせるべきだろう」
赤髪の、剣聖と呼ばれるほどの腕を持つ女もそう口にする。
そして
「クロイツはまだ許してくれますよサーガさん」
サヤもそんなことを口にしていた。
会話するのもアホらしいな。
「逃げるか?盗賊」
「………」
「怯えているな?前のはまぐれだものな!幸運は二度は無い。いいんだぜ?逃げても」
「くすくす………盗賊が勇者のクロイツに勝てるわけないんだから」
聖女が勇者の左腕に手を絡ませる。
「私の幼馴染もかっこいいクロイツに楯突いて自慢の足を切り落とされて死んだ。盗賊?あなたもここで命乞いをした方がいいよ」
お前よくそんなことをするような奴の近くに居れるな聖女。
「………」
「そうだ。クロイツに勝てるわけが無いぞ盗賊。君は今ここで降伏すべきだな」
剣聖もどうやら俺が勝てるとは思っていないらしい。
しかしここは戦わない。
何を言われても戦わない。
「リディア、エルザ、やめてやれ。相手は薄汚い盗賊だぞ?」
「まぁ、そうだったわね。私としたことが」
「確かに盗賊が勇者に勝てるわけないからな」
「そ、そうですよ!命乞いした方がいいですよ!」
サヤがそう言った後四人でクスクス笑い始めた。
「………」
無言で後ろを向くと王都に向かって歩き出す。
「逃げるか盗賊!お前に未来はないぞ!いつか殺す!ハーハッハッハッハッ!」
そう笑っているクロイツの声が後ろから聞こえた。
※
夕方俺たちはギルドに戻ってきた。
「スライムの討伐を………た、確かに確認できました」
俺達が依頼をこなしたことをギルドの職員に伝えると彼女は目を丸くしていた。
「で、でも何ですか?この数は」
「少なかったか?」
依頼にあった数は確認していないな。
適当に討伐しただけだからもしかしたら少なかったかもしれない。
「少ないなら出直そう」
「い、いえ!そういう訳ではなくて………依頼に書いてある数は3ですよね?………何ですか?!この50匹って!」
どうやら逆に多かったらしい。
その言葉でギルド内は騒がしくなった。
「スライム50匹だと?!」
「Eランクが50匹ってどういうことだ?!」
「俺の頃は1匹倒すのもひぃひぃ言ってたのに!」
俺たちの周りに冒険者が集まってくる。
「お、おい!何だよ50匹って。どうやったんだ?!」
「有り得ねぇよ50なんて!お前それサブカードじゃないのか?!カードを変えるってお前何したんだよ」
サブカード扱いされ始めた。
そうだな。その線で進めた方が1番面倒ごとにならないかもな。
「い、いえ、この人は間違いなくメインカードです」
なのにギルドの職員がそんなことを口にした。
「この人に似た人がカードを取得した記録はありません。今盗賊で登録されている方の少なさを考えたら人目を避けてサブカード取得なんて凄く難しいです」
「な、何?!じゃあこいつは本当にEランクなのか?!」
「は、はい!」
「すげぇじゃねぇか!坊主!」
ガタイのいい男に肩を組まれた。
面倒な事になりそうだな。
「これは期待出来る新人だなぁ!こんな奴久しぶりに見るぜ!お前ら宴だ宴!酒持ってこい!」
「へい!親分!」
何故か宴をするらしい。
「ダーリンもパリピデビューしちゃうの?♡」
勘弁してくれ。
そんな事を思うのも無駄らしく親分と呼ばれた男の指示でギルド内に酒類や食事が持ち込まれ始めた。
「さぁ!食え飲め!坊主!俺様の奢りだ!」
「………」
はぁ………こんなこと好きじゃないんだがな。
さて、どうするか。
色々考えるのも無駄らしい。
「ウェーイパリピウェーイ♡ダーリン行こうよー、鬼やばーテンションアゲアゲなんだけどー」
ビクティに手を引かれて俺は料理の並んでいる方に連れていかれることになった。
そして
「見たことも無い料理がいっぱいです」
ルゼルも目を輝かせていた。
そうだな。乗り気ならば仕方ない。
「分かった。世話になっていこうか」
「パリピウェーイ♡」
「ウェ、ウェーイ?」
ルゼルとビクティが先に料理を取りに行った。
俺はと言うと親分と呼ばれた男にまだ捕まっていた。
「よう、坊主お前見ない顔だな。名前なんて言うんだ?」
「サーガ」
「サーガか、いい名だな。俺はカイサ。気軽にカイサって呼んでくれや」
「………それより何故宴を?」
俺なんかのために開いても湿気るだけだろう。
本人はこれだ。
ビクティには見抜かれているようだが、他には何故かクール系として見られているだけの陰キャだ。
一緒にいてもつまらんだろう。
「俺がお前を気に入ったからだよガハハ!!凄いことをしたのに誇ろうとしない!俺はお前が強者だと思ったからだ」
肩を組んでくるカイサ。
「おおぉぉぉ!!!カイサさんに気に入られてるぜあのガキ!」
「すげぇな!あのカイサさんにか?!」
周りの会話を聞くとどうやらカイサという男に気に入られるのは光栄なことらしいな。
まったく………面倒な事になったが。
「おら!飲めやサーガ!今日は飲もうぜ!」
たまにはこういうのも悪くないかもしれないな。
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