6話 頼もしい協力者
王都に向かう道を三人で歩いていた。
「そう言えばさぁ、勇者どうなった系なんだろうね」
「………」
またその話か。
「ごめん………」
「いや、俺も気にし過ぎた」
そう言うと俺は千里眼を使った。
ふむ。
「療養中だってよサヤの家で」
目を丸くするビクティ。
「どうした?」
「いや、普通に今の一瞬で見て状況理解出来たの凄いなぁって、まじやばじゃね?激ヤバ鬼プンプン丸エクストリームじゃん」
「別に普通の千里眼だ」
「普通の千里眼を使える人はそんなに居ないと思うんですけど!」
奴隷の少女がそう言ってきた。
「てかさてかさー」
ビクティが俺の瞳を覗いてくる。
「ダーリンって逆に出来ないことあるの?」
「………」
「だんまり?」
つまらなさそうな顔をするビクティ。
できない事か………おそらく無い。
意図してやらないようにしていることはあるが。
「そんなことどうだっていいだろ。それよりも先を急ごう。俺達はまだ活動拠点すら定まってないからな」
「うっは、何とかなるっしょ」
「……」
いや、ならないだろ。
そんなことを思いながらビクティじゃなくて奴隷の少女に目をやった。
「名乗ってなかったな、サーガだ」
「わ、私めはルゼルという名前です!」
ビシッと立ってそう挨拶してくれた黒い髪に赤い目の彼女。
ルゼルか覚えておこう。
※
俺たちは王都までやってきた。
「ねねダーリンダーリン♡」
腕を組んでくるが無視だ。無視。
「まじやばじゃね?あっち猫いるよ猫!猫人間!見て猫猫猫猫!きゃーきもかわー」
何回も言わなくても分かってる。
「てかさダーリン何でそんなにテンサゲなの?テンアゲでいこうよー私らパリピだし笑」
「………」
それはお前だけだよ。
ルゼルを見ろ。
静かだぞ。
そんなことを思いながらも目的の場所までやってきた。
服屋だ。
「うぉーシャレオツなお店じゃん何ここすげーまじテンアゲだわ私らズッ友フレンズだよ♡」
いつものことだが常温で愉快に沸騰しているらしい。
「………」
無言でビクティの顔を見てからルゼルに視線を送った。
長い付き合いだ。これで何を言いたいか分かるだろう。
「おけまる!まっかせてー私の究極シャレオツパワーでルゼっちを究極モテモテパーフェクトガール完全体に仕上げるからねウルトラ!♡」
今ので俺の言いたいことは伝わったらしいが俺がこいつの言いたいことはイマイチ分からない。
服を選んでくれるのだけは分かるが。
やはりビクティ語は難しいな。
長い付き合いだが所々しか分からない。
「さっ!れっつごールゼっち」
「る、ルゼっち………」
「ん?だめぽ?ルゼっちのあだ名だめぽ?」
「い、いえ、こんな私にあだ名をくれて嬉しいです」
「よし、突撃するぜぇ!にゃー!!!!!」
服屋に突っ込んでいったビクティ。
ふぅ………ようやく一息付けるか。
そう思っていた時だった。
「よう。何百年ぶりだよファントム」
燃え盛るような赤髪をツンツンに立たせた男がいた。
こいつを俺は知っている。
魔王軍四天王の一人ハンニバル。
「………」
「相変わらず無口なやつだな」
「………何の用だハンニバル。俺は最早人間サイドだ。お前らの邪魔をするつもりはない」
壁に背を預けて聞き返す。
「いや、千里眼で見てみたらエラく湿気た面してたからよ」
「思い切ったな」
こいつが警備に気付かれずここまでこれたのは装備で魔力を抑えていたからだ。
一歩間違えれば自殺行為。思い切ったものだ。
「いやぁ、かつて次元最強の座を欲しいままにして、世界を恐怖に陥れたファントム様がそんな面してるから気になってよ」
「………」
「何があったよ?暇だし相談乗るぜ」
「………」
「女関係か」
「………」
テレパシーでも持ってるのか?
「俺は知ってるぜ盗賊の神様よ。大天才の盗賊のお前にも一つだけ手に入れられないものがあった。それは何か理解しているか?」
「………」
「女だよ。ひはは」
笑うハンニバル。
「実はな監視してたんだよ。人間に1人だけすげぇやべえのがいるわぁって。そしたらお前だったってわけ、それでよ。調べたわ色々、ちなみにお前だと気付いた頃には強すぎて時すでに遅しだった」
ストーカーかお前。
というより調べたのならさっきの女関係か?ってのもドヤ顔で言うなよ。
「寝取られたんだな」
「………」
「お前今魂飛びかけたな」
現在進行形で飛びかけだ。
「俺がいい方法教えてやるよ。お前あの勇者生かしてるってことはまだ絶望を刻み足りないんだろ?」
そう言って俺の耳元で作戦を囁くハンニバル。
「………」
「どうよ?俺の作戦。あの勇者が何処まで耐えれるか試してみようぜ。俺も協力してやっからさ。勇者うぜぇんだよな、人の庭嗅ぎまわってよ」
悪魔の囁きだった。
こいつの言ったことを実行すればあいつへのこれ以上ない復讐ができる。
それにこいつと組めば色々なことができる。
それこそ俺が国民の支持を受けながら盗賊の身であいつ以上の英雄にもなれるし逆にあいつを地獄にも落とせるか。
「奪われたなら10倍いや、100倍にして返す。お前がいつも言ってたことだぜファントム。それが盗賊なんだろ?神様よ」
拳で俺の胸を叩いてくるハンニバル。
「お前が何を選ぶか俺は楽しみにしてるぜ」
そう言って去っていった。
そうだな。奪われたなら奪い返すのがいいか。
「………」
とりあえずルゼル達の様子でも見に行こう。
「おおお!!!めっちゃ似合うじゃんルゼっち!」
「そ、そうですか?」
2人の居場所はすぐに分かった。
1人すごい煩い奴がいたからだ。
「鬼やばだよ!鬼かわ鬼かわ!これならダーリンも即落ちっしょ♡」
「そ、そうですかね………だと嬉しいです」
「今すぐ夜這いしても許される可愛さっしょ、ってか今日一緒にしようよ♡、あ、ダーリン」
ようやく俺に気付いたらしいビクティ。
「開けていい?ルゼっち」
「え?サーガ様来てるんですか?はわわわ………」
何やら慌てているらしい彼女だが。
「行くっきゃないっしょ!」
ビクティによってカーテンを開けられた。
そこにいたのは年相応の可愛く綺麗な服に身を包んだルゼルの姿。
「ど、どうですか?」
「………」
俺は瞳を閉じた。
「だ、ダメですか………」
「いや、よく見てルゼっち」
「あ、右手の親指が1本だけ立っています!」
「鬼やばプンプン丸いいじゃん合図だよ!やったじゃんルゼっち!」
そんなやばそうないいじゃん合図じゃないが瞳をあけた時に映ったルゼルの笑顔でそんなものはどうでもよくなった。
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