64話 最後の四天王
翌日クロイツの処分を検討するための会議が行われていた。
前と同じく10人程度の王様とその後ろに護衛が控えている。
そしてこの場には
「ひ、ひぃいい………もう………ゆ、許してください………俺は………全部無くした………もういいでしょ………許してください………」
ヴァリスに拘束されたクロイツがこの場にいた。
そして全員の視線がこいつに向けられていた。
俺と同年代くらいと思われる1人の護衛がクロイツに向かっていく。
「今まで散々好き勝手してくれたな?」
そうしてクロイツの胸ぐらを掴みあげる護衛。
「ひ、ひぃぃ………」
「お前のせいで!お前のせいで!」
顔を殴り始める護衛。
誰も止めようとしない。
「死ねよ!死ねよ!内蔵ぶち撒けて哀れに死ねよ!このゴミがァァァァ!!!!」
「ひ、ひぃいい………!!!」
何度も何度も殴られるクロイツ。
殴っている側の拳も既に相当赤くなっていた。
「お前のせいで妹は自殺した………お前の汚い手で触られて死んだよ」
「………もう………ゆる………」
最後に1発また殴られるクロイツ。
その後に護衛は剣を引き抜いた。
「妹の仇ここで取らせてもらう」
「も、もう………やめれくれ………いちゃいんだ………」
呂律も上手く回らないというより歯が何本も折れており上手く喋れないようだ。
「哀れに惨めに死にさらせよゴミが!」
護衛がクロイツの腹に剣を突き刺し横に引き抜いた。
「げふっ!」
口から盛大に血を吐き出して倒れるクロイツ。
「くそが………」
倒れ込んだクロイツの頭を踏みつける護衛の男。
「お前の怒りは理解できる。しかし、ここは他国の、それも王城という神聖な場だ。これ以上血で汚すな」
護衛の主と思われる初老の男がそう声をかける。
「はっ………シド王失礼しました」
「構わない。勇者だから、とこいつを放置していた俺にも問題がある」
そう言って立ち上がると蘇生したクロイツの髪を掴んで俺たちを見回すシド王。
「もう………許して………」
泣いているクロイツだが誰も許すやつはいない。
「他にこいつに恨みがあるやつはいないか?今日だけは特別に何度でも何度だって殺させてやる」
「ひ、ひぃぃいい!!!!」
ジタバタするクロイツだがそれを許さないヴァリス。
その後誰も手を挙げなかった。
今の一連の流れを見て溜飲が下がったのかもしれない。
「皆には我慢させたと思う」
そう言って頭を下げるシド王。
「俺の落ち度だ」
「シド王顔を上げてください。皆で決めたことじゃないですか」
「そうですよ。シド王。皆魔王の脅威に脅えており、この勇者に頼るしか方法がなかったのですから仕方ないですよ」
ここに集まった王様達がそう声をかける。
「気持ち的に楽になった。感謝しよう」
そう言って頭を下げるシド。
「クロイツの醜態を見せた後に非常に言いにくいことなのだが、俺はここにいるサーガを次の勇者にしようと考えている。どうだろうか?」
シドが全員の顔を見て問いかける。
誰も反対はしない。それどころか
「サーガ殿はとても腕が立つと伺っております。それに勇者の剣に己が力を認めさせました。不足は無いと思います」
「私も同意です。むしろサーガ殿を除いて誰が魔王を討伐できましょうか」
俺を歓迎するような声が多かった。
「感謝する。これからもある程度の協力はサーガにしてやってくれると嬉しい」
そう言ってシドが頭を下げた。
「集まってくれて感謝する。これからはクロイツの処分について話し合う。サーガお前は帰ってもらって構わないぞ」
「分かりました」
帰っていいならもう帰ろうか。
こいつの処分など聞かなくてもロクな事にならないのは分かる事だし。
そう思っていたが
「ま、待ってください………サーガさん………」
慌てた様子で俺の方に来るクロイツ。
転けながらも何とかやってきた。
「た、助けて………もう無理ですよ………耐えられない。サヤは俺のことを忘れて………俺は何もかもを失った………もう………許してくださ………い」
「死も、来世も全てを奪った俺からお前へ、1つ贈り物をした」
「へ………?」
若干顔に希望を表すクロイツ。
「逃れられぬ絶望を」
告げた瞬間顔を真っ青にするクロイツ。
「一生その肉体で死に続けろ。嫌になって自殺しても復活するだけだ。無限に━━━━苦しみ続けろ。それが俺からの最初で最後の贈り物だ」
「そ、そんな………」
崩れ落ちたクロイツを横目で見て部屋を後にすることにした。
※
待合室に残してきた一人を迎えに来た。
「サーガ様!待っていましたわ!」
これから行く場所もなくなったシャーロットを引き取ることにした。
「ゴタゴタしたせいで遅くなって悪かったな」
「と、とんでもないですわ!私はサーガ様といられるだけで幸せ者なのですわ」
そう言って俺の腕を掴んでくる彼女。
「それと勇者就任おめでとうございますですわ!これからも私はサーガ様をお支えしますので!」
「それは助かる」
そう口にしてシャーロットと家に戻った。
みんなを家で待たせている。
「聖女様歓迎会なんですね」
サーシャがそんなことを言い出した。
そして前に聞かされてきた戦闘BGMを何故か流し始めた。
「私は閃光のサーシャです。よろしくお願いしますね一般人さん………ふひひひひ」
不気味な笑い方でそう自己紹介を始める彼女。
相変わらず愉快に沸騰している。
だがそれを皮切りにみんな自己紹介をしていった。
心配せずとも直ぐに仲良くなりそうだな。
「………」
1人離れてソファに腰を鎮めた。
何故かドッと疲れが出てきたのだ。
眠い。
このまま瞳を閉じれば寝そうだ。
※
その夜俺は魔王城の方まで来ていた。
「ひははは、よく来たなファントム」
「ほんとよね〜んルーちゃん。相変わらず可愛くて食べちゃいたいくらい☆」
「久しぶりだな」
視線はハンニバルにだけ向けてそう返事をする。
この場にはハンニバルしかいない。
そう言い聞かせる。
「俺を呼び出したのは何故だ?」
「魔王様がファントムと話したいらしくてな」
そう説明してくれるハンニバル。
なるほどな。
「よく来たのじゃルーヴィス」
その時話題の人がやってきた。
「話ってのは?」
「長くなるかもしれないが構わんか?」
「あぁ」
「なら、今から私の部屋にこい」
「あーら魔王様ルーちゃんを独り占めする気?」
「ルーヴィスをそんな目で見ているのはお前だけじゃぞ変態」
そうだ。もっともっと言ってやれ。
「ひははは、そりゃそうだ。本来こいつは好かれる奴じゃないからな、ま、それが今回は面倒な方面に働いているみたいだが」
何の話だ?
そう思いながらも魔王サタンについて行く。
相変わらず魔王の部屋とは到底思えないぬいぐるみだらけの部屋に案内された。
「前に話したな?四天王の内の2人と連絡が取り辛い、と。スノウの方はまだマシだがもう1人の方が本当に連絡が取れないのじゃ」
座りながらそう説明してくれるサタン。
「それがどうしたのか?」
「何だ?私と連絡が取りたかったのか?それならそうと早く言いたまえよ。私からすれば君らなど路傍に転がる小石程度にしか思えないが、呼び掛けには応じるぞ」
その時声が聞こえた。
この世にこれだけやる気のないような声があるのかと思わせるようなもの。
「き、貴様!」
魔王がそちらを向くとボロギヌを1枚纏った男がいた。
裸足だ。一般的な常識が通じるとは思えない。
「久しいなルーヴィス」
男が俺に目を向ける。
その目を見て思い出す。
「お前」
「思い出してくれたか?クククク」
俺はこいつの名前を思い出していた。
四天王最後ってこいつのことだったのか。
占星術師メリオルダス。
そいつがそこにいた。
この変態が出てきたのなら………面倒なことにならないといいが。
少し前のいじめについてですが他のイベントに替えます。




