63話 二度と手に入らないもの
「何持ってるんだ?」
「クロイツとの思い出です」
なるほどな。
サヤはそう答えた後に手に持っていたアクセサリーのようなものを捨てた。
「お前あいつの事どう思ってたんだ?あいつが何してたのか知ってるんだろ?」
「………知ってました………昨日虐められて気付きました。凄く痛いんですね………私………何であんな男なんか………馬鹿ですよね」
「反省したのか」
「しました。罪を償います」
「そうか」
頷いて歩き続ける。
「サーガさん!」
貧民街から出ようとした時声をかけられた。
貧民街の連中だ。
「そいつを殺らせてください。俺らの腹の虫が収まらないんですよ」
「そうですよ!サーガさん!そいつが勇者を調子に乗らせて!」
俺の後ろに隠れてくるサヤ。
「サーガさん退いてください」
「悪いが退かない」
「どうして?!」
「お前ら殺すつもりなんだろ?それはさせない。もう反省してる」
こいつ自身はリディア達と同じで一線は越えていない。
反省しているならそれでいいだろ。
「お前らの怒りも分かるけど堪えてくれ」
「わ、分かりました」
そう言って下がっていく。
「戻るぞ」
今度こそ手を引いて家に帰ることにした。
※
「奴隷さん?!奴隷さん?!本日のお仕事の時間なんですけど?!」
その言葉が聞こえた瞬間ビクッとするサヤ。
体が震えていた。
サーシャが現れた。
「本日の業務」
「もういいだろ」
立ち上がってサヤを庇うように立つとサーシャにそう声をかける。
「やり過ぎだ」
「で、でもです!この人ダーリンさんを傷付けましたよね?!私の恩人を傷付けたんですよ?!こんな程度の報い当たりま」
サーシャの目を見て答える。
「今日俺が途中からいなくなったのは知ってるな?こいつを観察していたからだ。それで分かったが、昨日の事でもう十分反省してる」
「………」
「お前がそれだけ俺のために怒ってくれてるのは嬉しいけど、やり過ぎだ。こいつが何をした?精々俺をバカにした程度だろ?それ以上のこと、勇者みたいに本気で俺を殺そうとしてきたか?外道みたいな考え方ではあったが、外道の道に完全に落ちたりはしてないだろ?」
少なくとも俺の知っている限りこいつはクロイツと違って一線は越えていない。
「で、でも」
「こいつの事が気にいらないなら無視程度に留めておけ。これ以上何かするつもりなら止める」
「優しすぎますよ。いつ裏切るか分からないんですよ?」
「それがなんだ?やり過ぎていい理由にはならないだろ?」
ビクビクしながら俺の袖を掴んでくるサヤ。
「今日は何をさせるつもりだったんだ?」
「………」
「答えられないか?また酷いことさせるつもりだったのか?頼むから我を忘れてこれ以上勇者と同レベルまで落ちてくれるな」
俺は既に落ちてるけどお前らまで落ちる必要なんてないだろ。
「サーシャだけじゃなくて勿論他の奴らにも言えることだ。もうこれ以上やりすぎるな」
そう言うと申し訳なさそうな顔をして、俺ではなくサヤに頭を下げた。
「ご、ごめんなさいです。確かにやり過ぎてしまいました。本当に、ごめんなさい。私も虫食べます」
「い、いえいえ!そんなことしなくても!」
そう言うとサーシャは表に向かおうとしていた。
「まさか本当に食うつもりか?それならせめて火を通しておけよ」
「これが私なりのケジメです。心の汚れた私ではダーリンさんの横には立てませんよね?」
そう言って珍しくマトモな頭で部屋から出ていった。
頭に虫が寄生しないといいが。
もしやばそうなら魔法で何とかすればいいか。
「………」
サヤが自分の体を自分の腕で抱いた。
「私は勇者パーティに加入できて舞い上がってました。人を自分より上か下かでしか判断できなくなっていました。再会した時サーガさんのことも下僕にしようかな程度にしか考えられませんでした………こんなに悲しいんですね………」
そう言って涙を流し始めるその時
「ちょりーっす」
ビクティが入ってきた。
「………ちっ………」
舌打ちしてサヤに目をやるビクティ。
「ごめん」
そうして直ぐに謝った。
「え?」
驚くサヤ。
「寝て考え直した。酷いことしたって。ここであんたをボコボコにしたらあんたみたいなのと同格に落ちるって」
そう言ってサヤを見る彼女。
「だからお相子。ビンタしていいよ。感情的になってごめん」
「あの時に目覚めてたら良かったです………」
涙をポロポロと零し始めるサヤ。
相当後悔しているらしいな。
「最初にビンタされた時………勇者パーティなんて抜ければ良かったです………そうすれば………まだ………幸せだったかもしれないんですから………もう私の横には誰も立ってくれないんですから………一生嫌われ者です………私は本当にバカです」
崩れ落ちた。
その泣き声が聞こえたのかシーラやリトルも入ってきた。
そうして
「ごめんなさい」
「ごめん」
2人も謝罪する。
「貴方と同格にだけはなりたくなかった」
「私もです。ごめんなさい。昨日酷いことして」
「気にしないでください。私が悪いんですから」
そう言って立ち上がるサヤを見ると2人は部屋を出ていった。
でもまた力なくしゃがみこんでしまった。
「反省したん?」
ビクティがしゃがんでサヤと視線を合わせた。
「は、はい………これからはクロイツに不幸にされた人達の助けになれたらなって思ってます」
昨日のことが相当効いたか。
ようやくクロイツのしてきたことを理解したのか。だが、遅すぎたな。
「そか」
頭をポリポリかいてから手を差し出すビクティ。
「なら、お友達に戻ろっか」
ニコッと笑ってそう口にした。
「え?」
「あんた反省してるみたいだからお友達に戻ろっかって、ダーリンは多分友達に戻るつもりはなさそうだから、私だけでもなってあげよっかなって。1人だと辛いっしょ?」
「い、いいんですか?昨日はあんなに………」
「世界中に嫌われて行く場所なくなってさ。あたしらのラブラブモード見せられてそれだけでもゲロイツ!って感じだと思うし、そんなの救いないじゃん?だからあたしだけでも友達になってあげようかなって。あんた一応幼馴染だし?それでさ、みんなに許してもらえるように頑張ろうよ」
ポカーンと口を開けるサヤ。
いい幼馴染を持ったなお前。
「ビクティさん………」
「泣くなし。泣かせたみたいじゃん」
おじゃま虫かもしれないな。
先に出ていこう。
※
その夜ルゼルを連れて部屋のベッドで話をしていた。
「あ、あのーゴミを回収に来ました」
「そこにある」
「あ、あのサヤ様」
ルゼルが名前を呼ぶ。
「は、はい?」
「その、昨日はごめんなさい」
「い、いえ、気にしないでください」
ルゼルにはサヤが奴隷関係について関わってないことは伝えた。
そうしたら謝りたいと言い出した。
「奴隷生活が辛いのなんて自分が1番分かってるのにこんなことしちゃうなんて最悪ですね………」
「私も今とても辛いです」
そう言って涙を流し始めたサヤ。
「浮かれてクロイツと付き合わなかったらここまで歪むことはありませんでしたし、サーガさんとの未来を失うこともありませんでした」
また崩れ落ちる彼女。
「こんな私を庇ってくれるくらい優しいサーガさんを、皆さんを………目先の考えだけで逃しちゃうなんて………ほんとに馬鹿でした。もう………この先幸せになんてなれないんでしょうね。皆さんの幸せそうな生活だけを見て………私は輪に入れずに死んでいくんでしょうね………本当に………馬鹿でした」
「そ、そんなことないですよ」
ルゼルがフォローに入る。
「サーガ様は優しいのですから頑張ってればきっと見てくれてますからそんな事言わないでください、ね?」
「ひっく………ぐすっ………」
悪いが俺の方のお前への熱は完全に冷めた。
もうないだろうな、そんな未来は。
お前を引き取ったのはお前が勇者のような悲惨な死に方をするのを避けるためだ。
ただそれだけなんだからな。
救済しないルートです。
予定通りこちらで進めます。




