【救済ルート】 次元最弱の盗賊
救済ルートです。
とりあえず人の少ない宿までサヤを連れてきた。
家に戻るのはまだやめておきたかった。
「………」
「それ、何なんだ」
彼女がずっと手にしてる物について聞いてみた。
「メ、メモリアルストーンです」
「大切なものなのか?」
「はい」
そう言うと彼女は古そうなメモリアルストーンを起動した。
宙に投影されるのは予想外のもの。
こいつ………こんなものまだ持ってたのか。
とっくに捨てたんだとばかり。
「………」
言葉が出なかった。
「もうクロイツもいないので、今だから言いますけど訓練で頑張れなかった時とかはこれを見て頑張ってたんです。サーガさん覚えてくれていますか?私がそ、その、『お嫁さんにしてください』って言った時のものです。サーガさん、わずかに頷きましたよね?証拠に撮っておきますねって言ったの覚えてますか?」
「………」
その言葉には答えずにただ俯く。覚えているに決まっている。
俺は逃げていた………。自分が傷つかないように逃げていた。
俺が彼女を憎みきれなかった理由はきっとこれだ。
俺自身の逃避。
俺は逃げていた。
過去を知ることから逃げていた。
自分の心が一番可愛かったんだ。
「………悪かった。すまなかった」
サヤを抱きしめて直ぐに離した。
「ど、どうしたんですか?」
「悪かった、全部俺のせいなのかもな」
ここで全部精算しよう。
弱い自分とはさようならをしよう。
知ることで俺は傷つくかもしれないけど。
でも………知らなければならない。
もうやめる。逃げるのはやめる。
「サ、サーガさん………」
俺は魔法リードで彼女の記憶を読み取る。
これまで経験したこと。
思ったこと全部俺の中に流れ込んできた。
こいつ………心の底ではまだ俺のことを………。
同時に怒りが湧き上がってくる。
無能で心が弱くて、過去を知るのが怖くて現実から逃げ回っていた俺とあのダニ以下の勇者に。
こいつの今までの態度も、そういう意味があったのか。
自分の足で立っているような、でもそうでないようなあの言動。
自分で考えているのかそうじゃないのか。
「くそ!」
思わず壁を殴りつけた。
なんて無様なんだ俺は。
誰よりも弱い無能は俺じゃないか。
自分の無能さに涙が出てきた。
「ど、どうしたんですか?」
「やり直そう………全部」
そう提案する。
もし許されるのなら俺はやり直したい。
「やり直す………ですか?何をですか?」
「あぁ。お前が望むのなら………俺はあの時からお前との時間をやり直したいと思ってる。何度も断った俺が何を言っているんだって感じかもしれないが」
あの時お前を見送ったあの瞬間からだ。
やり直したい。
「お前の横に立っていたのが俺じゃない。そんな現実認めない認められるわけがない。だからこそお前を避けていた。でも、もうやり直そう。あの時から」
「ごめんなさい!サーガさん。私も全部言えなくてごめんなさい!」
俺に泣きながら抱きついてくるサヤ。
「辛かったんだな。悪かった来れなくて」
「ごめんなさい。私こそ何も言えなくて。殴られるのが怖かったんです………だから私はあいつのお嫁さんを演じました。そうすれば穏やかでいられますから」
王都の訓練は本当に苛烈なもので辛いものだった。
その彼女の思いが痛いほどに伝わってきた。
そしてそんな時に出会ったのがクロイツだったこと。
あいつは最初から見た目だけでサヤに近付いてきたらしい。
可愛いやりたい、それだけの理由で近付いてきて。
自分のものにならなければ俺を含めた村人を殺すぞと脅されて、俺を守ろうとして、それで逆らえなくて全部許して………あいつだけが自分の中の全てになっていたこと。
そして俺との約束を破ってまで取り付けられた婚約の約束。
本当の自分が俺に嫌われるのが怖くてずっと偽物の自分を演じていたこと。
「やり直すか?全部」
「どうやって、ですか?」
「お前だけの時をあの日あの時間に戻す。やり直そう全部」
あの時、サヤと別れた時まで戻す。
まだ何も知らなかった無垢なあの時間まで。
「お前のこれまでの時間を全てなかったことにしてしまう。でも、お前が望むなら」
そう言うと涙を流して俺に抱きついてくるサヤ。
「お願いします!こんな記憶いりません!あんな男の言いなりになっていた過去なんていりません!私を助けてください。心が弱くてごめんなさい」
改めて謝罪してきた。
「俺こそ、悪かったな」
そう言って魔法を使う。
━━━━時戻し。
幻の属性と呼ばれる時魔法の中でも最難関と呼ばれる魔法。
「もう嫌なことは全部忘れろ」
耳元でそう囁く。
「はい。空白の時間、これからの時間をサーガさんで埋めてください」
彼女は泣きながら満面の笑みを浮かべる。
※
何年もの時間を巻き戻した。だからそれなりに小さくなっている。
俺はサヤを連れて自分の部屋に向かう。
「んん………」
ベッドに寝かせたサヤが起きてきた。
記憶はあの時で止まっている。
「あ、あれ………サーガさん?私は………って何でここにいるんですか?!って何処ですかここ?!」
「実は俺には勇者としての適性もあってな。だからこっちにきた。この家はその時に借りたものだ」
適当に理由を作った。
色々と疑問もあるだろうが今はどうでもいい。
また後で話せばいい。
「そ、そうなんですね」
2人きりの空間。
どちらも無言になってしまう。
「あ、その………」
何か言いかけたサヤだが先に俺が動いてしまった。
「ど、どうしたんですか?」
「悪い。じっとしてろ」
そう言って俺はサヤを押し倒した。
これまでの出来事を忘れるように、そしてこれまでの空白を埋めるように俺は彼女を愛することにした。
これからまた激しい訓練が待っているのかもしれない。
でも、今は俺がいる。
なんとでもなるだろう。
今はただサヤを愛するだけだ。
何度も何度も。
今日は一旦ここまです。
ブックマーク評価などありがとうございます。
いつもお読みくださってありがとうございます。
励みになっています。
こちらのルート需要なければこれで終わり、今のクズ設定で救済しないルートで続けようかと思います。




