61話 サーシャ達の恨み
サヤにかけていた魔法を解除した。
こいつはもう用済みだ。
勇者から最後に奪ったもの。
それがこいつ。
それにしても記憶が失われて自分から徐々に離れていくサヤを見て日に日に強くなる不安を顔に浮かべる勇者は最高だったな。
「あ、あれクロイツは?て、どうしてサーガさんが私の横に」
そう言っているがシドが先に口を開いた。
「賢者サヤ。貴様の身分剥奪が決まった」
「え?」
「お前が特段何もしていないことは聞いてはいるが、我らのサーガを傷付けたという話は聞いている。不敬罪だ。それなりの罰を受けてもらうことになった」
「ま、待ってください!何なんですか?!我らのサーガって………」
「聞いていなかったのか?勇者はクロイツからサーガになった」
「………??????」
首を捻って言葉を呑み込めないような表情をするサヤ。
「勇者はこれから重い罰を受ける。会えると思うな?」
「そ、そんな………」
「同時に貴様はクロイツを支持していた。この国で快適に過ごせると思わない事だな。今日からお前は勇者を支持していた馬鹿女としてロクでもない道を歩むことになるだろう」
「………」
「地位に溺れたな?力を得て舞い上がっていたか?賢者」
「そんな………」
その場で崩れ落ちるサヤ。
一言言ってやることにするか。
「俺の奴隷になるのならお前を救ってやらないこともないがな。何がお友達に戻りましょう、だ?直ぐに裏切るお前と同格になど戻りたくない」
「サーガ奴隷は認めていない」
「例えですよ」
そう答えてからどうなんだ、と視線を送る。
「嫌です………幼馴染をそんなに酷い目に合わせるんですか?」
「先に仕掛けてきたのはお前だろ?俺がどれだけお前の帰りを待っていたのか分かってるのか?村人にグチグチ言われてもお前の帰りだけを待ち続けた俺の気持ちが分かるのか?」
「………」
拳を握り締めるサヤ。
何も言えないようだ。
「賢者、お前には特段罰を与えるつもりはない。勇者は不死身になり、これから未来永劫死に続けることになるだろう。そんな奴を支持していたお前、マトモに生きられると思うなよ?」
「………そんな………どうして………どうして………」
崩れ落ちるサヤ。
涙を流し始める。
「辛い訓練に耐えて来ました………仲間を何人も失いました。その果てがこれなのですか?!」
「クロイツに殺された奴らもそう思ってるだろうな」
シドが嫌味ったらしくそう口にした。
「それよりも記憶は大丈夫なのか?勇者の話ではかなり忘れていると言っていたがお前は今の話を理解出来ている」
「記憶………?」
首を横にひねるサヤ。
「………ここ数日の記憶がありません………どうして………」
「なるほど記憶喪失のフリをしていた訳だな。勇者の不利を悟って行動したのは賢いが………お前はやはり馬鹿だ。あの勇者を切り捨てていればこんな事にはならなかっただろう。サーガのパーティに入ったリディアやエルザは今や英雄扱いされているのにお前は最後まで地位に拘った馬鹿として評価されている」
サヤの顔に絶望が浮かぶ。
「なっ………どうして………2人も勇者パーティだったのに………」
「勇者絶対という風潮の中勇者の言うことを無視して反逆してパーティを抜け出す。中々できることでは無いし、それを早くにやり遂げたのだ。お前とは違う」
サヤの顔に焦りや絶望だけが浮かんでいく。
その時ビクティ達が合流した。
「あれ、ビッチこんなところにいたんだ」
ビッチみたいな見た目をしたビクティにそう言われるサヤ。
「最後まで勇者の近くにいた馬鹿女もいるじゃん、臭いからこっち来ないでくれる?つかダーリンと同じ空気吸わないでくれる?(笑)あの汚物と絡み合った口で発する言葉と息をダーリンのいる世界に放たないでね(笑)早く死ねば?(笑)」
「そうですよね。ダーリンさんは何度もチャンスを与えてくださったのにそれを尽く棒に振るその頭の弱さ死んで治した方がいいかもしれませんね」
ビクティに続いてサーシャがそんなことを言いながら見下す。
「………」
ルゼルは無言で俺の前に立って見下すだけ。
「………ビクティさんには分かんないですよ………私がどれだけ………頑張ったのか………」
「はぁ?」
どうしていいのか分からないのか笑いながら涙を流し始めるサヤ。
「同じ村で………育って同じ人を好きになって………どうして結末がこんなに違うんですか………」
「えー何?悲劇のヒロインぶってるのー?あんたが好きになったのあのド外道ゴミじゃん(笑)。あんたと同じにされるなんて心底ムカツクンデスケドー?」
「どん底にいた私にクロイツは手を指しのばしてくれました………好きになって何がダメなんですか………そんな人が多少悪さしてても盲目になってしまうに決まっています………」
「ばーか頭わりぃ、死ねば。多少じゃねーし」
もう会話するのも馬鹿らしくなったのか俺だけに目をやるビクティ。
リディア達は若干同情する部分もあるのか何も言わない。
「貴方にはお似合いの末路ですね」
そこでルゼルが初めて口を開いた。
「私は奴隷ですので分かりますが本当に貴方達みたいな人が憎いです。私の両親も奴隷となって売られ惨めに死にました。全部あなた達が殺したんです。そんな人殺し、それに関わる人達惨めに死んで当然でしょう?貴方も惨めに死んで下さいね。自分を支えてくれるなら誰でもいいんでしょう?惨めに汚い部屋で殿方を悦ばせてそのまま腐るように死んでしまってくださいね」
それを受けて完全に泣き崩れるサヤ。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!違う!違うんです!何かの間違いです!これは夢です!!!」
クロイツと同じことを言い出した。
もう知らない。
俺はビクティ達に声をかけてその場を去ることにしようとしたが。
「ま、待って………ください………サーガさん………私が悪かったです………ごめんなさい………本当にごめんなさい………」
ようやく謝ったか。
しかし遅い。
「………」
黙って振り向く。
「私を………奴隷にして下さい。怖いです………これからの人生が………何をされるのか………」
そう呟いたサヤの頬をビンタするビクティ。
「何言ってんの?さっきその口から吐き出す言葉をダーリンの耳に入れるなつったよね?!まじで息しないでくれる?死んでよ?惨めに」
「………どうして………」
「どうしてじゃねぇしあんたが悪いんでしょ?誰だって切れるよ?!いいからあんたは汚いおっさんの相手でもして泥水啜って生きてればいいじゃん(笑)何普通の人生送れると思ってんの受けるー」
そんなことを言っているビクティだが俺も口を開くことにした。
「いいだろう。だがその言葉忘れるなよ?」
「「「え?!」」」
反対の声もあったがこれでいい。
※
俺たちは家に戻ってきた。
「さ、サーガさん………」
休んでいるとサヤに話しかけられた。
「虫けらが話しかけるなよ。奴隷になる、その言葉忘れてないな?」
「ひっ………」
「虫けらさんこれやっといてくださいねー」
俺の真似をしているのかサーシャがやってきて何かを渡す。
「な、何ですか?これ………」
「虫けらさん用のお仕事ですけどー?うちのお食事担当が放置してたせいで食材に虫が湧いちゃったんですよねー。処理しといでくださいね。共食いして」
奴隷生活初日から食虫か。
中々ハードだな。
「無、無理ですよ………」
「ならあそこで食べてもいいですよー?虫けらが文句言わないでくださいね?自分が傷つけたくせに、その上優しいダーリンさんに拾われて何で反抗するんですか?それに奴隷でいいって言いましたよね?むしろ感謝してくださいね?虫湧いてますけどちゃんとした食べ物ですからね?」
何を思ったのかサヤは言われた通りに小さな虫が沸いた食べ物を口に入れ咀嚼を始めた。
「ほんとに共食いしましたよ?!ダーリンさん?!」
少し引いているような顔をするサーシャ。
「おえっ………」
吐きそうな顔をするサヤ。
そこに
「あ、ごめんなさい!手が滑ってしまいました!」
「きゃっ!」
サヤの頭に卵が飛んできた。
投げたのはルゼルらしい。
「あー、虫けら様いたんですね。卵お拭きしますね」
そうして彼女はどこからかティッシュを持ってきた。
そして、それで髪や顔を拭き始める。
「ベチョベチョしますね………」
「あ、これサーガ様のあれがついてるからですね。虫けら様には勿体ないものを付けてしまいました!」
そう言って何処かに行って直ぐに戻ってきたルゼル。
「あ、ごめんなさい!転けてしまいました!」
そうして汚れた水の入ったバケツをひっくり返すルゼル。
腐ったミルクのような匂いの染み付いた水だ。
「虫けら様?貴方正真正銘の奴隷ですよね?ちゃんと綺麗にしておいて下さいね?」
そう言って彼女はひっくり返したバケツとモップを渡す。
「………」
唇を震わせるサヤ。
女って怖いな。
俺の何倍もサヤのことをサーシャ達が恨んでる。
だが少しスッキリしている自分もいた。
何が友達に戻りましょうだよ。




