59話 最後の贈り物
庭園に集合した後そこから場所を闘技場に移した。
「王。今日こそこの世界に勇者は俺だけでいいことを証明します。今の俺は最強だ、そこの盗賊を殺しこれまでのうっ憤を晴らします」
そう言って俺に剣を突きつけてくる勇者。
「この盗賊はこの世界に不要。なぜなら勇者である俺が不要と断じたから。勇者の言うことは絶対だ」
あの時以上にノリに乗っているこいつ。
しかしあの時とは決定的に違うことがいくつかあった。
今回は広場などではなくキッチリとした闘技場で決闘することになったこと。
そしてキッチリとした審判がいた。
近衛騎士団団長のヴァリスだ。
そして
「サーガ、思う存分にやってくれ。あいつを付け上がらせるな」
シドは俺の味方で
「サーガ!そんなクズなんてボコボコにしちゃって!」
「そうだぞ!師匠!そんな奴もう要らない!」
あの時勇者を応援して俺を殺せと言っていた、リディアやエルザが真逆のことを言っている。
こいつの味方はいない。
サヤですらも
「何だか分かりませんがサーガさん頑張ってくださーい」
記憶を失った弊害で俺を応援するようになっていた。
勇者とすごした日々をもう上手く思い出せないレベルにまでなっていた。
「殺せぇー!勇者を殺せぇー!」
「サーガさん!俺らの英雄はあんただけだ!勇者を殺してくれ!」
「そうだ!勇者を殺せぇ!!!!」
観客も全員俺の味方だ。
「四面楚歌」
一言呟いてみた。
「四面楚歌?」
聞いてくる勇者。
俺は魔法でファイア剣を作り出すとその切っ先をクロイツに向けた。
「助けはなく、周りは敵ばかりな今のお前のような状態を指す言葉だよ」
「ほざけ!お前さえ殺せば奴らは俺に従うしかなくなる!そうすれば俺の世界の幕開けだ!」
お前以上に魔王に相応しい存在はいないだろうな。
そんなことを思いながら開始の合図を待つ。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
のだが、奴は開始の合図より前に突っ込んできた。
「ま、待て!勇者!まだ何も言っていない!」
ヴァリスが必死に止めようとするがもう遅い。
「ひゃーはっはっはっ!!!!死ね死ね死ね死ね死ね!!!!!!!俺に楯突く奴に生きる意味は無い!」
何度も剣を振ってくるがその全てを避ける。
そうして数分後
「な、何故………当たらない」
焦りを顔に浮かべる勇者。
「何故当たらないんだ!」
叫ぶクロイツ。
その質問に答えるのなら単純に剣が遅すぎるから。寝ていても避けれる。
「何とか言えよ!根暗!」
奴が叫んだ後に観客が叫び始めた。
「殺せぇ!勇者を殺せ!」
「そうだ!殺せ!殺せ!そいつを殺せ!!」
その言葉も無視して俺はクロイツに話しかけることにした。
「あの時のこと覚えてるか?お前がサヤと一緒に来た時のこと」
「それが何だっつーんだよ?!まだ根に持ってんのか?!」
「いや、もうそれは気にしていない。だが」
ファイア剣でクロイツの腕を切り落とした。
あの時と同じだ。
「がぁぁあぁぁあぁぁ!!!!!!」
勇者が苦しみに叫ぶ。
ポタポタとその傷口から血を流しながら俺を見てくる勇者。
その顔にようやく絶望が浮かんだ。
「あ………あ………これ………あの時の………」
「舐めたな?俺を?あの時のは幻覚じゃない。一瞬で切り落とし一瞬で回復させた、それだけだ」
こいつの精神は回復は早いが。今回はそれが仇に出ているな。
だって、何度も何度も絶望の底に叩き落とされるんだから。
こいつは累計で精神力を5000程削られているかもしれないからな。
回復してはその度に叩き落とされて………それは普通に絶望させ続けるよりもきついのでは無いか?
俺はそれを狙って何度も何度もこいつの回復を待っていた。
総合的にそちらの方がダメージを与えられると思ったから、だがそれも今回で終わりを迎えるかもしれない。
残念だがな。
魔法剣をブリザド剣に変える。
冷気が漂う。
その剣を奴の傷口付近で縦に振り下ろした。
一瞬にして傷口が凍る。
「失血死などつまらん。もっと苦しんでくれ」
「………ひ………ひぃ………」
絶望一色にしてその場に尻もちを着いて倒れる勇者。
「ここからお前が俺に勝てる確率を教えてくれないか?」
歩いてブリザド剣を首に突きつけた。
「俺が見たところお前がここから逆転できる可能性は0%。万に1つも有り得ない」
「ひ!………も………もうやめてくれ………悪かった………調子に乗って………悪かった………こ、殺さないでくれ………もう勇者なんてやめる………やめる………からもう………やめてくれ………独房に入れらてもいい。一生奴隷生活でもいい………殺さないでくれ………俺は生きたい………」
「………」
剣をサンダー剣に持ち替えてズブリと太腿に突き刺した。
「ぎゃぁぁ!!!!!!」
「は?奴隷?お前は奴隷にすらなれない、おもちゃだろ?」
「ひ、ひい………もう………やめて………反省してる………反省してます………」
太腿からサンダー剣を抜こうとするが痺れて上手く抜けないらしい。
「さっきの話の続きをするが俺はお前という存在を魂レベルで嫌悪している。サヤを奪われた。それだけじゃない、色々とお前は気に食わない。嫌悪する」
そう告げてアイテムポーチからとあるアイテムを取りだした。
「な、何だよ………そのアイテム………」
「………」
答えずに無言で瓶をクロイツに投げつけた。
そうしてから俺は剣をファイア剣に戻した。
「死にたくないって言ってたよな?」
そう言ってから俺は剣を勇者の胸に突き刺した。
心臓があると思われる位置だ。
「その願い叶えてやろう。これが俺からの最後の贈り物だ」
命を奪う感覚が手にあるが剣を抜き少し待っていると勇者の体が蘇生を始めた。
「げほっ!げほっ!」
咳き込みながら仰向けに倒れていた体を起こす勇者。
「はっ………はっ………」
激しく息をしながら俺を見てくる勇者。
俺は今こいつから【死】を奪った。
もう死んだからと転生することもない。
こいつは未来永劫クロイツとして生きなくてはならず、犯した罪を嫌でも償い続けなければならない。
「あ………あ………」
自分が死んだ時の記憶は消えない。
その痛みは消えない。
その寒さも寂しさも消えないし忘れない。
「おめでとうこれでお前は不老不死だ」
勇者の額に汗が浮かぶ。
「……あ、………あぁ………あぁ………は………あぁ………」
「お前は今の痛みを何度も感じることが出来る体質になった」
ニヤリと笑って告げてやると。
「う、うわぁぁぁああ!!!!あぁあぁぁぁぁあ!!!ああああああああああああ!!!!!!」
俺から逃げ出そうとする勇者。
その逃げる背中を
「………」
無言でファイア剣を投げつける。
狙いは必中
「がっ!」
心臓に突き刺さる。
言っただろう?
あの時に死んだ方がマシだと思うレベルの生き地獄に叩き落としてやる、と。
俺はお前からはもう手を引くつもりだが世界はそうではないだろうな。
これから先も苦しみ続けろよ。
お前のやってきたこと全部思い出せよ?




