5話 奴隷の少女
「へっへっへっ馬鹿が二人いるのか。こんなとこ来てカモになりに来たんでちゅかー?」
男の1人が何か言っている。
さて、今の俺は機嫌が悪い。
火の粉を払うのにこれだけの力は絶対にいらないが。
仕方ない、手を出してきたのはお前らだからな。
「アルマゲスト」
無属性の最強魔法。弱点もつけないが、どんな相手に対しても同じダメージが入る。
魔法を発動させた。
次の瞬間、全ての男が消えていた。
邪魔だ触れるな。
「え?何が起きた系?」
「何も起きてない系だ」
さてと、奥へ向かうか。
「ちょっとどこ行く系?」
「奥へ行くだけだ」
「何しに行く系なの?」
「奥に人がいた」
「何で分かるの?!すごくね?!」
いちいち説明するのも面倒になってきたので無言で奥に進む。
「ねね!ダーリン今の何系?!」
「………」
それにしてもよく喋る。
こいつに緊張感の3文字はないのか?
「え?そんなのないけど」
「心を読むなよ」
「あ?今の声出してなかった?あーあたしやべぇかも。読心術目覚めたかも、ハー鬼やばー♡それかダーリンと心が通じあったのかなぁ?♡どっちにしても激ヤバプンプン丸エクストリームじゃね?」
プンプン丸エクストリームってなんだよ。
そんなことを思いながら奥に進んでいると目当てのものが見えてきた。
「ひ、ひぃぃぃ!!!」
さっきちらっと確認したがマップに映った通り少女がいた。
檻に閉じ込められた少女が1人。
「………」
無言で近付くとファイア剣で柵を壊した。
「………それで自由だ」
短く告げて去ろうとしたが。
「ま、待ってください!」
振り返り言葉の続きを待つ。
「あ、あの………その………」
「どったのー?♡うちのダーリンがかっこよくて惚れちゃった系?♡」
「え?えぇぇぇ?!!!そ、そうじゃないです!」
やめろ。そこまで否定されると少し傷付くからやめろ。
「やっぱりガキだね。ダーリンのかっこよさに気付かないなんて♡ねーダーリン」
「………」
無言で近付くと続きを促す。
「あの、私を連れて行ってくれませんか?!」
「………」
「ひ、ひぃぃぃ!!!!」
何故怯えているのだ。
一応マフラーをズラして口を見せることにした。
「悪いな怖がらせたか?」
「ダーリンはクール系気取ってるけど実際は陰キャ童貞系なだけだから怖がらないでいいよ!何か言われたら黙れ童貞!で黙る系だから♡あーでもそこがマジかわーって感じ♡」
それはお前と会話するのが面倒だから黙っているだけだ。
「どーてーってなんですか?」
「………」
無言でビクティに目をやった。
お前が言い出したんだろ。説明してやれ。
「あ、それはあれだし!あの!その!あれだし!あれあれあれ!イカ臭い男の事だし!」
知らないなら知らないと言えばいいのに。
「へーそうなんですねー。でもお兄さんイカ臭くないですよね?」
「そ、それはあれだし!あれなだけだし!あれあれあれ」
あれしか喋れなくなった女は放っておいて会話を進めるか。
「ロープを切った」
「あ、ありがとうございます!」
檻の中から出てくる少女。
黒髪………くそ、少しダブった。
「どうしてマフラーで顔を覆ったんですか?!」
「………」
「ダーリン傷心中だからあんまり突っ込まないであげて欲しい系。だからテンアゲも禁止ぽよー」
「何かあったんですか?」
「幼馴染の女の子が王都で死んじゃった系」
言うなよ。
思い出すだろ。
「はわわわ、ご、ごめんなさい………」
「………」
マスクを口元まで下げると少女に目をやり額に手を当てた。
「………」
リード━━━━対象の情報を読み取る魔法。
骨折してるな。
「乱暴に捕まったんだな」
「な、何で分かるんですか?!」
「………」
答えずにヒールしてやる。
「わっ!痛くなくなりました!」
「………」
俺はそうしてから歩き出す。
「あ、あのー………ついて行っていいですか?」
俺に絶対服従するという条件付きでいいなら連れて行ってやらなくもない。
裏切られるのはもうごめんだ。
「奴隷紋更新しても構わないか?」
主人と奴隷の間に交わされる契約、それが紋章として現れるのが奴隷紋。
これがある内は奴隷は主人を裏切れない。
「は、はい!」
「まぁ、あんな事あった後じゃ仕方ない系だよね」
納得しているらしいビクティ。
「それより俺でいいのか?」
「私親に売られたので帰る場所ないです。拾ってくれないなら餓死するしかないです。何でもするのでお願いします!」
「そういうことか。流石にここで餓死されるのもな」
更新を終えて立ち上がる。
アイテムポーチから適当なボロボロのローブを取り出すと俺の装備をとりあえず少女に貸してやる。
俺はローブだ。
「いいんですか?こんな装備………」
頷いて答える。
「むしろそんなものでいいか?もっと強い装備あるが」
「え?まだ強い装備あるんですか?!これSランクの装備みたいですけど!」
「ダーリンまじやばプンプン丸エクストリームだからなんでも持ってるよ♡」
ビクティの言葉は無視してポーチから色々取り出してみた。
「好きな物あるか?」
「いえ、これでいいです」
ゴツゴツしてる装備だらけだから敬遠しているようだった。
「生憎女物は持ち合わせてなくてな、悪いな」
「いえいえ!お気になさらず!ていうか私こそごめんなさい!わがまま言って」
「いや、気にするな」
そう言って俺は歩き始める。
「てか、何であの子とは普通に話すのに私とは喋らない系なの?」
「お前と話すと会話が終わらないから。出来るだけ触れたくない」
「私腫れ物扱いだし?!」
そんな意味で言ったわけではないが。
「悪い。言いすぎた」
謝っておくと何故か真ん丸な目で俺を見るビクティ。
「ダーリンって謝れるんだ」
「……俺を何だと思ってるんだ?」
「陰キャ童貞系だけど。そうやって自分のミスを認められるところ素敵だし!もっと好きになっちゃったし!♡」
ビクティに抱きつかれた。
暫くは好きにさせておくか。
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