58話 あの時の再現
最果ての塔、その最上階の部屋に重い声が響く。
「よく来たな人間」
雑魚と呼べない程の高レベルのモンスター達を倒して辿り着いた最上階。
既に勇者も含めて俺達以外はボロボロだった。
「お前が四天王スノウか!」
クロイツが問掛ける。
「そうだが、俺こそスノウ」
そう名乗った男はやはり知らない顔で、ツンツンの黒い髪を肩まで伸ばしている男。
のっそりした動作で椅子から立ち上がる。
こいつとは作戦会議を行っていない。
行おうと思ったが女魔王のサタンですら連絡が取れないと言っていたので組む暇もなかった。
元々四天王などというのは自己中心的なやつが多いがここまでのは余り見ないな。
「こんなところで何をしている?!」
クロイツが問いかける。
「世界征服」
短く告げるスノウ。
………すごい素直だなお前。
「俺は世界を手に入れる」
「そんな事させるか!」
クロイツが剣を抜いた。
仕方ないな。
手伝ってやるか。
最後にいい夢を見せてやろう。
手早く奴を援護するために魔法を使った。
「ぐっ!」
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
勇者の一撃がスノウの胸を捉えた。
「………馬鹿な………この俺が………敗れる、だと?」
同時にスノウを操作しながらそう言わせる。
あんな攻撃こいつが当たることがないのは分かっていたので俺が操作して当てさせた。
「はっ!はっ!」
凄い息を荒くしている勇者だが一振でそんなに疲れてちゃ話にならないだろ。
「見事だ………勇者」
パタリと呆気なく倒れるスノウ。
ふぅ………これでいいか。
スノウはまだ死んでいない。後で回復しておいてやろう。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!やるじゃねぇか!!!!あの勇者!!!!」
「クズ勇者とは聞いていたが実力はあるじゃねぇか!!!!」
そんな言葉が聞こえてくる。
「みんなのお陰だありがとう!」
それに対して謙虚に答える勇者。
さて、その謙虚さいつまで続くか見ものだな。
それと、そうだな。
この部屋の死角になっている場所に宝箱を設置しその中にピュアエリクサーを1つ入れておく。
そして
「クロイツ」
「どうした、サーガ?!」
「ここに宝箱がある」
「な、何?!」
見事に引っかかり俺の方に来てくれるクロイツ。
そして中を開ける。
「こ、これは………ピュアエリクサー………これがあればサヤを治せる………」
予想通りの反応ありがとう。
しょせんお前は俺の掌の上で踊る無様な存在。
せいぜい、最後の命尽きる瞬間まで俺を楽しませてくれよ?
※
スノウを倒した翌日俺達は王城に集められていた。
勇者の謙虚さは秒で消えた。
「おい、ゴミ」
しょせんはこんなものだ。
1度上がった生活レベルを下げるのは難しいだろうし、1度贅沢な生活を知ればそこから抜け出すのは難しいだろう。
それを今こいつは体現してくれている。
「靴を舐めろよ靴を綺麗にしろ。俺は強い、俺は最強だ、あの四天王すら一撃で倒し余裕の勝利。これは栄誉だぞ?」
Sランクの女冒険者がそんなこと言われている。
「は、はい………」
四天王を一撃で倒した勇者の話は瞬く間に広まり勇者を付け上がらせた。
勇者はやはり俺は最強で俺がいなくてはこの世界は滅びると思い込んでいる。
「さ、サーガさん?!」
その時サヤが声をかけてきた。
「こんなところにいたんですか?サーガさん………あのお散歩に行きませんか?」
そしてサヤの記憶はかなり失われていた。
「おい、サヤ何してる?」
それを見ていた勇者が靴を舐めさせるのをやめてこっちまできた。
俺に話しかけていたが一瞬でハッと我に返るサヤ。
「ご、ごめんなさい………何でもないですよクロイツ」
「こんなゴミに絡むのはやめろ。しょせん奴は四天王を一撃で倒せないゴミ。俺の方が強い」
見事にイキっているなこの勇者。
まぁ最後のイキリタイムだ。存分にイキっていけ。
「おい、盗賊。次の四天王の居場所を探す使命をお前にくれてやる」
「は?」
「俺に口答えするのか?この国にいられないようにしてやろうか?不敬罪である」
あれ程までに謙虚だった奴が今ではこれである。
実力があると思い込むだけで人というのはここまで変わるものらしいな。
仕方ないな。
あの時と同じ事をしてやろうか。
サヤの記憶喪失を一段階進めた。
「あ、サーガさん!好き好き好き大好きでーす!」
俺に抱きついてくるサヤ。
それを見てクロイツが口をポカーンと開ける。
「………」
「ずっと寂しかったんですよサーガさん」
俺を見てくるサヤ。その視界には俺しか映っていない。
「盗賊………」
そんな俺を見てくる勇者。
「何をした?お前」
「何も?記憶が消えていっているというのはお前が口にしたことだろう?もう忘れたのか?」
そう言うとズカズカと踏み込んでくるクロイツ。
「まだすっとぼけるつもりか?お前。お前と出会ってからほんとに散々だ。だが、それも今日で終わり。天罰などというものはありえない。俺は人々のために動いているのだから罰せられることなどない。今までのはただの偶然」
そう言って俺に人差し指をビシッと突きつけてくる勇者。
「だがお前がいる事で俺が感じた不愉快は消えない。ここで俺の感じた不快感をまとめてお前に全て返してやるよ盗賊━━━━決闘しろ」
俺は今日、あの時と同じようにまた勇者に決闘を挑まれた。
「分かった」
「殺してやるよ盗賊風情が。俺の描く未来にお前は要らない不要だゴミ、汚物が虫けらがダニが。1時間後に庭園に来い。行くぞ!サヤ!この汚物を視界に入れていては視力が落ちる!」
「きゃっ!」
そう言って軽く悲鳴を上げたサヤを連れていくクロイツ。
さて、俺も準備するか。
今回は完膚なきまでに叩きのめしてやるよ勇者。
一点の迷いもなく俺の勝ちを突き付けてやる。
最後の1時間、楽しんで過ごせよ?
お前の人生はここで終わるのだから。




