54話 また一つ勇者から消える
勇者が俺と仲直り出来たと思ってから何日かが経過した。
俺の指示した通りにみんなが動いてくれたお陰で今日状態が動いた。
「アストレア卿かね?」
「そうだが」
俺の家を訪ねてきたのは勇者の父親。
「少し話がある。上がらせてもらっても構わないか?」
「あぁ」
頷いて家に上げる。
「長々と話をするつもりは無い。全力でクロイツのバックアップをしてやって欲しい」
用件はそれだけだった。
「頼む。この通りだ」
頭を下げる父親。
「分かってる。俺はあくまで奴を補佐するための存在だからな」
「それは有難い」
そう言って再度頭を下げる父親。
「用件はそれだけか?俺も今から用事があるのでそれくらいだと嬉しいが」
「すまなかったな。時間を取らせて」
そう言って出ていくのを見てから俺も外に出ることにした。
シャーロットに呼び出されているのだ。
集合場所の王城までやってきた。
「あ、サーガ様ですわ!」
俺がやってくる前から来ていたシャーロット。
俺が視界に入るとすぐに駆け寄ってきた。
「待っていましたわ!サーガ様!」
「悪いな待たせたな」
悪意はないんだろうが、ついそう返してしまった。
「い、いえいえいえ!そ、そういう意味ではなくてですわ………」
必至に否定しようとしているシャーロット。
「あ、その先日は私などにあのような貴重な………アイテムを使ってくださって、ありがとうございましたですわ」
ピュアエリクサーの事か。
今もアイテムポーチに100個以上眠ってるから別にいいんだが。
「そ、その恩返しをしたいと思いまして………で、ですが………お返しできるものなど………」
そう口にしているシャーロットの手を取る。
「なっ………なっ………どうしたのですか?!」
顔を赤くするシャーロット。
「いや、手が赤くなっているなと。どうしたんだ?」
とは言っても大体は分かるクロイツだろう。
人は簡単には変わらない。
こいつ相手ならまだ殴れると思ってるのだろう。
とても不安定なやつだ。改心したあいつと、いつものあいつが交代で出ていると思う。
「勇者にでもやられたか?」
ビクッとするシャーロット。
「ち、違いますわ」
震える声で否定するがやはりそうなのだろう。
「あいつには言わない。話してもいい」
「ズキューンですわ」
「ズキューン?」
「ち、違うんですわ、こ、これは!」
何が違うのかは分からないが否定しようとしている。
「あ、あのお願い聞いてくださいますか?」
そう聞いてくるシャーロット。
「別に構わない」
「で、では………」
今日一日はシャーロットに付き合うことにしようか。
※
「今日のことは忘れませんわ、ありがとうございましたですわ」
そう言って帰っていったシャーロット。
俺も帰ることにした。
そろそろ………かな。
家に帰った俺は千里眼でクロイツの様子を見てみた。
「父上と母上遅いな」
どうやら父親が帰ってこないらしい。
「た、大変ですわ!クロイツ様!」
その時部屋に飛び込んできたのはシャーロットだった。
「どうしたんだ?シャーロット」
「ご、ご両親が………亡くなったみたいですわ」
シャーロットが告げた瞬間部屋に静寂が訪れた。
「へ?」
勇者が口をポカーンと開ける。
「そ、それが貧民街の方に行っていたみたいで」
「な、何を?!」
「わ、分かりませんわ!」
そこまでは伝わっていないらしいが俺は知っている。
奴らはまた奴隷業に手を伸ばそうとしたのだ。
そこをズタズタにやられた、それだけだ。
奴隷の売買で成り上がってきた奴なんだからそれ以外での稼ぎ方なんて分からないはずだ。
また奴隷に手を出すのは自然なこと。
俺はそれを先読みして貧民街の連中にある程度の力を与えた。
そこには元々奴隷だった連中も存在するし奴の手によって販売されたり、されそうだったりした奴もいる。
相当な恨みだったろう。
「ご、ご遺体ですが」
「………」
勇者が呆然とする。
口を開けたままそこから動かない。
いや、動けないのか。
頭が回っていない感じだ。
「………へ?………あ?………な、に?今何て?」
「ご両親が亡くなった………と」
「そ、そんな………訳ないだろ?………は?………え?」
現実を受け入れられないクロイツが右往左往する。
「こ、これから俺達頑張っていこうって話してたじゃないか………?それが、何で?冗談だろ?」
「じょ、冗談ではありませんわ………外に衛兵が来ておりますわ」
「あぁ………あ………う………そ?だろ………?え?………なんだよそれ………」
流石勇者、完全には壊れないか。
まだ正気を保っている。
「シャーロット」
「な、何なのですわ?」
「サヤを呼んでくれ………」
「わ、分かりましたわ!」
そう言って出ていくシャーロット。
数分後入れ替わるように来たのはサヤだった。
「両親が死んだってさ………ははっ………ははっ………嘘だろ………」
崩れ落ちるクロイツ。
それを支えようとするサヤ。
「クロイツ………ひどいですね………どうしてクロイツみたいに世界のために動いている人がこんなにも苦しまないといけないんでしょうか。人々がクロイツのために動くのは当たり前なのに、何故牙を剥くんでしょうか」
こいつ本当に考え方が変わってしまったんだな。
勇者は何でもしていいと本気で思うようになったらしい。
勇者といる間にこれが普通のことだと考えるようになったか。
「ははっ………嘘みてぇ………何なんだよこれ………夢だろ………?」
涙を流しながら笑うクロイツ。
どういう顔をすればいいのか分からないといった感じか。
「俺達が………クレープ食べてる間に死んだってよ………」
「クレープ………?」
サヤが意味が分からなさそうな顔で聞き返した。
「え?」
クロイツが泣きながら口を開いた。
「え?」
今度はサヤが口を開いた。
「あ、あれ………?」
サヤが自分の頭を両手で抑えた。
「え?な、何なんですか?これは………」
「え?どうしたんだよサヤ」
だがすぐにサヤは何か思い出したような顔をした。
「あ、クレープですね。分かってます。そうですか………」
その後に視線を下に向けた。
「あ、あぁ。そうらしいんだよ。全く酷い話だよな」
その後2人は何か下らない事を話し始めたので千里眼をやめた。
どうやら効果が出てきたようだな。
記憶が消え始めている。
「うぉぉぉぉぉ!!!まぢやべーーーー!!!!」
その時庭の方からビクティの声が聞こえてきた。
夜だぞ、時間帯を考えろ迷惑だろと何度言っても聞かない。
何をしてるのかと思って外を見てみたら
「このお肉美味しいですー、うーん。ダーリンさんと最果ての闇に旅した時に食べたお肉のような味ですー。ふひひひ………血の味がしますね………」
「わっ!サーシャ様お肉を振り回さないでください!」
「ちょっとサーシャ!タレが飛んできたんだけど!」
肉を何故かブンブン振り回しているサーシャを躾けるルゼルとリディアの姿が目に入った。
そう言えばバーベキューをすると言っていたな。
「師匠」
その時俺が見ているのに気付いたエルザがやってきた。
「どこに行っていたんだ?皆で探したんだが見つからなかったからとりあえず先に始めてしまったんだが」
「別に構わない。それより悪かったな。遅くなって」
そう言いながら庭に向かう。
「ご主人様!ご主人様!」
その時この前から飼い始めた………という言い方も変か。
引き取った獣人三姉妹がやってきた。
俺に声をかけたのはやはりミケらしい。
「お肉焼いたにゃん!食べて欲しい!」
そう言って突き出してくる。
これ………生焼けじゃないか?
「ん………私も焼いた」
眠そうなリトルも突き出してくる。
こちらは焦げている。
もう一人のシーラも焼いたのかと見てみたが
「………」
顔を赤くして後ろに隠してしまう。
「ほらシーラもご主人様に食べてもらうにゃん」
そう言いながらミケがシーラの後ろに回ると何とか俺に肉を見せてきた。
「………ご、ごめんなさい………嫌ですよね?こんなお肉」
相変わらず自信がなさそうだ。
だが
「ふっ………ミケは生焼けだしリトルは焦げてる。シーラが1番マトモじゃないか?」
今思えば家事の方も彼女に割り振った仕事だけいつもキチンとしている。
「ご主人様は分かってないにゃん。この生焼けがいいにゃんのに」
そんなことを言ってくるミケだが腹壊すぞお前。
明らかに火が通ってない。
「ん、確かににゃん。この焦げがいいのに分かってないにゃん」
どうやら俺の味方はシーラだけらしいな。
とりあえず先にシーラの肉から食べてみた。
「やはり美味いな」
そう言ってやると笑顔になるシーラ。
「にゃー!食べてもらうにゃ!」
「ん、私のも」
その後結局俺はほかの2人のものも食べることになった。
毒消しを使って何とか持ちこたえたことからどんな出来だったかは考えるまでもない。




