53話 次の標的
「いいですか?」
静まり返る会議室で声を上げたのは勇者だった。
「危険ですよ?そんなもの。俺もそこの盗賊は評価しています。だからこそ危険なんですよ。俺以外があれを使えばどうなるか分からない。最悪死ぬかもしれない。俺という勇者がいるのにわざわざ高いリスクを払う価値がありますか?」
俺の命を守るというより自分の立場を守る発言に聞こえる。
しかし、頭の悪いこいつには珍しく検討はずれの言葉でもない。
「アホな事を言うな勇者」
勇者を見下すシド王。
「お前自分の立場が危うくなっているのに今頃気付いたか?」
「事実………ですよ………俺がいなくなったら誰も魔王を倒せない。そこの盗賊が失敗して大怪我をした場合戦力を失うことになりますよね」
クロイツがそう言ったあと俺を見てくるシド王。
「そこで、だ。サーガ。悪いが残りの四天王を倒したあとお前には勇者の装備に身を包んでもらいたいと思っている。最大限まで利用して試すような真似だ。印象は悪いだろうが選択としては悪くないと思っている。どうだ?」
「構いませんよ」
即答する。
今でも装備できるだろうがそれではつまらない。
それにこちらとしてももう1つやりたいことがあったからな。
「という訳だ。本人の許可は得ることが出来た」
そう言ってシド王は他の王様達に目をやった。
「こういう流れで行こうと考えている、今日のところはこれで終わろうか」
その一言で今回のところは解散する流れとなった。
※
「も、もう許してくれ………ほんとに頼む………」
会議室を出た俺にそう頼んでくる勇者。
「何を、だ?」
「俺がお前に出会ってからどう考えても最悪な方に転がってる、お前が1枚噛んでんだろ?もう………許してくれ………」
「何の話だ」
何を言われようと認めるつもりは無い。
初めは何も見えない恐怖も含めて味わってもらおうと思っていたが流石に気付き始めているようだな。
俺が何をしているのかは分からないだろうが薄々感じているのだろう。
「頼む………ほんとに頼む………お願いだ………金なら積む………何だってやる………もう………許してくれ………限界だ………」
「………」
無言で見つめる。
許す?何を言っている。
「もう………ひぐっ………頼む………限界なんだ………」
俺の前で涙を流し始めるクロイツ。
「ほんとに………頼む………俺は処分されるだろう………お前に勇者になられては本当に困るんだ………し、死ぬのは嫌だ………」
「そうか。なら先程の話は無しにしてやる」
「ほ、本当にか?!」
勿論嘘だ。
こいつの心をまだ折らないための嘘。
「あぁ。それに俺は勇者にはなれないだろう。勇者にしか握れないんだろう?その剣は」
「あ、あぁ。これは俺にしか握れない」
「なら、そっちの方はお前に任せることにしようクロイツ。お前に居なくなられては俺も困るからな」
「ゆ、許してくれるのか?」
「なんの事を言っているのかは分からないが、最初から俺は何もしていないとそう言っている」
「あ、ありがとう………サーガ………お前は英雄だ………」
俺の両手を取ってくるクロイツ。
どうやらサーラとの一件が効いているようだな。
だが許されると思うなよ?
それに俺は一言も許すとは言っていない。
「ではな、クロイツ。魔王退治頑張れよ」
「あ、あぁ、任せてくれ」
※
その夜俺はクロイツを千里眼で観察することにした。
「なぁ、サヤ」
クロイツがサヤに話しかけていた。
「はい、何でしょう」
「あいつ良い奴だなサーガ」
「………ど、どうしたんですか?急に。前まであんなに嫌ってたのに」
「元はと言えば俺が悪かった部分もあるかなと思ってな。あいつのことめちゃくちゃに言ってた時期もあったしな。俺は心を入れ替えた。これからはちゃんと魔王を退治する」
そう言っているが人は簡単に変わらない。
どうせいつものお前に戻るんだよ。
それにお前に待っているのはどのみち死だろう。
こんだけやらかしたんだ。魔王を討伐した後無価値になったお前は処分されるだけだぞ?
だから正しい選択としてはこのままサボり続ける、だろうな。
やつは今冷静さを欠いているからそれに気付くことはないだろうが。
お前は結局のところ魔王がいるからこそ輝く人間だったんだよ。
そいつがいなければお前に待つのは終焉だけ。
「あ、あぁ、確かにそうですね。でもサーガさんの方がめちゃくちゃですよ。クロイツに沢山酷いことしてますし」
「確かに酷いことされた。でも俺は奴以上に酷いことをしてきたかもしれない。その報いを受けているのかもな」
お前の口からそんな言葉が聞けるとは思わなかったな。
「で、でもクロイツは過酷な試練を乗り切ってるんです。ちょっとくらいは………」
「辞めてくれサヤ。俺は真っ当に生きたいんだよ」
そう言って武器の手入れを始めるクロイツ。
「サーガと友達になれるといいんだがな………あいつ良い奴だなこんな俺の事庇うような事もしてくれたし」
俺は全部結果的に自分のためになるから庇っただけでお前のことを考えて動いたことは1度もない。
今だってお前に真実を告げないのは上げてから落とすためだよ。
真面目に修行して訓練して、今までのことが全部水の泡になった時お前は本当の自分を見せてくれるだろう?
それがどんなに醜い姿なのか見せてくれ。
「そう言えば四天王捜索はどうなってる?」
「は、はい。1人発見できたみたいです。四天王スノウが発見されたみたいです」
知らない名前だ。
「ほんとか?!場所は何処なんだ?」
「最果ての塔にいるみたいです」
「ここからなら結構かかるな。それに雑魚が強いダンジョンだな。俺達だけじゃ無理だ」
それにしても強い雑魚というのは矛盾しているよな。
「となるとギルドにも頼まないといけませんね」
「そうだな。信頼を取り戻していこう」
大体向こうの動きは分かったので千里眼をやめる。
「リディア」
「どうしたの?」
「貧民街の件どうなってる?」
「大分良くなったよ。でも、どうしたの?」
「いや、良くなってるならそれで構わない」
頷いて立ち上がると次の計画について話す。
「これをこうしたらいいの?」
確認の言葉に頷く。
「分かった。なら時間のある時に伝えに行くね」
「そうしてくれ」
答えて俺は今日は寝ることにした。
明日からが楽しみだな。
勇者、これらが俺からの最後の贈り物になればいいな?




