52話 勇者の装備
翌日。
俺は王城まで来ていた。
王様に話があるということで呼び出されたのだ。
「四天王の1人の撃破見事であった」
「ありがとうございます」
礼を言っておこう。
「単刀直入に言うが俺はお前に可能性を感じているのが現状だ」
そう言って俺に目をやるシド王。
「俺はお前に勇者になってもらいたい」
「自分には適性がないですよ」
「ジョブとしての勇者ではなく、立場としての勇者で構わない。俺はお前ならば魔王を倒せるとそう見込んでいる」
「魔王にダメージを与えられるのは勇者だけですよね?」
そう聞いてみる。
無論俺ならば相性すらも無視して魔王にダメージを与えることは出来るが、ここではい分かりましたと頷くのも変な話だ。
「厳密に言えば勇者というジョブのお陰でダメージを与えられる訳では無い」
「と、言いますと?」
「それはだな」
口を開きかけた王様だがその時。
「はぁ………俺は………まだ戦えます………」
勇者が扉を開けて入ってきた。
頭に包帯を巻いた状態だ。
「俺は………まだ動けます………」
「その状態でか?笑うところか?それは」
鼻で笑う王様。
「い、いえ違います。本気です………俺はまだ………」
「魔王の前の四天王すらやれずに何がまだ戦える、だお前」
「ぐっ………で、ですが………魔王は勇者でないと………」
「その事についてだがな。俺はサーガを試してみたいと思っている」
「正気ですか?失敗すればその盗賊は死ぬんですよ?」
「そのリスクについてはわかっている。だからこそきちんと考える必要があるな………そのために」
王様が指を鳴らすと近くに控えていた近衛騎士団団長のヴァリスが王室から出ていく。
久しぶりに見たなあの男。
「何をするというつもりですか?王」
クロイツが問いかける。
「決まってるだろ?これからについて話し合う」
そう言って玉座から立ち上がる王様。
顔面蒼白になるクロイツ。
本当に血の色が引いている。
青くなっている。
ここまで青くなることがあるのかと聞きたいくらいに青い。
「ま、待ってくださいよ………俺は………俺は………」
「何だ。いつもの自信はどこへ行った?」
「俺は………今まで頑張ってきたじゃないですか………今まで………頑張って………何で………どうしてですか………」
「頑張ったら全部許されると思ってるのか?お前のやってきたこと全部把握している」
「え………」
絶望の色を顔に浮かべるクロイツ。
「知らないとでも思っていたのか?この際だから話しておく。黙っていたのはお前の運命を考えてのことだ。辛い運命なのは分かる。過酷なのも分かる。だからこそ黙っていた」
そう言って近付いていく王様。
「それにお前は顔だけはいい、それに優秀かどうかと言えば優秀だ。だからこそその遺伝子を残すことを咎めたりはしなかった。しかしお前………やり過ぎたな」
「そ、それは………どういう………」
「お前はサーガに全て負けた」
「お、俺が………負けた?」
「お前は敗北者だ。このまま行けばな」
そう言って王様は王室の外に繋がる扉の方まで歩いていく。
「2人とも付いてこい」
※
ヴァリスに案内され王、俺、クロイツの3人は別室に来た。
「会議室だ。お前らは俺の後ろに立っていろ」
そう言って王様が会議室の扉を開き中に入っていく。
中には大きな四角の机が置かれており、それを囲むように偉そうな人物が10人程度座っていた。
どうやら机の上に置かれた札を見る限り各国の王様らしい。
その後ろにはそれの護衛と思われる人間もいた。
シド王が先に席に座った。
その後ろにクロイツと共に立つがこいつはずっと震えている。
しかし、ようやく小さな声で話しかけてきた。
「な、なぁ………盗賊………」
「どうした?」
「た、助けてくれ………悪かった………全部謝る……お前が何をしてるのか知らんが………もう………関わらないでくれ………た、頼む………」
ついにポロポロと涙を流し始めたクロイツ。
サーラとの一件が相当効いているのか、今はもうイキる余裕もないらしいな。
これからはどうかは知らないが。
「………」
黙って視線を戻す。
「これより!魔王討伐作戦について話していこうと思う!」
シド王が話を始める。
「進捗については報告しているから知っていると思うが現在我々は四天王を2人撃破することに成功した!」
実際には死んでいないが。
何だかシュールだな。
「本当ですか?!」
会議室内が騒がしくなる。
「流石シド王だ。任せてよかった」
「そうだ。流石シド王、それにその指示に従って動く勇者も流石だな」
そう言う声が聞こえてくる。
だが次にシドが放つ言葉は予想外のものだった。
「よせ、皆も勇者にはあまりいい印象を抱いていないだろう?」
シドは完全に嫌悪感を隠すことなく蔑むような目でクロイツを見た。
その視線を受けてビクっと反応するクロイツ。
「ここにもいるんじゃないのか?こいつに怒りを覚えている人間が。悪いが我が王都では既にこいつを敬う奴はいない」
「そ、それはどういう意味ですか?シド王」
1人の男が手を挙げそう質問した。
「こいつに人生を破壊された人間がいるんじゃないのか?そう聞いている。遠慮は要らん。手を上げてみろ」
だが誰も手をあげない。当然か。
そんなことを思いながら次の言葉を待つ。
「ここにいるもう一人の男サーガについても報告していると思う。皆知っているな?」
全員が頷いた。
それを確認して口を開くシド王。
「こいつは物凄く腕が立つ。それこそ勇者の何倍もな。レベルを見せてもらったが既に90台に入っていた。勇者のレベルは未だ70前半なのにだ」
騒がしくなる室内。
「レベル90………?」
「既に勇者ならば魔王を倒せるレベルじゃないか!」
「で、でも盗賊がそんな高レベルまでどうやって?」
色々声が上がるがシド王が落ち着かせる。
「まぁ、待てよ落ち着け。俺はこいつに勇者の装備を持たせてみたいと思っている」
王がそういった途端騒がしくなる。
「王!無謀です!そんなに評価されている人物にそれは!」
「そうですよ!王様!勇者の装備は勇者以外には使いこなせません!勇者以外が握ればあの装備は担い手を傷つけます!最悪………サーガ殿が死んでしまうのですぞ!」
周りの王様達が止めに入る。
なるほど。理解した。
俺が勇者の装備を持つことが出来ればジョブとしての勇者は無理でも、立場としての勇者になれるということか。
要は装備に認められればジョブなど、どうでもいいわけか。
「それは分かっている。だからこそここにお前たちを集めたのだから、これから先この雑魚勇者に任せるか、それとも賭けてみるか、それについて話したいと思ったのだ」
そう言って室内を見回すシド王。
なるほどな。装備出来れば俺はあいつの代わり………いや勇者になれる訳か。楽しくなってきたな。
勇者の座を奪う最後の一手について悩んではいたが、こんな手があったとはな。




