51話 決別
「チャンス………ですか?」
「あぁ。チャンスだ」
「………」
無言になるサヤ。
無言で下を見続ける。
「前に言ったよな。自分の足で立て、と。それは自分の足なのか、どうか」
今までのこと全部勇者に指示されてやっていたのではないか、とそう思うこともあった。
だからハッキリしておきたかった。
「私の足?」
頷く。
「ずっと引っかかっていた。お前俺と再会した時にクロイツの指示で変な言動してたよな?何故やめた」
「サーガさんが怖かったからです。この人の前であの言動はしない方がいいって思ったからです。ふざけない方がいいって」
「理由はそれだけか?」
「はい」
なら、もういい。
俺の望んだ自分じゃなかったからやめたとかなら、と思ったが。
俺と関係を戻そうという考えはこいつには微塵もないんだな。
自分の足で立てないこいつにもう魅力はない。
だが、1つ言ってやろう。
俺の口から
「俺はあの村でお前の帰りをずっと待っていた」
「………」
「お前だけの帰りをずっと待っていた。俺はお前の事を良く思っていた。こんな俺を好きになってくれたお前のことを好きになった。だがお前の想いはその程度だったのか?俺はお前が出ていったあと表面上だけでもお前と釣り合う男になろうと、ずっとモンスターを狩り続けてステータスも上げていた。それが何だこの仕打ちは?俺を弄んだのか?」
「ごめんなさい………」
ここでようやく何かに気付いたのかハッとしたような顔をする彼女。
ようやく謝罪の言葉が出てきた。
だがもう遅い。
「勇者と添い遂げてやれ」
「………」
「好きなんだろ?あいつのこと、あんな奴でも好きなんだろ?」
頷くサヤ。
「この期に及んでもお前を恨みきれない。憎みきれない」
結局のところ俺に非がないということはないのだから。
だからこいつだけを責めるのは間違いだろう。
だが、代わりに勇者に耐え切れぬ絶望を。
「え………?恨んでないんですか?」
「だが、お前を想うようなことはもうないだろう。だから俺の加護をこれ以上受けられると思うなよ?」
「か、加護………ってどういう………」
「自分で考えろ」
そう告げて俺は次にシャーロットの方に歩いていくことにした。
スキル鑑識眼で彼女のステータスを覗く。
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【名前】シャーロット
【ジョブ】聖女
【状態】死神の毒
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サーラと計画を組む時にこうするようにしておけと言っておいた。
ちゃんとしてくれたようだな。
「と、盗賊………?」
俺は膝を着いた状態でシャーロットの上半身だけを抱き起こした。
毒で上手く体が動かないのだろう。
「さ、触らないで下さいまし」
「死ぬつもりか?」
「何故それを?」
苦しそうな顔をしながらそう聞いてくる。
鑑識眼を使えることは黙っておこう。
特殊なスキルだ。
盗賊で使える奴はほぼいない。
「ほんとです!シャーロット大丈夫ですか?」
何故か俺についてきたサヤがシャーロットの心配をする。
「わ、私はダメですサヤ。どうかクロイツ様をよろしくお願いします………」
ガクッと効果音が着きそうなくらい顔を下に向けたが別に死んではいない。
「シャーロット死なないでください!」
そう言って彼女を治療しようとするサヤだが
「な、何ですか?!この状態………死神の毒?!」
サヤが叫んだ。
「見たことないですこんな状態………」
そう言っている傍で俺はアイテムポーチを開くと目当ての物を取り出す。
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・毒消し×99
・ハイポーション×123
→ピュアエリクサー×234
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取り出すとエリクサーが瓶に入った状態で俺の手の中に表れる。
「な、何ですの?その瓶は………」
目があまり見えないのかそう聞いてくるシャーロット。
答えたのは俺ではなくサヤ。
「なっ………ピュアエリクサー………エリクサーの中でも最上級のアイテム………どうしてサーガさんが………」
目を見開いて聞いてくるが俺は答えずに瓶を砕く。
するとサラサラと液体が滴り落ちてシャーロットの体にかかる。
その後パァッと明るい緑色の光が彼女の体を包んだ。
「あ、あれ………?」
俺の腕の中で首を捻るシャーロット。
「な、何ともありませんわ?」
そう言いながら俺から離れて立ち上がる。
状態は既に異常なしになっている。
「ど、どういうことですの?これは………」
目をまん丸に見開いて俺を見てくるシャーロット。
答えたのは俺ではなくサヤだった。
「ピュアエリクサー………最も純度の高いエリクサーです………どんな病も治してしまうと呼ばれているエリクサーの中でも最上位のレアリティのもの………」
俺を見てくるサヤ。
「どうして………こんなものを………」
答えずにシャーロットの隣に立つと彼女を抱き寄せた。
「な、何ですの?!」
驚いたようで俺から離れたが、嫌そうな顔ではなかった。
「シャーロットを助けてくれたことには礼を言います。でも………サーガさん私も加減するつもりはありませんから。貴方の評価はもう一度地に落ちます」
そう言うとシャーロットの腕をつかんで先々と歩いていくサヤ。
俺も溜息を吐くとビクティ達の方に戻ることにした。
※
凱旋は行われなかった。
クロイツがあの状態だし俺たちの誰も望まなかったからだ。
なのでひっそりと王城でちょっとしたパーティが開かれる程度だった。
「ダーリン!ダーリン!」
俺が適当に1人でいると煩いのがやってきた。
「何なんだ?」
「見てこれ!見てこれ!まじやべぇし!」
何がやばいんだよ。お前の話し方が1番やばい。
というより、何だその格好
「ダーリンの服装真似してみたし!」
真っ黒の服装だった。
「今からダーリンの真似するし!」
そう言って何故か自分の手で自分の顔を覆うビクティ。
「くくく………触れてくれるなよ?俺の魔力はお前を殺すぜ?」
「………」
誰の真似だよ。
俺が何時そんな言葉を口にした?
「そう、その感じです」
その時に会話に加わってきたサーシャ。
「ですが、もう少し成分が足りませんね。私達のいた平行世界では魔法はありませんでした。異能ですよ、イ・ノ・ウ。魔力ではありまちぇーん。ちなみにダーリンさんの2つ名は【宵闇の残酷な紫電】ですのでその辺も絡ませるともっとダーリンさんっぽくなれるかと思います」
「うっす!師匠!頑張るっす!」
「そう。その調子です。貴方もバビロン・ガーデンになれる日も近いです」
二人の間で何があった?
「何があった?」
「私気付いたし。ダーリンとサーシャの過去。私が………二人の間に割って入るならこれしかないっしょって」
他に幾らでもあるだろ?
何故それを選んだ。
「300年の二人の仲に入るなら私も300年前からダーリンといたって設定にするしかないっしょ!」
「ま、私たちのは【設定】ではなく【事実】ですがね、弟子。弟子が師匠を超えるなんてありえないんですからね。なので私は永遠の花嫁なんです♡」
いや、弟子は師匠を超えるものだろ?
「くっ………右腕が疼きます。ダーリンさんのあれを求めてしまいます」
口元を歪めるサーシャ。
「そろそろ………私は闇堕ちしてしまう………あっちに行っていい事しましょうダーリンさん。死ぬほど気持ちよくしてあげますから♡」
「………」
最近知ったことがある。
俺は押しに弱い。
「こんな時でもクールですよね。でもそこが最高に素敵です♡」
違う、反応できないだけだ。
勘違いしているらしいサーシャ。
「ほら、行きますよ♡弟子、後500回くらいサンダーナイツの素振りをするんですよ!」
「了解っす!師匠!」
「さ、私たちは師匠同士仲良くしましょう♡」
俺はしがみついてくるサーシャに連れていかれるのだった。
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