49話 勇者は汚れた
エルザの誤解も解けた頃俺たちはゴブリンの森まで辿り着いていた。
俺は振り返って皆に声をかける。
ここに集まってくれた奴らは精鋭だ。
ギルドマスターのシャロから始まりギルド内でもかなり上の立場にいる人間、それからSランクパーティまでいる程だ。
それも当然今から戦うのは魔王軍最高峰の戦力を持っている存在である四天王の1人。
俺は惜しみなく、申し分ない人材を集めたつもりだ。
こういうところで手抜きは出来ない。
「作戦についてだが既に話した通りだ。俺の率いるパーティが四天王サーラの相手をする。そこで、お前たちは俺達に邪魔が入らないように雑魚の処理を頼む。ゴブリンの森と呼ばれるフィールドだ。際限なくゴブリンが湧くだろう」
「「「「「はい!」」」」」
何人もの奴らが俺の指示に頷く。
こうやって俺の言うことを聞いてくれるというのは中々快感を感じるな。
最近は何かを口にすればクロイツのような馬鹿が突っかかってきていたから尚更だ。
まぁしかし、それももうすぐで終わるだろう。
「クロイツはどうするつもりなんだ?サーガ」
シャロが訪ねてきた。
「クロイツは今どうなっているんだろうか」
「さぁ、分からないが帰ってこないところを見るにまだ戦っているか、それとも倒されたか、どちらかだろうな。あいつのあの性格を考えれば倒したというのなら即戻ってきて言いふらすだろうし倒したという線はまずないと考えていいだろう」
三度の飯より崇められる事の方が好きそうなあいつの事だ。
きっと自分の活躍を3倍くらい盛って大袈裟に話して凱旋をしてチヤホヤされに帰ってくる頃合いだろう。
しかしそれをしないとなるとまだ勝てていないということになる。
まぁ、奴が勝てる見込みなどないが。
「もし、負けそうになっていたら?」
「その時は助太刀する。流石に見殺しはできないし同じ敵を追いかけている仲間だからな」
「君は本当に心が広いな。色々と問題があっただろうにそんなことを言えるなんて」
ふむ。と頷いてそう口にする彼女。
「ふふふ、そうですよ。そうなんですよ」
シャロの言葉にそう返す女がいた。
サーシャだった。
「ダーリンさんは誰よりもお心が広いんですよ。そして誰よりも強いんですよ。その心の広さは正に━━━━宇宙のようです。最初にダーリンさんを見た人間もダーリンさんは心が広かったとしか言えないくらいの感動を受けたくらいなんですから」
「そ、そうなのか」
苦笑いしているシャロ。
しかしサーシャの喋りは止まらない。
「かつて300年前、神々の黄昏を乗り切った私は路頭をさまよっていました。食べ物はなく、何も無く愛情を知らずに失意の荒野を彷徨い歩いていました。そしてその時に現れたのです闇の組織が………」
ベラベラ喋り始める。こうなったサーシャは誰に求められない。
喋らせておくことにしよう。
「………くっ………殺せ、私は言いました。闇落ちした私は光の世界には戻れません。それなのにダーリンさんは私に手を差し伸べました。闇落ちしていてもサーシャはサーシャだろ、と。私は理解しましたダーリンさんの心の広さを」
またイベントを捏造しているぞこいつ。
「そうなのです!ダーリンさんは私と出会うためだけに………ってあれ?皆どこいったんですか?」
「お前の話があまりにも長いから先に行かせた」
そう口にするとサーシャの腕を掴む。
「とにかく、行くぞお前が熱中して喋ってたせいで遅れてるんだよ」
「あっ………」
何故そこで顔を赤くするんだよ。
「こ、これはそのですね!別に嬉しく思ってるんじゃないんですから!う、嘘です!嬉しいですから!」
どっちだよ。
どちらでもいいが、とりあえず俺たちは遅れを取り戻すために走り出した。
※
あの後俺達は少し先に行かせたシャロ達と合流して更に奥へと向かったその結果
「よく来たわねーん」
サーラのいる所まで来ることが出来た。
相変わらずくねくねした動きで俺たちを歓迎する。
そしてその奥には
「ぐっ………」
理由は聞かなくても分かるだろう。
服を剥ぎ取られボロボロにされた勇者と外傷が殆どないサヤやシャーロット達が倒れていた。
「貴様!何をした!」
珍しく激怒するシャロ。
いや、聞かなくてもここで何が起きたかは何となく分かるだろ。
「貴様!何をしたかですって?見れば分かるんじゃなくて?おほほほほほ」
相変わらず気持ちの悪い話し方だな。
しかしよくやったぞサーラ。
「こ………殺してくれ………」
勇者がそんなことを口にし始めたからだ。
「も、もう嫌だ………気持ち悪い………なんなんだよ………俺が………うぅ………がぁ………」
服を剥ぎ取られて全てをズタズタにされた事で心がへし折れたのか立ち上がれすらしないらしい勇者。
「ふふふ………勇者。楽しみはここからなのよ〜ん」
そう言いながらサーラが倒れた勇者に近付いていく。
「次は皆に見てもらってるところでやりましょうか。貴方の絶望に染まって泣く顔を皆見たいそうよ」
下劣な笑い声と顔でそう声をかけ勇者を立たせる。
「ひ、や、辞めてく………ださい………もう辞めてくれ………ひっ………ぐっ………」
余りの事に誰も動き出せない。
当然のことだろう。
どんな四天王か余り前情報がない中来たのだから普通なら戸惑って反応出来ないだろう。
まさかこれから戦おうとしているのがこんな奴と誰が想定していただろうか。
「ふふふ………まだまだ夜は長いわよ〜ん魔族を舐めない事ね。私はまだまだいけるから早々に果てないでちょうだいねクロイツちゃん」
そう言ってクロイツに手をかけようとしたところに
「まぁ、待てよ四天王」
ようやく俺も動く。
今素であいつにペースを持っていかれそうになっていた。
恐ろしいやつだな。
まぁ仮に持っていかれたところで俺の勝利は揺るがないが1種の才能だ。
俺とサーラの間で一瞬だけだが視線がぶつかり合った。
「あ〜らいい男じゃない。人間もまだまだ捨てたもんじゃないわね〜」
俺を舐めるような目で見てくる。
「食べちゃいたいくらい☆」
こいつを今すぐあの世に叩き落としたい衝動に駆られたが何とか抑える。
「で〜もざんね〜ん今私にはクロイツちゃんというおもちゃがいるから貴方は悪いけどパスね。クロイツちゃんほど楽しませてくれなさそうだし」
首を横に振るサーラ。
「クロイツちゃんのように生意気な勇者を従順にするのが私は何よりも大好きなの☆だから貴方はパスかな〜☆」
「な、な、な、何がだし!」
反応するのは俺ではなくビクティだった。
こいつの高度な趣味についていけず誰もが凍っていた中口を開いたのだ。
「さっきからペラペラ気持ち悪いしあんた。私がまぢやべぇ棒で倒してやるし」
そう言って聖女の杖を武器のように握る。
おい、それ武器じゃないだろ。
「やれやれ、やっぱりこうなっちゃうか」
首を横に振るサーラ。
「あっ………もう辞めて………くれ………」
口からヨダレを垂れ流して白目を向いているクロイツをその辺に転がして俺たちに目をやるサーラ。
「そんなに壊して欲しいのなら………さぁ………来なさいな。存分に可愛がってあげるわボーヤ」
舌で唇をペロリと舐めるサーラ。
さて、ちゃんと倒されるフリをしてくれよ?
ご協力ありがとうございました。
色々と考えたのですが、サヤは救わない展開でいきます。
時間がありましたら救うという結末ももう一つの可能性という形で追加したいと考えています。
よろしくお願いします。




