46話 不安定勇者
勇者の土下座を見た夜俺はもう一度千里眼で勇者を観察することにした。
「お、俺は………」
サヤやシャーロットと共に部屋にいたが何も口に出来ない様子だ。
「な、何故だ。何故勇者の俺が盗賊のあいつに負け続けるんだ………俺は………」
負け続けていることを理解しているらしいな。
「お、落ち着いてくださいクロイツ」
「そうですわよ。クロイツ、もっとしっかりしてくださいまし」
サヤやシャーロットに励まされているが。
「お前らに俺の何が分かる?」
ついにシャーロットの胸ぐらを掴みあげるクロイツ。
「う………ぐ………」
「あんなやつに土下座までして俺は勇者をやめろと言われた。こんな屈辱初めてだ。お前に俺の何が分かる?知ったような口を聞くなよシャーロット」
シャーロットを離すクロイツ。
「げほっげほっ………」
「俺はあいつに出会ってからパーティメンバーを2人も奪われた。それでいて弟まで無残な殺され方をした………お前に俺の何が分かるんだ?これで落ち着けと言えるのか?!」
今まで溜めていた鬱憤をここで吐き出すクロイツ。
情けないやつだ。
俺を相手に吐き出せばいいものを。
自分より絶対に弱いと分かる奴を前にしないと出来ないのか?
「王からの評価もガタガタに落ちた。国民の支持も落ちてきた。挙句の果てに俺が戦争のキッカケになり得るだと?冗談だろ!」
シャーロットをぶん殴るクロイツ。
「や、やめてくださいまし………クロイt」
「あ?クロイツ様だろ?」
胸ぐらを掴んで何度も何度もシャーロットの顔を殴るクロイツ。
「お前みたいな何も無いゴミを俺の横に置いてやってんだ。感謝のひとつくらいしてクロイツ様と自然に呼べよ無能が」
これまでのストレスからか情緒がかなり不安定になってきているような感じがするな。
たまにいつものこいつになり、たまに怯えているような感じになる。本当に不安定だ。
「ご、ごめんなさいましクロイツ様………」
「そうだよ。そう呼べばいいんだよ」
シャーロットを突飛ばすクロイツ。
「お前みたいなやつに呼び捨てにされることほどムカつくとこもないなシャーロット」
シャーロットを見下したような目でそう口にするクロイツ。
「俺のことを誰だか理解しているのか?お前は」
「ゆ、勇者クロイツ様ですわ………」
先ほどの出来事で怯えたのか震える口を開くシャーロット。
「そうだ。理解しているならそれでいい………くそ………」
壁にもたれかかるクロイツ。
そうして我に返る。
「殴ったりして、悪かった」
「わ、私こそごめんあそばせですわ」
「悪い。今不安定でさ。………油断してると直ぐにこうして切れちまうんだよ」
一応謝罪するクロイツ。
「どれもこれもあいつのせいだ。あいつと出会ってから本当にろくなことがない………このまま行けばどうなるんだ………?そんな不安がずっと頭の中にあるんだ」
ここに来てようやくそんな不安を言葉にしたクロイツ。
追い詰めることに成功はしているみたいだな。
今までの勇者ならこんなこと口にはしなかったはずだ。
例え口が裂けてもな。
いい流れが出来ている。
「初めは気のせいだと思ってた。あいつが現れてから異常な事が起き始めたけど全部偶然だと思ってた。それがなんだこれは!」
叫ぶクロイツ。
既に自分の気持ちを抑えきれないのだろう。
「全部全部悪い方に行ってるじゃないか!どうなってんだよ………悪い。今日は寝かせてくれ」
そう言ってベッドに入り込むクロイツ。
俺も千里眼を切りあげた。
「最近部屋の隅で一人でいるけど何か考え事?」
俺の千里眼を使っている時の様子が気になったのか聞いてくるリディア。
「まぁ、そんなところだな」
「サーガでも考え事とかするんだね」
「俺をなんだと思ってるんだ?」
考え事くらいは流石にする。
「んー、完璧超人?」
逆に聞いてくるリディア。
「サーガって盗賊なのに不可能な事なさそうで私にはそう思えるんだけど、でも意外だなーって悩んだり考えたりするんだって」
そう言って笑う彼女。
「でも、すごく人間らしいと感じたかな。私たちと同じ人間だって安心しちゃった」
そんなことで安心されたらしい。
そう言えば聞き忘れていたことがあったな。
「例の件については順調だろうか」
「例の件?」
首を横に捻るリディア。
「貧民街と奴隷たちの件だ」
「あぁ、その件か」
頷く彼女。
話したよな?と一瞬思ったが話していたようだ。
「うん、大丈夫だよ。サーガに言われた通りにしたら全部上手くいったよ!」
リディアにそう言われて満足する。
俺は以前に開放された奴隷達や、それから病から助かった貧民街の人達を更に救おうと思い戦い方を教えたのだ。
その結果、自分たちで生活できるだけのものを技術や知識を手に入れられればいいと思っていた。
当然俺は他にもやることがある。だから暇な時間を利用して、という形でいいからビクティ達に動いてもらっていた。
「そうか。助かる」
「みんな感謝してたよサーガのお陰で全部いい方に向かってるって言ってた」
嬉しそうにそう口にする彼女。
「みんなの喜ぶ顔を見てたら私も嬉しくなってくるんだよね。えへへー。なんて言うんだろ今まで虐げられてきた人達が認められるってすごい嬉しいことだよね。サーガもそうだけど。サーガもずっと盗賊盗賊って呼ばれてたけど最近はみんな認めてくれ始めたよね」
そうだな。最近は俺の暗躍で勇者の株は地に落ちつつある。
そのおかげで俺の地位は確かに上がっているだろう。
初めは自分で意図的に起こした結果だから嬉しくはないだろうと思っていたがそれでも何だか実際に経験すると嬉しくなってしまうものだ。
「そう言えば四天王討伐の方はいつにするつもりなの?出来るだけ早く動いた方がいいよね?」
「そうだな。出来れば明日、か」
「あ、明日?!いきなりだね!」
「勇者の方もどこにいるか知っている。だからなるべく早く動かないとな。だから早めに寝ておけよ」
そう言って俺は自分のベッドに向かうことにする。
「あ、あの」
リディアが目を伏せながら俺を見てきた。
「一緒に寝てもいい?今日は2人きりがいいかな」
「分かった。こいよ」
明日から忙しくなるな。
ご協力ありがとうございました。




