44話 賭けの結果
途中でサヤや新聖女のシャーロットはクロイツと合流し、そこに俺達を加えたメンバーで王室に向かう運びとなった。
「はーはっはっは。お前たちも哀れだな馬鹿聖女共?そこの盗賊が馬鹿なせいでこれから俺の奴隷になるものな。パーティリーダーが俺の奴隷なのだから仕方ない話だが。これからは毎日俺のために体を磨きその盗賊をボコボコに痛めつける権利をくれてやる。そして1番ボコボコに出来たやつにはこの俺様と夜を共にする権利を」
「キモ」
リディアが短く言い放つ。
本当に一言だったが効果は絶大だった。
「黙れよリディア。お前は殺す。お前はその盗賊と一緒に牢屋にぶち込んで奴隷共のおもちゃにしてやるからな。せいぜい活きのいい奴隷を産んでくれ」
そんな叶いもしない会話をしているアホは無視して遠くにいる存在と会話出来る魔法を使う。
用件は簡単だ。
サーラにクルグ火山からゴブリンの森に居場所を変えろと伝えるだけ。
「このクズと寝るなんてぜってーやだし」
俺の腕に手を絡めながらそう口にするビクティ。
そんなことにはさせないから安心しろ。
そう思いながら歩いているとサヤが話しかけてきた。
「クスクス、ゲームオーバーですねサーガさん。だからあの時に言ったんですよ。私達の強い勇者のクロイツに土下座するべきでしたね」
こいつに土下座するなら死んだ方がマシだな。
「どうするつもりですか?今ならまだ許してくれるかもしれませんよ?サーガさん」
「久しぶりに俺に勝てそうだから舞い上がってるのか?」
馬鹿なやつだ、既にお前らの負けは決まっているのにな。
そんな事を話し合っていると王室まで来ていた。
「王!報告が遅れてしまいましたが四天王を見つけました!」
そう言いながら入室していくクロイツ。
「本当か?!」
「えぇ!四天王サーラを発見しました!奴は今クルグ火山にいます!」
クロイツがそう言い終わったあとに俺も口を開いた。
「いや、違います。奴はゴブリンの森にいます。その奥、湖のある場所です」
俺はより詳しく説明した。
その瞬間ざわつく室内。
当然か。
今日は偶然ギルドマスターのシャロや他の貴族達も集まっていたようだ。
「な、何故2人で意見が食い違うんだ?!」
「同じ四天王を見つけたのなら場所は一致していないとおかしい………なぜ?」
そんな声が聞こえてくるし何よりも
「お前何をデタラメを言っているんだ?」
クロイツがニヤニヤしながら聞いてくるがデタラメはお前の方だな。
「何故2人で意見が食い違う?」
シド王も疑問に思ったようで玉座から降りてきて訊ねてくる。
「こいつのは苦し紛れの嘘ですよ!王様!俺を信じてください!」
「サーガ、どうなのだ?」
「判断はお任せします。自分の情報網ではゴブリンの森にいると答えが出ましたがどちらを信じるかはお任せします」
「両方探させよう」
そう言うと王様は自分の臣下に指示を出し始める。
「両方探させろ。近くにいる人間を使え。それとくれぐれも戦闘をするなと言っておけ。勝てるわけがないからな」
「「「はっ!」」」
何人かの臣下が返事をしてすぐさま部屋を出ていく。
「辞世の句でも読んでおけよ?サーガ」
ニヤニヤするクロイツは無視して後は待つことにした。
※
暫く待っていたら臣下が戻ってきた。
「ほ、本当にいました!四天王サーラは!」
「真か?!」
「当たり前の話ですよ。四天王サーラは火山にいます。俺の情報網を侮らないでk」
「ゴブリンの森にいました!しかも湖の近くにいるようです!」
「そうそゴブリn………は?え?は?」
慌て始めるクロイツ。
せわしくなく周りに目をやっている。
「え?は?ゴブリンの森?」
「流石だなサーガ!俺の見込んだだけのことはある!」
王様が近付いてきて俺の肩を組んでくる。
そうして今度はクロイツに目をやるがその目は厳しいものだった。
「クロイツ?お前はどうしてそんなに無能なんだ?」
「何かの間違いです!クルグ火山にいますよ!四天王は!」
「そ、そうですわ!私達が力を合わせて掴んだ情報です!間違っているわけがありませんわ!何かの間違いですわ!」
新聖女のシャーロットもそんな事を言うが現実は変わらない。
「い、いえ、それが何も見あたりませんでした。火山の方にいたのはモンスターだけでした」
静まり返る室内。
「や、やるではないかサーガ」
震える口で俺の近くにやってくるクロイツ。
こいつ、あの件をなかったことにしたいらしいが。そうもいかない。
「流石俺の見込んだ………盗賊サーガだ。奴が移動することも考えていたのだな………」
無理やり顔を笑わせてそう言ってくるが
「逃げられると思うなよ?」
クロイツにだけ聴こえる声で呟くと懐に手を入れる。
取り出すのはメモリアルストーン。
そして鉱石を起動する。
『はーはっはっは。お前たちも哀れ………』
クロイツの汚い声が響き渡る。
ここにいる人間の目の全てがクロイツを捉える。
馬鹿なやつだ。黙っていればいいものを俺に勝てそうだったことで油断したのだろう。そういうところだ。
「これは何だ?サーガ」
王様の質問に答える。
「クロイツに賭けを申し込まれていました。内容は俺が勝てばクロイツが国民の前で俺に土下座するというもので、俺が負ければクロイツの奴隷になるというものです」
メモリアルストーンを持っているのがお前だけだと思っていたか?勇者。
「つ、作り物ですよ………俺がそんなこと言うわけないじゃないですか………」
後ずさり始めるクロイツ。
「仲間であるサーガを奴隷扱い?そんなことするわけないじゃないですか!」
「お前そう言えばサーガに対して嫌悪感を隠そうとしていなかったよな?それの何が仲間なんだお前」
詰め寄るシド。
「理不尽な賭けをして負けたんだなお前、哀れなものだ勇者。お前から勇者というジョブを取れば本当に何が残るんだろうな?」
見下す王様。
無言の圧力を前にしてか言葉が出ない様子だ。
何よりもその額から微少だが汗が垂れ流れている。
焦り始めたな。
「約束通りお前には土下座させてやる。これから街の広場で土下座させてやる。お望み通りな」
「そ、そんな………」
一気に顔色を悪くするクロイツ。
「しかし………俺には謝罪すべき悪事がありません」
何をどう考えたらそうなるんだお前。
いくらでもあるだろ。
「ならば聖女リディアやサーガに対して謝るんだな。お前は何度も2人を見捨てようとしたんだろ?それについて謝罪しろ。正式にな」
「………」
声も出せなくなり俯くクロイツ。
計画通りだな。
「う………嘘だ。勇者のこの俺が………土下座?嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」
そう呟く勇者の周りに集まるシャーロットとサヤがクロイツを慰め始めた。
無様なものだな。




