43話 賭け
「盗賊、お前を見くびっていたようだな」
庭園を歩いていたところクロイツに話しかけられた。
仲良く話そうなどという空気では当然ない。
「お前と出会ってから散々だ盗賊」
「神様は俺に味方しているのかもな?黒の勇者?」
皮肉げに口にしておく。
「上手く王に取り入ったようだがこのまま上手くいくとは思うなよ?盗賊風情が、と言いたいところだが」
今までとは違う反応を見せる勇者。
「もう、やめてくれ………」
「は?」
突然の言葉に何と返していいか分からなかった。
「もう………俺に関わらないでくれ………お前に出会ってから全部悪い方に転がってる。お前は悪魔だよ盗賊。俺を不幸にするためだけに存在している悪魔だ」
初めて勇者が泣きごとを漏らした。
いや、泣きごとを漏らしたことは前にもあったが俺の前で漏らすのは初めてだった。
意外だ。
いつも俺に高圧的な態度を取り命令口調で話しかけてくるあの勇者が、頼むようなそんな態度で話しかけてきたのは初めてだった。
「初めはお前を潰してやろうとそう思っていた。だがお前の怪しげな術を破る方法は見つからなかった。俺の負けだ。この呪いを解いてくれ。お前が近くにいると俺は不幸になり続ける。頼む!この通りだ!」
土下座するクロイツ。
「あ、あのパツキンが土下座………?」
隣にいたビクティも驚いていた。
みんなが息を呑む中口を開くリディア。
「バカ言わないでよ。サーガがそんな術使ってると思ってるの?あんたがやってきた悪行が回り回って帰ってきただけでしょ」
「バカを言っているのはお前だリディア。この男が現れてからだ不幸が起こり始めたのは。俺がこいつに腕を切り落とされるあの幻術を見てからだこうなったのは」
やはり幻だと思っているんだなあの時のこと。
本物の現実なのだがな。
そう思っていたら目から涙を零し始める勇者。
「まさか………弟まで不幸に遭うなんて思わなかった。もう………関わらないでくれ疫病神。お前のせいで俺たちは苦しむ。そんなに何の罪もない俺達を苦しめて楽しいか?」
笑うところかそれは。
「クロイツ、責任転嫁はやめろ」
エルザがそう言い放つ。
「お前がやってきたこと全てが自分に返ってきているだけだろ?師匠がいなくなったところで報いは止まらないだろう。きちんと罪を償え」
「罪?何が罪なんだよ」
開き直るクロイツ。
「俺は罪など犯していない。言いがかりはやめてくれ」
「はぁ?あんた何人殺してきたのか分かってるの?」
リディアが問いつめる。
「それにあんたサーガまで殺そうとしてたじゃない」
蔑むような目でクロイツを見つめるリディア。
「あれはこいつが悪い。俺のサヤの口からサーガさんサーガさんと口にするのが何よりも気に入らなかったからな。勇者の気分を害するのはそれだけで罪だ俺は悪くない」
めちゃくちゃだな。
「あんたが今不幸なのは神様が不幸にしてるんだろうね。この馬鹿は放っておいて向こう行こうよサーガ」
リディアの一言に続いてルゼル達も俺の体を触って動かそうとするが、その前に言っておくことにする。
「俺は王様の言うことには逆らうつもりはない。このまま四天王の討伐の方は進めさせてもらうし、お前の前から消えるつもりは無い」
「た、頼む………金なら積む………この通りだ………」
頭を地面に擦り付ける勇者。
血が出るのではないかと思うくらい頭を擦り付ける。
「頼む………俺は魔王を倒したいんだ頼む………手を引いてくれ。金は積む………エルザの分まで積む。リディアはもういらない。だからエルザだけはその怪しげな魔法を解除して返してくれ………そいつの腕はいい。俺をボス戦まで連れていくのに重宝しているのだ」
この後に及んでも俺がへんな術を使ってエルザやリディアを洗脳していると思い込んでいるらしい。
哀れなやつだ。
それにしてもエルザの事をやはり駒程度にしか考えていないらしいな。
「クロイツ」
エルザが勇者に目を向ける。
「どうした?エルザ?戻ってくる気になったか?それもそうだよなそんな未来のない盗賊より俺の方がいいに決まってるもんな」
「逆だ。今の言葉で私はお前のパーティに戻るつもりはなくなった。今まで育ててもらった恩はあるがここで完全に忘れられせてもらう」
「エルザ!」
土下座していた態勢から立ち上がり掴みかかってこようとするクロイツの腕を掴む。
「本人が嫌だと言っている」
「くっ………盗賊が………」
「それ以外に言えないのか?お前」
「お前は盗賊だ。盗賊に盗賊と言って何が悪い」
どうやらそれしか言えないらしいな。
「おい盗賊」
雰囲気が変わった。
どうしたのだ?
「賭けないか?」
「サーガ無視でいいよ。こんなやつ」
リディアに腕を引っ張られるが何を賭けようとしているのかは気になる。
話だけでも聞いてみるか。
「何をだ?」
「次の四天王をどちらが先に見つけるか。俺がお前より先に四天王を見つけられなければお前に謝罪しよう」
「俺には何を賭けさせるつもりだ?」
というよりお前の謝罪は賭け物として成立するくらい価値のあるものだと思っているのかこいつは。
「既に土下座は見せた。勇者が土下座するなどあってはならないことだ。俺にここまでさせたのだ。お前が負けたら俺の仲間になって一生タダ働きしてもらう」
何故それで釣り合うと思ったのか。
聞いてみてもいいのか?これは
「賭けになってないじゃないそれ」
リディアも呆れたような顔をしている。
当然だ。
何故こいつの謝罪と俺の奴隷生活で釣り合うと思ったのだこいつは。
だが、これはいいかもしれない。
どうせ先に俺が見つけるのは確定しているのだから。
いや、しかしこれだけは追加しておこう。
「謝罪は国民の前でしてくれ。しかも土下座でな」
「いいだろう」
何を考えているかは分からないがこの条件を呑むクロイツ。
さて、全国民にこいつの恥ずかしい姿を晒せる訳か。それなら釣り合うな。
「分かった。受けよう」
「アホか?お前?だがアホで助かった」
クロイツはニヤけた面で自分の懐に手を突っ込んだ。そして鉱石を取り出す。
「これがなにか分かってるな?」
その手に握られているのはメモリアルストーンと呼ばれる鉱石。
風景や音を保存出来る鉱石だ。
そしてそこから先程の会話が流れる。
「言質は取った。よし、お前奴隷になれ」
「は?」
意味が分からない。
まだ勝負は始まってすらないだろ。
「俺が何の考えもなしにこんな提案したと思ったのか盗賊。こんなこともあろうかと俺は予め四天王を見つけてるんだよ。そこから出る答えは1つ。お前はもう既に負けている」
勝ち誇ったような顔をするクロイツ。
「これでお前は一生俺の奴隷だが、喜べよ俺に土下座させたのはお前が最初で最後だ。その栄誉を胸に奴隷生活を始めろ。はーはっはっはっ」
「盛り上がってるところ悪いがその四天王は何処にいるんだ?」
「四天王サーラはクルグ火山にいる。俺はこれを王に報告するつもりだ。そして何人かを偵察に出し事実確認を行い俺は王に評価されお前は俺の奴隷になるって訳だ」
はーはっはっはっと笑い出すクロイツ。
自分から答えを話してくれてありがとうと胸の中で口にする。
そこまで分かれば対処は余裕だ。
さて、土下座させようか。
勇者の土下座………そんなものを見れば国民の意見は勇者絶対のものから多少なりは俺に変わるだろう。
そして俺が勇者になるのに近付けるはずだ。
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