40話 勇者パーティーの崩壊の始まり
俺は王様と色々と話すことにしたのだが。
「剣聖。何故サーガと共にいる?」
エルザを連れて入室したのに気付いた王様がそう聞いてきた。
「王。私は本日から師匠にお仕えしたいと思っております」
「師匠?」
首を捻る王様。
当然だ。
いきなり師匠だなんだと言われても困惑するだけだろう。
「サーガのことを師匠と呼んでいるのか?」
「はい。彼は私の師匠です」
「ふむ」
頷く王様。
経緯は聞かないんだな。
「あの豚は納得しているのか?」
「それは分かりませんが私は彼のパワハラにもう耐えられません」
自分の気持ちをはっきりと伝えるエルザ。
それを聞いて目を見開くシド王。
「何?パワハラだと?」
「はい。私はあの勇者の奴隷になっていました。もうこんな生活は耐えられません。なので、私はこれから師匠の近くで動いていこうと考えています」
「剣聖はどうする?勇者パーティには剣聖とまで呼ばれる腕を持つ剣士が必要だぞ?」
「それは別の者にお譲りしたいと思っております。私はあの勇者の近くで剣聖として過ごしたくはありません。例え地位や名誉、未来を約束されていとしてもあの勇者の近くは嫌なのです」
エルザの心も変わったようだ。
こいつの忠誠心はやはり拾われたことに対する恩から来ていたみたいだし、その恩を仇で返す事も嫌がっていた、それから何よりまた1人になるのが怖かったみたいだし、今はそれらの不安が解消されたから自分の胸の内をさらけ出せるようになったようだな。
「だがサーガは許可しているのか?」
「はい。しております」
「また仲間が増えてしまうが問題は無いのか?」
「何か問題が?」
「パーティメンバーが増えれば増えるほど指示を出すのが難しくなる。だからある程度の人数にした方が効率がいいことが多いのだが………いや、お前は頭のキレる男だったな。要らぬ心配だった、名軍師サーガだったか。杞憂だな」
そう言って豪快に笑うシド王。
その名軍師という勘違いはいつまで続くんだろう?
しかし自分からも否定しにくいな。
「そう言えば街に奴隷が溢れた件だがお前の素早い案のお陰で収束を迎えつつあるぞ。サーガ間違いなくお前のおかげだ」
「それは良かった」
正直本当に効果があるのかどうかは定かではなかったが効果があったらしく安心した。
「奴隷解放による治安の悪化は改善しつつあるが、そう言えばだが」
俺に目を向ける王様。
「クロイツの弟の件だが知っているか?」
「あまり詳しくは知りませんが知っています」
「あの年で可哀想なものだが」
ため息を吐くシド王。
だが自業自得だろうあれは。
クロイツの弟も中々のド畜生。
自分でやったことがあぁいう形で回り回って帰ってきただけだ。
現に俺はあいつとあいつに対して恨みを持っている人間を引き合わせただけに過ぎない。
あんなことになったのは自分の行いが帰ってきた、ただそれだけだ。
「その件で俺はあいつの様子を見てくる。今日は来てくれたところ悪いがお前も帰ってくれ」
「分かりました」
頷いて王と別れることにした。
※
家に帰った俺は早速千里眼を使いクロイツの様子を見ることにした。
「が………あがっ………」
流石に弟が無惨な死を迎えたのなら普通ではいられないか。
口からはヨダレを垂れ流し無様に両膝をついて顔を覆っている姿が見える。
そんな奴に話しかける王様。
「大丈夫か?勇者」
「………あ………あ………」
「弟の件は残念だったな………あんな殺され方されるなんてな」
目を伏せて語る王様。
俺も思い出したくはないほど無惨なものだった。
しかしそれだけあの弟が奴隷達からヘイトを向けられていたということだ。
そこにやってくるサヤ。
「クロイツ」
サヤが話しかける。
「あ………あぁ………」
会話にならない。
完全に飛んでいるなこれは。
「俺は………俺は………ひ、ひぃいぃ!!!!」
見えない何かが見えるのか壁までそそくさと這いずっていくクロイツ。
「あが………あぁ………あぁぁぁあぁぁ………く、来るな………化け物………」
「お、落ち着いてくださいクロイツ。何もいません」
「く、来るな!来るな!来るなぁぁぁあ!!!」
「お、落ち着いてく………」
口を開こうとしたサヤだがその続きは言葉にならなかった。
「やめろ賢者」
王様がサヤの腕を掴んだからだ。
「はぁ………はぁ………来るな………来るな来るな来るなぁああ!こっちへ来るな!」
叫ぶ勇者。
その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていて更に歪なものになっていた。
「あはははは………わ、悪い夢だ………ははは………」
「奴には時間が必要だろう」
王様が目を閉じて静かにそう口にした。
そうだな。とりあえずここはある程度回復してもらわなくてはな。
お前をまだ壊し足りていない。
俺は、次は言葉が出なくなるくらいまでお前を壊したい。
こんなことで折れてくれるなよ?
まだまだ序の口だぞ?
「とりあえず1人にしてやれ。心を落ち着かせないと何もままならない」
「わ、分かりました」
立ち上がるサヤ。
「いつまでもあの状態が続くのであれば手を打たねばならないが残念ながら現状勇者に適性があるのはあいつだけだ。とりあえず心を休ませてやれ。それでお前もあいつを支えてやれ」
「………」
「俯いてどうした?賢者」
「私達どうなるんでしょうか?」
サヤが不安そうに呟いた。
「どうなる、とは?」
「リディアもエルザも引き抜かれてしまいました。今まで頑張ってきた訓練はこれで水の泡です。このまま残りの四天王を倒し魔王まで倒せるのかなって………」
「………倒してもらわねば困る。いや、むしろ何がなんでも倒させるぞ。お前たちにいくら金をかけたと思ってる?」
静かに怒りを込めて口にするシド。
「お前たちが何かしても多少のことには目を瞑ってきたのはなぜか分かるか?お前たちの辛い運命を考えてのことだ。恩を仇で返すような真似はやめろよ?この事に関しては他国の奴らも不満に思っている。例えば勇者が各地の気に入った女を自分のものにするために、邪魔な人間を何人も殺しているのは知っている。そんなあいつが勇者である事を放棄したらどうなると思う?最悪戦争だぞ」
「そ、そんな………」
「魔王に対抗できるのはあいつだけだ。だから全員が一丸となって見て見ぬふりを続けたこともある。だが、その1点すらもなくなったとなれば………覚悟しておけよ」
「そ、そんな無理です………」
王様の前で両手を組むサヤ。
「もう少しお手を貸しては貰えないでしょうか。クロイツだって頑張ってるんです!」
「これ以上何をしろというのだ?むしろ言ってやる」
人差し指を突きつけるシド王。
「正直言ってな。他の国の奴らも不満を持ってるんだよ。都合が悪くなれば俺はお前たちを切るぞ。最近はサーガもいる」
「で、ですが!サーガさんは盗賊!魔王には勝てません!」
ここぞとばかりに勇者の優位性を話し始めた。
「俺はあいつに可能性を感じている。お前たちを何時までも庇うつもりはない。覚えておけ」
その言葉を受けてサヤが涙を流しながら崩れ落ちた。
「ではな。クロイツの様子が戻れば登城しろ」
そう言って部屋を出ていくシド王。どうやら話は終わったらしいし俺も千里眼を切りあげた。
勇者パーティーの崩壊も近いな。
そんなことを思いながら目を開けると。
「ばぁぁあぁぁ」
目の前にニンマリとした笑顔を浮かべたビクティがいた。
「ねぇ、ダーリン聞いたんだけど」
「何をだ」
「リディアとルゼルといいことしたって。根暗系なのにマージやべぇねダーリン♡」
この流れは………まずいな。
「今日は逃がしませんよ」
そう言ってビクティの横に現れたのはサーシャ。
「ふひひひ………私を快楽の園へ連れて行って下さいね………」
意味が分かって言ってるのかこいつは?
そんなことを考えていたら
「ほら、ポンコツ剣士も早く早く♡」
ビクティが部屋の外にいた誰かを連れてきた。
エルザだった。
「………」
緊張してポンコツ呼びされたことに対しても何の反応もしないエルザ。
「あの獣人3人娘が部屋の用意してくれてるから行こ♡」
ビクティが俺の背中を押す。
「そうです。今日は†冥界の契†を私と結ぶんですよ」
サーシャまでそんなことを言い出す。
「し、師匠………私はそちらの方も初めてだ。優しく手解きして欲しい………」
エルザまでそんなことを言い始める。
2人の次は1人増えて3人か。
仕方ないな。
「分かったよ。お前ら全員俺のものにしてやる」
3人を連れて寝室に向かうことにした。
長い夜になりそうだな。
ブックマークや評価ありがとうございます
励みになっています。




