3話 決闘の決着と復讐の始まり
翌日の朝、ドンドンと扉が叩かれる音で目が覚めた。
「ちょりーっすサーガちゃん」
「………」
無言で扉を閉めようとしたが、勇者クロイツによってそれは阻止された。
奴が足を挟んで止めたのだ。
「見て見てーサーガちゃん。あたしの彼ピッピすごい逞しいっしょ?」
「いい加減俺に絡むなよ………」
その汚れきった目で俺を見るな。
「え?」
「うざいんだよ。絡んでくんな」
冷めた目でサヤを見て扉を閉めようとしたが、
「今のは聞き捨てならないぞ?」
返事をしたのはサヤではなくクロイツだった。
「何だよ」
クロイツを睨む。
「ただ盗賊なだけなら何も言わなかった。しかしなんだ今のサヤを愚弄する言葉は」
「お似合いだなって言ったんだよ」
皮肉げに笑う。
「あぁ、世界を救う賢者様に勇者様、お似合いだな。その男はお前が俺に絡むのが不快みたいだし、もうこないでくれ」
「え、嘘………私たちずっと………」
サヤを睨みつける。
「分からないようなら言ってやる。俺もお前らの顔なんて見たくない。消えろよ。そこのご自慢の彼氏とかいうやつとな」
「貴様!」
俺の胸ぐらを掴んでくるクロイツ。
「決闘しろ。その首、【事故】ではね飛ばしてやる盗賊風情が思い上がるなよ」
「………いいぜ」
信じて送りだしたサヤをこうしたお前を俺は許さない。
「盗賊、広場に1時間後、だ。来い。後悔させてやる」
※
「どったのーダーリンって思ったけどそういう事ね。でも、まさかダーリンがサヤの事心配してたなんてなぁ。まじ意外」
「………」
「幼馴染だから何も思わなことはないってやつ?てかごめん。今はそっとしといた方がいいか」
「いや」
「いていいの?うるさいっしょ?」
「今更だ」
元々うるさいやつに付きまとわれていたのだ。
別に今更いなくなったところで………というより今更いなくなったなら逆に寂しい。
「へへ、ダーリン♡」
「お前は変わらないな」
「正妻の余裕てきな?ところで大丈夫なの?相手勇者っしょ?」
「問題ない」
黙って集合場所に向かう。
あいつをぶちのめす。
「ところでその格好何なの?まじでダーリンカッコイイから似合ってるけどでも根暗だからなぁ。でもまっくろくろすけコーデはナイカナー」
そんな変な格好だとも思わないが。
黒のシャツに黒の外套。
それから黒のズボンに黒のマスク。
「真っ黒じゃんマジウケルー♡」
「俺のジョブ覚えてるか?」
「はっ」
どうやら目覚めたらしい。
まぁいい。
あいつを殺す。
集合場所で待っていたら声をかけられた。
「ほう。尻尾を巻いて逃げたかと思ったが」
俺がここに現れるのが意外だったのかそう言っているクロイツ。
「………」
「何?何?まさか本当に俺に勝てると思ってるの?この勇者の俺に?」
「………」
「何とか言えよ!盗賊風情がぁ!」
クロイツが切りかかってきた。
しかし俺は素早くポーチから取り出した小瓶を投げつけた。
効果は即座に現れる。デバフを付与するアイテムだ。
俺のスキルを使わない限り手に入らない、本来は━━━━この世に存在しないアイテム。
「なっ………」
「その程度か?」
「体が………重い………な、何だよ………これ………」
「クロイツ!」
見覚えがある観客が叫ぶ。
勇者と共にここに来ていた、たしか………思い出した剣聖とか呼ばれてた奴だ。
「………」
無言でクロイツに近寄るとその顔面をぶん殴る。
「なっ………!貴様!何を!!」
「決闘、なんだろ?」
「………調子に乗りやがって」
「虐殺にならないように気張れよ勇者」
「貴様!」
威勢だけはいいな。
しかしそれだけだ。
クロイツの拳が俺の頬を捉えた。
「効くかよ」
しかし、ポスっ………そんな情けない音を鳴らすだけだった。
「なっ、………力が………」
「クロイツ!そんな奴早くやっちゃってよ!」
聖女らしき女がクロイツを応援している。
しかし無駄だ。
「何故………力が………」
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【名前】クロイツ
【ジョブ】勇者
【レベル】1
【攻撃力】1
【体力】1
【防御力】1
【素早さ】1
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・
・
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俺の目にはこいつはこう見えているし事実こいつの今のステータスはこれだ。
ステータスの初期化、さっき使ったデバフアイテムの効果だ。
「結局お前もこうなるのか勇者。つまらない奴だな」
「く、来るな!」
俺はナイフを取り出すと奴の首に向けそのまま突き出そうとした。
「や、やめてください!」
その時聖女が俺達の間に割り込んできた。
「退け」
「貴方こそ分かっているんですか?!勇者に危害を加えるとどうなるのか」
「………」
「手を引いてください。そして謝罪してください」
ドガッ!
俺は聖女らしき女の顎を蹴りあげる。
「くくくく………ははは………謝罪しろ?誰にものを言っている?笑わせてくれるなよ?聖女様?」
「な………私に手を出して………ただですm!」
聖女の首を掴んで宙吊りにする。
足をバタバタとさせているが俺を蹴ろうとでもしているのか?無駄だとも知らずに。
「聖女に手を出したら?何なんだ?代わりがいるだろ?勇者は知らないが聖女に選ばれた人間を俺はもう1人知ってる。いるんだろ━━━━代わりが?」
お前ら全員皆殺しにしてやってもいいんだぞ?
俺がどれだけ………闇の中でサヤの帰りを待ちわびたと思ってる。
それが何だあの金髪は。
俺が待ち望んだのは黒髪の大人しいサヤであってあんな勇者に調教された女ではない。
「きゃっ!」
聖女を剣聖の方になげつけた。
そうしてから勇者に目をやった。
「く、来るな!」
そう言っている勇者の真横を通り抜け、目当てのものを盗む。
「な、何を持っている?」
「………」
答える義理はない。勝負あった。これ以上続けても無駄だ。
小瓶をポンポン上に投げて遊んでその場から去ることにする。
今日はこの程度にしておいてやる。
いやいっそこのまま死んでおいた方が楽だったと思うべきだな。
「な、何を盗んだ?その色エーテルか?!」
そんなゴミアイテムではない。
「………」
自分で考えることだな。
これから………時間をかけてゆっくりといたぶってやる。
恐怖を絶望を………その胸に深く広く刻み込んでやる。
※
家に帰った俺は勇者から奪ったアイテムを棚に並べた。
盗んだのは今回使った強力なデバフアイテムだ。
「………」
涙が出てきた。
認められるかよこんな現実。
だがどうしようもないのもまた事実。
「今はあいつを殴れただけ良しとするか。それにお楽しみはここからだ」
そう呟いて寝ることにする。
嫌なことばかりだな。
寝て忘れよう。