35話 勇者を潰す
ビクティの攻撃を躱した俺は身支度を整えてリディアを連れて登城することにした。
「サ、サーガ殿!いらっしゃったのですね!」
「家にいても暇でな」
「そうなのですか!ですがいいところに来てくださいました!実はサーガ殿を探している人がいまして」
「そうなのか?」
俺が聞き返したその瞬間
「師匠」
そんな言葉が聞こえた。
待て、この声。
「来てくれたのだな師匠」
何だその呼び方だけは敬意を表しているのに、それ以外は友達に話しかけるような違和感しかない言葉は。
そういうところもポンコツさを感じるポンコツ剣士ことエルザがいた。
「………」
「師匠、外套を持とう」
「いや、構わない」
「師匠私は師匠の役に立ちたいんだ」
俺たちのやり取りをみてひたすら困惑しているリディア。
「師匠?サーガがエルザの師匠?」
「よく聞いてくれたなリディア。師匠は私の師匠だ」
待てポンコツ剣士。それでは誰が師匠なのか分からないぞ。
「ん?誰が誰の師匠なの?」
「師匠が私の師匠だ」
全く同じ過ちを繰り返すなポンコツ剣士。
「????」
会話が成立しないエルザを見て首を捻るリディア。
仕方ないな。
「以前このポンコツ剣士と手合わせした事があってな」
「私はポンコツ剣士ではない師匠」
そう言ってからリディアを見るエルザ。
「私はそこで師匠に負けた。それから誓ったのだ。私はこの人の弟子になると」
ここまでのポンコツ剣士を弟子に持つと苦労するな。
「よく分からないけどサーガがエルザの師匠なの?すごいねサーガ。流石私のサーガだよね」
俺の腕に抱きついてくるリディア。
その顔はすごく嬉しそうだ。
「私の、サーガ?」
だがその言葉を聞いて首を捻るエルザ。
「エルザ私達結婚するの」
「け、結婚?」
本当に驚いているような顔をする彼女。
「師匠とリディアが結婚?それはめでたいことだ」
頷くエルザ。
「そうだ。エルザもあんな勇者見捨ててこっちにこない?」
手を叩いてそう勧誘しているリディア。
「それはできない」
はっきりと否定するエルザ。
やはり忠誠心はすごいな。
「私はクロイツに恩がある。仇で返すことは出来ない」
「前から気になってたんだけど何があったの?クロイツとの間で」
「それは………」
彼女が口を開きかけた瞬間だった。
「こんなところで何をしている?エルザ」
クロイツとサヤ、それから見慣れない女が現れた。
「それに盗賊と、その怪しげな術に引っかかった馬鹿な女か」
ふんと鼻で笑う勇者。
「リディアも馬鹿なヤツだ。この俺の横を離れさえしなければ名誉も将来も約束されたというのに。その盗賊は直ぐに名を地に落とすことになることも知らないで」
「あら、クロイツ馬鹿はどっちかしら?」
俺の腕に抱きついたままそう返すリディア。
何だこの自信は。
こいつまた何か計画を立ててきたのか?
「おーほっほっほっほ」
その時見慣れない女が声を上げた。
「1億年、早いですわ」
なんだこの女。
「紹介しよう」
本人に名乗らせて欲しいのだがクロイツがしゃしゃり出てきた。
「俺の女だ」
「そうでしてよ」
クロイツの腕に抱きつく女。
「俺たちのパーティに新しく加わった聖女だ。リディアお前よりも強い」
「そうですわ。聖女リディア。私は貴方よりも魔力が強いのですわ。それに気付いたクロイツが私をスカウトに来ましたの」
嘘をつけ。
それはいつのデータかは知らないが俺の仲間になってからのリディアは俺の道具でステータスを上げている。
勝てるわけが無い。
「私の魔力値は歴代最高クラスの800ですの。500程しかない貴方とは違ってよ?聖女リディア」
残念だったな。リディアの魔力値は1000を超えている。
「あら、新しい聖女さん。それは強いわね」
「当然でしてよ。貴方のような頭の悪いお馬鹿さん相手に私が魔力値で負けるわけがありませんことよ。オーホッホッホ」
よく笑う女だな。
「クロイツのパーティを抜けてまでその盗賊を選ぶなど馬鹿でしてよ聖女リディア」
「あなたこそバカみたい。その勇者は勇者であること以外の取り柄なんてないのに」
「今何と言った?」
挑発に見事に引っかかるクロイツ。
「聞こえなかった?虫けら未満と言ったのよ」
「虫けら?この俺が?はっ負け惜しみもその辺にしておけよ?リディア」
「そっちこそ。サーガが直ぐにあんたの地位なんて奪うんだから」
「奪えるもんなら奪ってみろよ。どうやって奪うのか楽しみにしているぞ?リディア」
はーはっはっはっは!!!そう笑うクロイツ。
そして
「盗賊お前を潰してやるから覚悟しておけよ?勘違いするなよ?お前が俺を潰せる可能性は万に1つもない。魔王は勇者にしか倒せないのだ。だからみんな俺にペコペコ頭を下げる。目の前の脅威を取り除ける男が俺しかいないのだから機嫌を取る。お前も媚びへつらうことを覚えろよな?盗賊」
「そうですよ。サーガさん」
久しぶりにサヤの声を聞いた気がする。
「あなたは所詮盗賊。怪しげな術しか使えないのですからそれを白状してクロイツに今すぐ土下座して下さい」
「誰がするかよ」
「後悔しないでくださいね?」
「誰が」
そう口にしたあとにサヤの目を見つめる。
「な、何ですか?」
「お前こそ後悔するなよ?」
「するわけないじゃないですか」
「そうか」
ならいい。
お前が後悔していないなら。
「勇者とお幸せにな。その先が地獄だろうとお供してやれよ?」
皮肉げにそう言ってその場を去ることにする。
さて、と。
ここに来た理由を果たすとするか。
※
家に帰って情報をまとめることにした。
今日1日王城内を歩き回って今の貴族達の関係についてある程度把握した。
クロイツは自分で言った通りかなり繋がりの深い貴族達が多い。
しかし反面あいつの事をよく思っていないやつもそこそこいるようだ。
狙いはそいつら。
敵の敵は味方というわけでもないが、そういう奴らから見た俺という存在は革命を起こすための存在にも見えるようだ。
今日は複数の貴族と接触することに成功した。
その殆どがそれなりの力がある有力貴族。
そして中にはクロイツの登場により立場が危うくなっている者もいた。
そいつらと俺は手を組みたいところだな。
そしてクロイツの家は叩けば叩くほど埃が出てくる家系。
俺の調べたところかなり黒い部分が存在する。
例えば奴隷の販売だったり獣人の販売。
そんなものと繋がっていたりする。
貴族など何処もそんなものだろうと思っていたが予想外に埃塗れのやつだった。
なるほどな。だからあんなにも人をゴミ同然にしか思えないわけだ。
納得すると同時に俺はここに攻略の糸口を見つけた。
黒い部分があるということはそこについては本人も恐らく触れたがらないはずだ。
そこが仇となる。
「何を考えてるの?サーガ」
俺が黙り込んでいるのが気になったのか話しかけてくるリディア。
「クロイツを潰す」
「え?どうやって?」
「奴は暗部に繋がってる。それを潰す」
「潰すとどうなるの?」
「例えばの話だが奴隷を販売しているヤツらとの繋がりを絶てばそこからの金の動きはなくなる。そうすることで奴は金に困るはずだ」
何をするにしても金が必要になる。だがそれがなくなるということは奴を一気に追い込むことが出来るだろう。
「奴隷の販売?」
「知らなかったのか?あいつは真っ黒だ」
「え?知らなかったよ」
やはり知らされていないことか。
まぁいい。
どのみち俺がやるのはあいつを徹底的に叩き潰すことだけ。




