33話 3人娘と責任
「んん………ここは?」
「………」
「お、お兄ちゃん誰ですか?」
獣人3人が目の前にいる。よく聞こえそうな犬の耳。
目がパッチリしている女の子と眠そうな目をしている女の子、それから気の弱そうな女の子だった。
全員金髪に金色の目を持っているのを見るに姉妹なように見える。
歳は15くらいだろうか?
「こ、これは………?」
ビクティが恐る恐る聞いてくる。
隠し通すのも無理そうだな。
「さっきのケルベロスは呪いで作られたものだ」
「え?何それ?」
「何かを生み出すには何かを差し出さなくてはならない。差し出したのがこの獣人達だ」
獣人3人でクロイツはケルベロスを作りあげた。
そして訓練に行くミスリル鉱山に先にケルベロスを配置していた。
俺の悲鳴は奴が何かしらの手段で用意したのだろう。
こんなものを用意出来るやつだ。そんなものの用意くらい造作はないはず。
「そんなのあるん?まじやばくね?」
「封印されたはずだがな。何処からか掘り出したんだろう」
もっともケルベロスで俺を殺せると思っているのは片腹痛いが。
しかし、こんな呪法を知っているのなら見逃せないな。
「誰が作ったん?ケルベロスなんて」
「クロイツだ」
「あのパツキンが?」
「あぁ。正確にはクロイツではなく、奴の周りの連中だろう」
「あいつ最悪じゃん」
珍しく怒りを前面に出しているビクティ。
あいつの行いに腹を立てているようだな。
だが今はあいつの話ではない。
3人娘に目をやる。
「記憶はあるか?」
1人に声をかけてみることにした。
パッチリ目を開いた少女だ。
「知らない人に連れてかれて知らない場所で魔法陣の上に乗ってたよー」
「そうか。とりあえず名前を教えて貰えるか?俺はサーガ」
全員を見ながら自己紹介した。
「私はミケだよ」
目がパッチリしている少女はミケらしい。
「………リトル」
眠そうな目の少女はリトル、か。
「し、シーラです」
これで最後の気の弱そうな女の子の声。
全員の名前が分かった。
「先程の会話は聞こえていたか?」
「な、何となくは」
ミケが答えてくれる。
「聞いていたら何があったから分かるか」
「な、何となく?ごめんなさい。私達あんまり頭良くないから難しい話は分からなくて」
「それならそれで構わない」
それなら今どんな事が起きていたのかも分からないのだろうか?
それならそれでいいかもしれないが。
「あの私達は何をすればいいの?」
「?」
何を言いたいのか分からない。
「ここに連れてきたのお兄さんだよね?」
それはそうだが。
「帰る家もない獣人の私達を拾ってくれたから何かさせたいことがあるのかなって思ったんだけど」
「いや、その拾ったヤツと俺は別の存在だ」
「そ、そうなの?じゃあお兄さんは誰?」
「ただの盗賊だ」
「何が起きたか分からないけどお兄さんが新しい飼い主さん?」
「飼っているつもりはない。出ていきたければ勝手に出ていくといい」
「で、でもそれだと私達飢えちゃう」
そういうことか。
「ねね、ダーリンあのパツキン許せないんだけど私」
同感だな。
放っておくわけにはいかない。
そんなことを考えていた時。
「サーガ様お風呂凄く広いですね」
「ほんとに広かったね。サーガの活躍が王様に認められたようで私も嬉しいかも」
「たしかにあの広さでは私達3人では勿体なかったですね。あそこはダーリンさんも来るべきでした」
体を洗いに行っていたルゼル達が戻ってきた。
そしてこの部屋を見て凍る。
「な、何をしてるんですか?獣人?!」
「え?獣人?どうして?しかも裸?」
「こ、これは………組織からの刺客………?もう新居を突き止めるなんて………」
3人がそれぞれの反応を見せてくれるが皆の頭の中で考えているような事態ではないことは説明しておくか。
「拾った」
「ひ、拾った?」
リディアが近付いてきた。
今のところこいつらの正体はビクティにだけ教えておくということにしておこうか。
ビクティに視線をやる。
「3人を風呂に連れていってやってくれないか?」
「分かったっぴ。ビッカビカにしてくるっぴ」
ビッカビカって………その何となく汚そうな表現はどうにかならないのか?
俺はビクティ達を見送ってからソファに座る。
「拾ったって何で拾ったんですか?!」
サーシャが早速聞いてきた。
「この家は広い。だから掃除とかしてもらおうかなと思ってな」
「それはこの家事担当の女騎士サーシャがいるでしょう?!」
「お前にやらせると仕事が増えるだけだ」
現にサーシャは今日早速調味料を床にばら蒔いてくれた。
「あ、あれは組織の攻撃を………そう組織からの嫌がらせですよ!私とダーリンさんの仲を引き裂こうとする組織からの嫌・が・ら・せ・です!」
その嫌がらせでどうやって俺とお前の仲を引き裂くつもりなんだ?組織は。
「おのれ!組織の連中め!この女騎士サーシャが成敗してくれます!」
何故か部屋を飛び出していったサーシャ。
お前バスタオル1枚纏った姿で何処に行くつもりだ。
千里眼で観察してみたが自分の部屋に戻っただけだ。
服に手を伸ばそうとし始めたのをみて千里眼を辞めた。
どうやら着てくれるらしいな。
「3人きりになっちゃったね………」
顔を赤らめて俺を見てくるリディア。
だからなんだと言うのか。
それにそれを言うならば2人きりになっちゃったねじゃないのか?
「………」
俺の横に座ってくるリディア。
「ね、早く行こうよ」
何処に行くんだよ。
お前には何が見えてるんだよ。
「何処に行くつもりだ?」
「え?決まってるじゃん。そのために体洗わせたんじゃないの?」
恥ずかしそうにそう口にするリディア。
「ルゼルも入れて3人でもいいよ」
「え?何がですか?!」
おどおどしているルゼル。
「サーガにならいいよ………」
「何がだよ」
「分かってるでしょ?私から言わせるつもり?」
「………」
「ほら行こうよ」
俺の腕を引っ張って立たせるリディア。
「仕方ないな………」
だが俺はもうこの時点でリディアを愛おしく思っていた。
更に自分を抑えられる自信がなかった。
何よりも、仕方なく仕込んだ事とはいえその結果こんな俺をここまで好いてくれているのだ。
無下にしていいのか?
責任を取るべきではないのか?
「ほら、行こうよ。サーガといたい」
そんなに可愛い顔をして言われたら断れるものも断れないな。
「分かった。行こうか。ほらルゼルも」
俺もどうやらそこそこの間皆といたことで彼女達をよく思っているらしいな。
可愛がってやることにするか。




