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32話 勇者の苛立ち

 翌日俺たちは王都に戻ってきた。

 早速王様に事の経緯を報告したが。


「よくやったぞ!サーガ!お前は英雄だ!」


 英雄呼ばわりされていた。


「流石です。王様の人選は素晴らしかったようですね。そしてその王様に選ばれたサーガも素晴らしい!」


 シャロまでもそんなことを口にしている。


「いえ自分は何も………」

「それに引替えお前は何だ?クロイツ」


 王がクロイツに向けて呆れたような目を向ける。


「………ぐっ………し、失礼しました………」

「正直サーガには期待していなかったし、むしろお前には期待していたのだが、結果は逆だ。期待していなかった方が期待していた通りの結果を出した」


 話を聞く限りクロイツも何かを頼まれていたようだな。


「お前は貴族だろう?クロイツ?資金もあるし、人脈もある。それなのに、貧民街の病は蔓延する一方だった。それに比べて何も持っていないサーガが先に解決の方向に事を動かした。お前は何をしていたんだ?確かにお前は貧民街には行けなかったがこれはどういうことだ?」

「で、ですが王!あんなもの普通は解決できませんよ!そこの盗賊が妖しげな術を………」

「まだそんな事を言っているのか豚」

「ぶ、豚?!」

「口を慎めよ豚勇者が」


 呆れたような視線を向け続ける王様。


「人脈、資金などの全てを与えられているのに何一つ有効活用出来ずに病を蔓延させるだけとは、正に豚に真珠というやつだろう?だからお前は豚なのだクロイツ」

「ぐっ………」


 今こいつの精神力が50まで減った。

 相当豚呼ばわりされるのが気に食わないらしいな。


「無能が露見してきたな?クロイツ?」

「か、必ずや………」

「何度その言葉を使うつもりだ?豚」

「こ、今度こそは!」

「もういい。その言葉は聞き飽きた」


 そう言い今度は俺に目を向けたシド王。


「サーガ。俺は今お前に物凄く期待している」

「ありがとうございます」


 礼を言っておく。


「褒美を取らせよう。何か欲しいものはあるか?」

「何もありません」


 俺にとっての褒美は勇者の苦しみ。ただそれだけだ。


 こいつが破滅への道をゆっくりと確実に辿っている姿をリアルタイムで見れさえすれば他に欲しいものは無い。


「何と無欲なやつなのだ。しかし謙虚な奴でいい。気に入ったぞサーガ!やはりお前は素晴らしい人材だ!」

「お褒めの言葉ありがとうございます」


 背中を折って礼をする。


「あの無能勇者は使えないのでお前を勇者にしたいぐらいだが、まだ納得しない奴もいるだろう。そこでとりあえずお前には貴族としての名を与える、アストレア。お前はそれを名乗るがいい」

「アストレア、ですか?」

「あぁ。既にラストネームを持っているのならミドルネームにしてもいい」

「いえ、持っていないのでラストネームにします。でも俺が貴族?」

「あぁ。貧民街を救った英雄が名もない何処の馬の骨か分からない存在では色々と不都合がありそうなのでな」


 そういうことか。

 しかしいい流れだと思う。


「ま、待ってください王様!こいつが!貴族ですか?!貴族の信頼に関わる問題です!」


 クロイツがこう言うということはこいつにとって良くない流れなのだろう。

 であるのなら俺にとってはいい流れだ。


「口を慎めと何度言わせるつもりだ?」

「し、しかし!」

「お前よりサーガの方が有能であることを示した。結果を出した者に褒美をやるのは当然であろう?」

「だが、あいつは何も望まないとそう言いました!」

「話を聞いていたか?活躍した人間が何処の馬の骨か分からない存在というのは問題があるのだという話をした」

「ぐぅ………」


 それで黙ってしまうクロイツ。

 流石に王様相手には強く出れないか。


「貴族というと何かしなくてはならないことがあるのでしょうか?」


 面倒ごとは嫌いなのだが。


「いや、お前は今やパーティのリーダーだサーガ。特別にこれと言った仕事を押し付けることは無い。ただ【アストレア】でいてくれるだけでいい」

「サーガこれはすごく名誉な事だよ」


 シャロがそう言ってきた。


「アストレアは王に認められることでしか与えられない名だ。それを与えられたというのは君が認められたということになる」


 そうなんだな。


「これからも期待しているぞサーガ」


 王様のその言葉で今日は解散することになった。



 俺は王様に家を貰ったのでとりあえず宿からそちらに住む場所を移した。

 そして久しぶりに千里眼でクロイツの様子を伺っていた。


「くそ!どうなってやがる!」

「落ち着いてくれクロイツ」


 イライラしてストレスがかなり溜まっているのか物に当たり始めたクロイツ。


「俺は勇者で貴族の出だぞ?!エリート!誰もが憧れるエリート!そのエリートと何故あのゴミのような盗賊の地位が同じなのだ!」

「それは………」

「エルザ!お前のせいだ!」


 エルザについに手を上げたクロイツ。

 拳を振り上げてエルザの顔を殴りつける。


「お前貧民街で何をしてきた?エルザ。俺はあいつの邪魔をしろと伝えたはずだ」


 本当にクロイツの命令だったのか。

 あのポンコツ剣士は本当に嘘をつけないのだろうか。


「すまない………私が目を離した隙に奴は消えていた」

「消えるわけがないだろ?!動きがゴキブリのように早いだけだ!目を離すなとも言った!何のために目をつけているお前!」


 クロイツがエルザの髪を掴み持ち上げる。


「す、すまないクロイツ」

「すまないで済む訳がないだろ!」


 何度も何度もエルザを殴りつけるクロイツ。

 肩で息をしている。


「はぁ………はぁ………」

「すまない………クロイツ。私の落ち度だ」

「クソが!」


 最後に1発エルザを蹴りつける。


「も、もう辞めてくださいよ!クロイツ!」


 流石にサヤが止めに入った。


「わ、悪い………」


 そこで我に返ったのか謝る。


「2人とも帰ってくれ。今日はイライラしている」


 そう言ったクロイツは2人を帰らせた、だがその数分後にまた人が来た。


「クロイツ様」

「お前か。ミスリル鉱山での件どうなっている?ケルベロスならあいつを仕留められるんじゃなかったのか?!」

「そ、それがあやつケルベロスから逃げ切ったのではなく━━━━倒しておりました」

「何だ………と?」


 顔を青ざめさせクロイツ。


「我々が確認しにいったところ残骸の1つすら残っておらず」

「ケルベロスの調整が甘かったんじゃないのか?くそ!こんなことになるのならお前ら無能に任せずに俺が見ているべきだった!」


 この話を聞く限り鉱山での1件は全てこいつが仕組んでいたことらしいな。


 まぁ、分かっていたことだが。

 俺を殺すのに随分と小細工をしている。


「せっかく作ったケルベロスも役に立たず、挙句の果てに貧民街の病まで解決………とことんついてねぇよ」

「次はどうしますか?」

「隙を見てエルザに殺させるつもりだ」

「あの盗賊は相当腕が立ちます。殺れるでしょうか?」

「殺らせる。何がなんでも殺らせる。あの目障りなゴミムシが目の前を飛び回っていること以上に鬱陶しいことはないからな。エルザ1人の命でゴミムシを処理できるなら万歳だ」


 こいつエルザを捨て駒にするつもりか。

 そんなことを思いながら千里眼を切りあげたのだが、そこにはビクティの姿があった。


「ダーリンさっきから話しかけてるのに何で無視すんの?」

「いたのか」


 別に無視していた訳では無い。聞こえなかったのだ。


「は?!いたし!ずーっとダーリンの目の前でおっぱい見せつけてたし!」

「………」

「何その目。やば♡蔑まされてるようで興奮するし♡もっとその目で見て欲しいナ♡」


 絶対に見ない。

 心の中でそう思いながら俺はアイテムポーチからケルベロスを取り出すことにした。


「は?何そのワンワ………え?!ケルベロスぢゃん!ぎゃぁぁぁ!!!!」


 俺の後ろに避難するビクティだが、こいつは噛みもしないし何もしない。

 俺はケルベロスの頭の1つに指を押し当てた。


 魔法リードを発動する。

 対象の情報を自分の頭の中に叩き込むと………


「やはりか」

「え?何がやはりなん?教えて」


 後ろで何か言っているが俺は構わずにアイテムポーチから小瓶を取り出すとケルベロスの体に当てて割った。

 するとモヤモヤと緑色の煙が発生した。


「ゲホッ………ゲホッ………なんだしこれ」


 苦しそうに咳き込んでいるが別に咳き込むような煙じゃない。

 煙が晴れるのを待っていると。


「え?!何これ………獣人?まぢ?」


 ビクティの反応した通りそこには女の獣人が3人いた。



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