31話 ポンコツ剣士と師匠
貧民街まで戻ってきた俺はビクティ達と合流してから、サーラから貰った薬草を貧民街の人達に配る。
「あの病が治った!すげぇよ!サーガさん!」
「ありがとー盗賊のお兄ちゃん!」
「あなたは救世主です!盗賊さん!」
その結果続々とあの病が治ったという報告が俺の耳に入ってくる。
「ダーリンすご!こんな薬草何処で見つけてきたん?」
「ちょっとな」
この病を流行らせた元凶に貰ったとは言えないな。
「えぇ、教えて欲しいし?」
「………」
首を横に振るだけに留めておく。
「サーガさん!サーガさん!」
貧民街の人達が俺に近寄ってきた。
「本当にありがとうございます!」
そう言って頭を下げる人達。
「先が見えず不安でしたが、あなたのおかげで私たちはもう一度未来を見ることができるようになりました。本当にありがとうございます!」
「気にするな」
「このお礼はどのようにしたらいいでしようか?」
「気にするな」
それよりも俺は早く帰りたい。
ここに長居するつもりは無いし役目は果たした。
ここにいる必要は無い。
「で、ですが」
それでも食い下がる人々。
善意で言っているのは分かるがそれでも長居するつもりはない。
そう思っていたが。
「えぇ?いいじゃんいいじゃんパリピしていこうよ♡」
1人乗り気な奴がいた。
「そうですよ。ここは甘えていきましょうよ!素直に人の好意を受け取れるのは恥ずかしいかもしれませんが、その試練こそが私達を失われし楽園へ導くのです」
サーシャもどうやら満更でもないようだな。
ルゼルとリディアにも目をやって見たが2人とも嫌がっている様子は見せない。
仕方ないな。
「なら甘えていこうか」
「は、はい!あちらの酒場へ!お食事の準備をしておりますので!精一杯おもてなしさせていただきますので!」
※
俺達をもてなしている食事会の途中俺は1人で外に出た。
1人俺を監視している奴の気配があったからだ。
そして俺はそいつの名前も知っている。
そいつが潜んでいる物陰の近くまで言ってから目も合わせずに口を開く。
「それでバレてないとでも思ってるのか?生憎俺は盗賊という性質上周りの視線には敏感でな」
「………」
本当にバレてないと思ってるのか?
ポンコツ剣士というやつだな。
「聞いているか?エルザ」
「っ!」
本当にバレていたのか?!というリアクションをするエルザ。
「バレていたのか」
「敏感だと言っただろう?お前のように尾行に慣れてない奴の視線などすぐに分かる」
もっとも尾行慣れしているやつの尾行でも分かるが。
「盗賊、昼間は何処に行っていた?」
「別に、ただ野草を摘みにな」
「女々しい趣味を持っているようだな盗賊は」
俺の横にくるのは勇者クロイツのパーティにいる剣聖と呼ばれるほどの腕を持つ女エルザ。
「とても薬草の知識まであるようには見えないが」
「人を見かけで判断するなよ?」
「………それもそうか」
「で、何の用だ?勇者サマにでも頼まれたか?」
「まぁ、そんなところだが」
そう言って俺を見てくるエルザ。
「お前がちゃんと役目を果たしているのか見てこいとな」
「言われた仕事はする」
「そうか」
こいつとは話したことないし何を話せばいいのか分からないな。
「なぁ、盗賊」
そう思っていたが意外にも向こうから話しかけてきた。
「手合わせをして貰えないだろうか?」
「手合わせ?」
「私達は今は仲間なんだろう?それならお互いの手の内を知るということにもなるし、私は純粋にお前の刃を見てみたい」
「………」
何が狙いだ?
「そんな怪訝な顔をするな。別に狙いがある訳では無い。これにクロイツの考えはない。私自身の希望だ」
「隠し事は苦手か?誰も何も言っていないのにそこまで話すとは」
「………」
赤面するエルザ。
「ち、違うこれは………」
俺が思うに最も尾行に向いていないタイプの人間だな。
だがまぁそういう人間は嫌いじゃない。
裏表がないということにもなる。
「いいだろう。手合わせをすればいいのだな?」
「いいのか?」
「俺も剣聖の刃を見てみたくてな。刃までポンコツのポンコツ剣士でないといいのだが」
「むっ………ポンコツと言うな」
少し苛立っているような声を出すエルザ。
「私はポンコツではない」
その発言が既にポンコツっぽさを感じるが。
まぁいい。
「それと場所は既に抑えている。今からで問題ないか?」
「構わない」
「こっちへ」
そう言って先導するエルザに俺はついて行く。
さて、ここからだな。
俺は正直この女の落とし方について全く考えていない。
こいつのクロイツへの忠誠心というのはリディアとは比べ物にならなさそうなものだからな………。
どうやって崩そうか。
骨が折れそうだ。
とりあえず過去を聞き出すことから始めてもいいが。
クロイツとの間に何があったか知れれば攻略が楽になるかもな。
そうしてついたのはちょっとした広場だった。
今は誰もいない。
「少し狭いが人目は届かない。手合わせしていても誰も気付かない。もっともそれを利用してお前を殺そうなどという考えはないから安心してくれ」
何故俺を殺せる前提でいるのだ。
普通ならばどういう理由であれそういう事は口にはしない事だろう。
「隠し事が本当に苦手なんだなお前」
「なっ!悪いか?!」
「そう怒るなよ」
「怒ってない!馬鹿にされた!とかも思っていない!」
じゃあ何なんだよその態度はと聞きたいが。
というより自分から答えを言ってくれたな。
そんなことを考えていたら少し頬が緩んだ。
「お前もそんなふうに笑えるんだな盗賊、いや、サーガと呼んだ方がいいか」
「呼びやすい方で構わないぞ」
「私だけ盗賊呼びでは失礼だろう?」
本当に真面目なやつだ。
クロイツに爪の垢を煎じて飲ませてやってくれ。
「と、無駄話はこんなものでいいか?手合わせといこうか」
「あ、あぁ。好きなタイミングで仕掛けてきてくれ。ハンデだ」
そういう事なら、俺は踏み込んでナイフを首に突きつけた。
「なっ………」
反応することすら出来なかったようだな。
「続けるか?それとも剣を抜くか?お前が剣を抜くのと俺のナイフがお前を傷付ける………どっちが早いかは明確だろう?この状況がどういうことなのか剣を持つ人間なら分かるだろう?」
「………参った」
俺がナイフを離すとガクッと片膝を着いたエルザ。
「私は………なんて無力なんだ………」
真面目だな。
「盗賊に負けるなんて」
真面目な奴だ、それだけに負けたことに対して落ち込んでいる。
どんな言葉をかけてもどうにもならなさそうだな。
「………」
無言で立ち去ろうとしたが
「ま、待ってくれサーガ」
立ち上がって俺の肩を掴んできたエルザ。
「今後もこういった手合わせをして貰えないだろうか?サーガの動きは今までに見たことの無いものだ、その動きを見極められるようになれば私は更に上にいけると思う。負けて反省することで私はもっと強くなれると思う」
想像もしていなかった接触する理由が出来そうだな。
ならば
「構わない。暇な時に声をかけてくれ」
「あ、あぁ!分かった。それと完敗した………クロイツは許さないだろうが、二人の時はサーガの事を師匠と呼んでもいいか?私は今あなたを尊敬した」
「それは勘弁してくれ。サーガでいい」
手を振りながらこの場を後にすることにした。
師匠なんて呼ばれる人間じゃないぞ俺は。




