29話 貧民街
翌日俺達は貧民街まで来ていた。
正直何をどうすればいいかは分からないところだが、俺のスキルで何とかするしかないか。
「うへーくっせーマジテンションサガルワー⤵︎ 」
久しぶりに静かになったと思っていたビクティだがやはり根本は変わっていない。
「王様前にしたらすっげぇ緊張したけどダーリンすごいよね♡王様相手にあんなグイグイいけちゃうなんて♡」
そんな事をやってのけた相手にグイグイ来るお前も中々すごくないか?
「は?ダーリンは別腹だし♡」
訳の分からない理論だし、また心の中を読まれたな。
「顔に出てるし」
「何の話してるの?」
「きっと失われし楽園の在処について話しているところですよ。そうですよ早く………見つけなくてはロストキングダムダークを」
移動中の馬車の中でリディアはビクティ達と割と仲良くなっていた。
少し心配だったが杞憂だったな。
「ロストキングダムダークって?」
リディアに聞かれたが俺も知らない。
「300年前………」
お前の中では300年前に何が起きてるんだ。
「大占星術師ロストラダムスが大予言を行いました。『失われし楽園を見つけなさい。世界は闇に………ぐぉぉぉぉぉ!!!!!早く!ワシはだめだ!未来はお前達に任せた。うごごごご!!!!』」
意味がわからん。
今の一瞬で大占星術師に何が起きた。
「そ、そうなんだねっ!分かった」
絶対分かってないような返事をするリディア。
俺も理解不能だからそれでいい。
「ロストラダムスってぜってー童貞だよね。占星術師とかマジウケル︎ ⤴︎」
今何の話してるんだ?
「そうですね、ロストラダムスは生涯ロストキングダムダークについての研究だけを………」
「そのキングダムダークって何系?」
「ダークシャイニング系に存在していると噂されてる全ての【内なる闇】が蠢いていると呼ばれる悪魔の場所です」
「マジやばそうじゃね?それ」
奇跡的に会話が噛み合ってるのか?これは
「あ、あのサーガ様」
俺の裾を引っ張ってくるルゼル。
「どうした?」
「あの人たち視線が怖いです」
俺の体に抱きついてきたルゼル。
よく見たら目が血走っている住民が多いな。
治安が悪いとは聞いていたが。
それにしても来た瞬間、熱烈な歓迎を受けてしまいそうになるとは思わなかったな。
「女だ女だ」
「久しぶりに見たな女なんて」
「あの育ちの良さそうな女なんて高そうなネックレス付けてんぜ?」
ギャーギャー言い合っている2人は聞こえていないらしいが。
俺にはハッキリと聞こえる。
「襲っちまえ!」
「俺はあの男にしがみついてる女にするぜ!」
「じゃあ俺はあの意味分からないこと叫んでるエルフ!」
「俺はあの如何にも聖女っぽい女にするぜ!」
そして今奴らが動き出した。
5人くらいか?何人いても変わらないが。
「ひ、ひぃぃぃ!!!」
なぁ、ルゼル何を怖がってるんだ?
「来たよサーガ」
杖を構えるリディアだが。
「エルフ!こっち来いよ!」
「へっへっへ!そうだぜ!大人しくしろ!」
走るのが早い2人組がサーシャを狙おうとしたが
「うるさいです!気が散ります!食らってください!ハイパー━━━━銭投げ」
謎のアイテムを投げつけるサーシャ。
「「ぐおっ!」」
倒れる男2人。
「な、何だこの女………い、いや!やっちまえ!」
遅れていた3人だがそれを見ても突っ込んできた。
「ギャーギャーうっせぇし!」
持っていた杖で3人の男をぶん殴る戦う聖女ことビクティ。
「ギャーーー!!」
3人はそれで倒れた。
「ちょっとダーリンさん今の見てましたか?この聖女(殴)でしたよ!ゴリ聖女じゃないですか!」
「はぁ?あんたこそ謎のアイテム投げるだけで男2人倒すような肩ゴリラだし」
「私はゴリラじゃないですけど?!闇の世界に生きる女騎士なんですけど?!」
「女騎士が謎のアイテム投げんなし。剣で戦えっつーの!」
「私はお淑やかな聖女ですから剣なんて持ってませーん」
「きぃぃぃ!!!!謎のアイテム持ち出す奴がお淑やかとかないし!私の方がお淑やかだし!」
それはない。
と心の中で呟く。
言い合う2人を無視してとりあえず男たちを吸引魔法のマグネで近くに引き寄せた。
そうしてロープでぐるぐるに括る。
はぁ、面倒臭いなぁ。
2人ともやり過ぎだ。
何人か死にかけの奴がいる。
恐らくあれだ、サーシャの投げた謎のアイテムのせいだ。
適当な言動からは想像もできないがあれ、かなりの強技のようだな。
2人ともHPがギリギリまで減らされてる。
「リディア回復を頼めるか?」
「か、回復するの?」
「あぁ。話を聞きたいしな」
そう言うと彼女は頷いて魔法を使ってくれた。
「でもいいの?折角倒したのに。ていうか2人とも凄くない?」
ビクティ達を見て首を捻る彼女。
「あれだけ近接戦闘強い聖女見たことないんだけど」
「あいつらは例外だ」
俺もあの2人の他に戦う聖女なんて知らない。
「サーガ様」
俺の裾を引っ張ってくるルゼル。
「サーシャ様のジョブを聖女(肩ゴリラ)にしてビクティ様のジョブを聖女にすれば差別化が出来るかと」
「ふむ。いい考えかもしれないな」
2人は言い合っていてゴリラ呼ばわりされそうな事に気付いていない。
「え?いい考えなの?」
「冗談だ」
リディアの言葉にそう答えて俺は男たちに目をやった。
「殺せよ………敗北者に次はない」
「殺さない」
男にそう答える。
「話を聞かせてくれ」
「何の話だ?」
「ここで流行っている病について」
「話してどうなる?俺らを笑うのか?薄汚いゴミが必死に生きてるなぁってか?」
それはない。
だが言葉で言って伝わるものでもないだろう。
皮袋を取りだして男に渡した。
「10万ゼニーある。山分けしろ。情報料としては十分だろう?」
「けっ………足りるかよ」
凄いなこの状況で欲を出すのか。
「足りないか?ならいいさ、他を当たることにする」
皮袋を奪い返して立ち上がったところ。
「ま、待て!」
「何だ?」
「15万ゼニーだ。それなら話す」
「笑わせるな、10万だ。2度目はない」
これでも奮発している。
言うならば慈悲だ。
こんなもの駆け引きにすらならないことを理解して欲しい。
「間をとって12………」
「行こうぜ皆」
声をかけて行こうとしたら、ほかの奴らが口を開いた。
「ま、待ってくれあんた!10………いや5でもいい!待ってくれ!」
「遅いんだよ2度目はないと言ったよな?」
「1万でいい!」
随分減ってしまったな。最初の10分の1か。
新たに人を探すのも面倒だ。
9万抜き取って皮袋を男に渡す。
「初めから足元を見ずに10で受けていればいいものを」
皮肉げに言ってから話しかける。
「流行ってるという病について話してくれないか?」




