2話 最悪の再会になった
翌日。幼馴染のサヤを見送ることになった。
俺とビクティ、それからサヤは幼馴染だ。
3人で小さい頃から遊んでいた。
遊ぶと言ってもめちゃくちゃ喋る2人の後を俺が無言でストーカーするという遊び方が9割だったが。
「楽しかったなぁ………」
誰もいないことを確認してから呟いた。
独り言だけは誰よりも喋るのが俺だ。
「いいの?行かせちゃって」
1人でしみじみしてサヤを送り出そうとしていたらビクティが隣に立っていた。
「………」
「私としては邪魔者が1人消えてせいぜいするけど、それもそれで寂しいよね」
「国の取り決めなら仕方ないだろ。指定した職が出た場合王都に生かせるのが決まりなのだから」
瞳を閉じながらそう口にした。
仕方ないことだ。
「うわ、すげぇ。ダーリンが2文以上喋るの珍しいっしょ。もっと声聞かせてよダーリン♡」
そこかよ。
というよりもう喋るつもりはないぞ。
無言で送り出すのが男………というものだからな………。
「あっ、こっち来たよサヤ」
「………」
ほんとだった。
「あ、あのサーガさん………私思い出しました」
「………何を?」
「小さい頃結婚の約束しましたよね。覚えていますか?」
「ぎゃっはっは。小さい頃の結婚の約束ってwww笑けるわー受けるー。でも、健気で可愛いじゃんサヤ」
「う、うるさいですビクティさん」
「………」
俺は黙って頷くことにしておいた。
伝われ俺の気持ち伝われ。
これが俺なりの最大の返事というやつだ。
かなり長く一緒にいるのだ。これで分かってくれただろう。
「覚えててくれたんですか?!」
「え?まじ?じゃあ約束してない私鬼やばじゃね?でも証拠のないそんな口約束無効っしょ!」
一人何か言っているが無視しておこう。
だがこれでいいのか?サヤは勇気を出したんじゃないのか?
そうだな。俺も勇気を出すことにした。
「………覚えてる。忘れるわけないだろ」
こんな俺に話しかけてくれたお前の言葉だ。
そう簡単に忘れられるわけがない。
「じゃ、じゃあ!お返事聞かせてくれませんか!」
「お前が帰ってきたら、な。今は訓練に集中するべきだ。いい意味で捉えてくれて構わない」
パァっと明るくなるサヤの顔。
「あ、あの、私絶対に忘れませんから。サーガさんのこと。絶対に振り向かせてみせますから………それと手紙も書きます。忘れないでくださいね。………私の全てサーガさんに捧げますから!」
そう言って今度こそ彼女は迎えの馬車に乗り込んでいった。
※
それからというもの俺はサヤの帰りを待ちわびていた。
あいつならいつか戻ってくると信じて待っていた。
振り向かせてくれるんだろ?この俺を。
その思いだけを持って俺は村で生活を続けた。
どんな美少女になって戻ってくるだろうとか考えるのも楽しかった。
だから飽きずにモンスターを狩り続けられた。
それにステータスが大分上がった。
少しずつ上がるステータスを見ているのは楽しかったし。
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【名前】サーガ
【ジョブ】盗賊
【レベル】85
【攻撃力】2758
【体力】9586
【防御力】2586
【素早さ】3582
【魔力】9825
【スキル】幻影盗賊
概要━━━━サーガが転生前に育てたサーガにしか使えない特別なスキル。対象から任意のアイテムをどんなものでも盗むことが出来る。他のスキルでは奪えないものでも奪える。
例)スライムから各ステータスの上限値を上昇させるアイテムを入手できる。
尚盗んだアイテムの譲渡も可能。
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※
サヤが村を出ていってから3年経ったが不安なことがある。
ここ最近手紙が届かなくなった。
「おかしい………おい、手紙が届かなくなったぞ?お前はこんなところで手を抜くやつじゃないだろ?」
サヤの事はよく知っている。
ハートのパンツと白のパンツを交互にローテーションして履いていることを知っているくらいに彼女の事を知り尽くしている。
「ちっ………何か事故か?ちゃんと毎月送ってくるって約束してたのに心配だな。テレポを使って見に行くか?いや、だめだ。俺があいつを信じなくて誰があいつを信じるんだ」
大丈夫だ。あいつは生きている。
何となくそんな気がする。
そんなことを考えていた時。
ドンドン!
「………入れ」
扉が叩かれたのでその主を部屋に招き入れた。
「お前がサーガという男か?」
そこには誰か分からない男が立っていた。
金色の髪を短く切った正統派のイケメンだ。
俺のような盗賊がお似合いの根暗ではない。
「………」
頷く。
「サヤの思い人だったというのはお前だな?」
「………」
「二度とサヤに近付くな」
「………は?」
「サヤはこの世界の未来を担う賢者だ。訓練には励んでもらわなくては困るのだが」
そもそもこいつ誰だよ。
名乗れよ。そう思ったので聞いてみることにした。
「誰だ?」
「名乗る名などないんだが………最後だ名乗ってやろう。私は勇者クロイツというものだ」
澄んだ瞳で俺を見てくるクロイツ。
「貴様のような下等生物の盗賊がサヤに近付くなどとおこがましいことだな」
「………」
そうやってクロイツと話していたら。
「ちょりーっす」
ビクティがきやがった………と思ったけどこいつは違う。
「サーガ?ちゃんサヤが来たよー笑」
ビクティだと思ったのは別人………
「お前、サヤか?」
「もうサーガちゃーん。私の名前忘れちゃったの?マジウケルー。でも萎えぽよー」
「………」
誰だお前。
頭が真っ白になる。
「………」
やばい。吐きそう。
どうして?
「………」
「ちょっとサーガちゃんどうしたの?あげぽよでいこうよあげぽよー」
これは現実か?
黒髪ロングの清楚系だったサヤはどこにいった?
こいつ誰だよ何かの冗談だろ?金髪?何だよこいつ………。
「………」
ただ一つ分かったことがある、俺の恋は終わった。
無言で家を出ていこうとするが
「待ってよ!サーガちゃん。私王都でいっぱい遊んできたよ!ほら!今日は彼ピの紹介に来たよー。両親に挨拶しに来たついでに来たよ」
ついで?俺がついでなのか?
「ちょ、サヤ………引っ付くなよ。元カレ君も泣くぞ?」
にやにやしているクロイツの腕に抱きつく金髪のサヤ。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
俺の愛したサヤはいない。
俺の愛した清純派ヒロインは既に死んだ。
ここにいるのはビクティよりけつの軽い尻軽女だ。
もう知らん。
だが………俺の心に深くのしかかるこの事実。
「くそ………」
小さく呟いて家の外に出た。
※
深夜になるまで鬱憤を晴らすようにモンスターの心臓を抉りとりまくった俺が草原にいた。
「はっ……俺は一体何を……やっちまった……」
血を見なくてはやってられなかった。
すまんと心の中で謝りながらモンスターの死体を積んで燃やし供養する。
帰りたくはないが帰るしかないな。
俺は家に帰る時にサヤの家の前を通った。
もしかして今までのは悪い夢でこうして通れば何事もなく黒髪のサヤが出迎えてくれるのではないかと期待した。
「やっ………」
薄い壁を通して中から聞こえてきたその声。
俺の淡い期待は粉々に砕け散った。
「………」
崩れ落ちた。
深夜誰も見ていないのをいいことに崩れ落ちた。
涙が流れた。
転生してから1度も流さなかった涙を流したのだ。
「この俺が………負けたのか?あんな金髪野郎にか?」
地面を這って移動する。
足に力が入らない。
俺は終わりだ。
溢れかえる憎悪の声は止まらない。
「信じてたのに………」
「どったの?ダーリン」
そんな俺を見て引いているような声をかけてくる女がいた。
いつもの俺なら気付いていたが接近に気付かなかったのはこの溢れかえる憎悪のせいか。
「………ここにあの金髪勇者を連れてこい」
「いや、それはやべーっしょ。てか連れてきてどうする系?」
「殺す殺す殺す殺す」
「ダーリン何か様子変だけどどったの?ほんとに」
「殺す殺す殺す殺す殺す」
「殺されるのダーリンじゃないの?」
「殺す殺す殺す殺す殺す」
「だめだこりゃ………」
俺を起こして肩を貸してくれるビクティ。
「とりあえず家帰ろうよ。こんなとこ見られたら今まで積み重ねてきたクール系陰の最強キャラのイメージマージで終わるっしょ?」
「殺す殺す殺す殺す殺す」
横でビクティの溜め息が聞こえたが今の俺には聞こえなかった。
殺す。
あいつを殺す。