23話 厄介ごとは押し付けないでほしいものだ
荘厳なる空気に包まれた王城の一室、王の間に踏み込んだ俺だがその視界の中には、ここにいることを予想していなかった人物がいた。
「何故ここにいる。盗賊」
勇者クロイツ、そいつがここにいた。
「そこの盗賊は俺が呼び出した」
答えたのは、初見でもこの部屋にある椅子の中では1番価値のある物だと分かる程綺麗な椅子に座った男。
「何故ですか?!王!」
クロイツの言葉で確信した。
この男こそがやはりこの王国の王であることを。
「こんな薄汚いこそ泥を何故こんな神聖な場所にお呼びになったのですか?!」
ついに俺への嫌悪を隠そうとしなくなった。
まぁ、こちらの方が俺にとってはいいが。
「この男に出会ってから俺はロクな目にあっていません!今すぐこの男を排除すべきです!こいつは疫病神!この王国にも必ずや災厄を呼び寄せるでしょう!」
俺を睨んでくるクロイツ。
随分な嫌われようだ。
「確かに本来であれば盗賊をここに招くような真似は俺もしない。言ってしまえばここにこの男がいるのはイレギュラーなことであり、異例中の異例だ」
そう言って玉座から立ち上がる王様。
金髪を短く切りそろえた男だ。
そいつは俺に近付いてくる。
「王!そいつは未知の幻術を使う妖しい者です!不用意に近付いては!」
「黙れ勇者」
振り向いた王の有無を言わさぬ視線で押し黙るクロイツ。
流石に口答えは出来ないか。
「名をなんと言う?盗賊」
「サーガ」
ただ、王の目を見てそう答える。
「サーガか。記憶した。俺の名はシド。よろしく頼む。で、今回お前をここに呼んだ用件だがな」
クロイツにも何故か視線を向けたシド。
「随分悩んだのだが、魔王討伐作戦の中心となるパーティを1つから2つに増やすことにした。1つ目は勇者クロイツ、お前のパーティと、2つ目は━━━━盗賊サーガ、お前のパーティだ」
シドがそう告げた瞬間今まで黙っていた近衛兵達が声を上げ始める。
「王!どういうことですか?!」
「盗賊のパーティってどういうことなのですか?!」
「説明を求めます!」
相手を王であることを失念しているのか少し言葉遣いが荒い者も存在する。
その意見を聞いて右手で顔を覆うシド。
「原因は聖女の言葉だ」
王がそう言った瞬間またざわつく室内。
1人の近衛兵が代表して口にする。
「と言いますと?」
「聖女の放った一言『この者は私にとっての勇者です』これが原因でな。サーガを1人の盗賊にしているなんていけないことだ、という流れが民の間で出来つつあって、今回異例の対処をすることにした。魔王討伐作戦の要となるパーティを1つから2つに増やす」
その言葉を聞いてまたざわつく室内。
「そんな!王!考え直してください!魔王を討伐出来るのは勇者だけです!勇者以外のジョブでは魔王にダメージを通せません!」
やはりもう1つパーティを作るとなると反対の声が多い、か。
「そうですよ!王!こんな盗賊にパーティを任せるんですか?!俺を信じてください!必ずや期待に応えてみせます!」
それはクロイツも同じらしく王様に意見している。
「誰もお前のパーティと同格とは言っていない」
そう口にしたシド。
「悪いが盗賊。お前のパーティはあくまで勇者パーティを補佐する役回りとして動いてもらうことになる」
黙って頷く。
初めからそんな位置にいられるとは思っていない。
しょせん盗賊と勇者ではスタート地点が違う。
「ははっ!聞いたか?!盗賊!俺と同じ格に上がるなんて100万年早いんだよ!」
それにしてもこいつ余裕がなくなって化けの皮が剥がれてきたな。
初対面の時はもう少し落ち着いていた気がするが。
というより初対面の俺に、失礼と言うくらいには落ち着いていたのを覚えている。
今は見る影もないが。
「おい!盗賊聞いてんのか?!お前は一生俺の下なの!はははっ!」
哀れだな。
自分でこうして現状を確認しないと精神を保てないのかもしれない。
「直にリディアも俺の下に戻ってくる。覚えてろよ?今までのこと」
「お前こそ覚えているといい」
「!!!!」
小さく口にして静かにクロイツの目を見る。
「何だよその目は………俺は勇者だぞ?」
「………」
何も答えずに俺はシドに目をやった。
続きを話してもらおうと思ったのだ。
「喧嘩はしてくれるなよ?2人とも」
そう言った王様は俺にまた目を向けた。
「盗賊サーガ、お前達には今度から特別な訓練を受けてもらう。今までのような各ジョブに応じた訓練ではなく、今クロイツにしてもらっているようなパーティとしての動きを鍛える訓練だ」
黙って頷く。
パーティを作ったということはつまりそういう事なんだろうなと予想していた。
「一緒にパーティを組みたいという人間はいるか?」
俺はビクティ、サーシャ、ルゼルの名前を出した。
「ほう。聖女が2人になるが………」
「ダメですか?」
「いや、構わないが何か考えがあるのか?」
首を横に振る。
ただ、見知ったやつとパーティを組みたかったという理由で選んだだけだ。
それなのに
「王、聞いた事がありますよ」
控えていたシャロが口を開いた。
「何の話だ?」
「聖女2人編成という定石を崩したパーティの話です。かつて大昔一流のパーティが採用していた幻の編成ですよ!」
何?
そんな編成があったのか?
「でも、そんな編成を知っていてそれを実践するなんてすごいな君は」
俺を見てくるシャロ。
適当に選んだと言っておくべきだろうか?
「王。私は彼に軍師としての才を見出しました」
「何?それは本当か?」
「えぇ、定石というのはそうなるだけの理由があるんです。あえて崩す必要も無い。それを彼は今崩したのです。これは何か考えがあってのことに違いありませんよ」
「サーガ、答えてみよ」
むっ………。
そういう流れになってしまったか。
適当に選んだとは言えないよな………。
そもそも聖女の役割というのはたしか………仲間の回復だよな?
後は………そうだ。防御や攻撃力の上昇、いわゆるバフと呼ばれる魔法の使い手。
「聖女を2人にすることで味方の回復やバフを問題ないように回せるようにするためです。動き方としては、盗賊である俺が前に出て敵陣営を荒らす。そしてヘイトを溜めている状態となるので、敵の攻撃から味方を守ることが出来ます。そこに賢者の高火力の一撃を………と考えています」
今適当に考えた理由だ。
「完璧ですね王様」
「ふむ。聞けば聞くほど素晴らしい考えだな」
は?
俺が数秒で考えたものだぞ?
「流石シャロの認めた男だ。敵の攻撃を一身に受けて味方を守り、味方を最大限に活かした戦い方。仲間を信じていなければ出来ない戦い方だな」
「パーティリーダーを任せる人物としては私も最高峰だと思っていますよ王。仲間の特徴を考えている。素晴らしい人だ」
「サーガ。とにかく、これからよろしく頼む。お前の人を見る目やその頭脳は興味深い。これから色々と頼むかもしれないから覚悟しておけよ」
そう言って俺に手を差し出してくるシド。
何故そうなるのだ………。
「それに比べて勇者は定石に囚われてばかりだ。少しはサーガを見習った方がいいんじゃないか?」
「は、はい………。精進します………」
だがまぁ、勇者の切れそうな顔を見れただけ良しとするか。




