22話 王に呼び出しを受けた
翌日。
俺は王城の門でリディアを待っていた。
「あ、サーガ!」
クロイツと共に戻ってきたリディアは俺を見るなり、すぐに駆け寄ってきて抱きついてきた。
「!」
しかしその横にいたクロイツは俺を見るなり顔を歪める。
何故ここにいる。
そう言いたげだ。
「サーガ、どうしたの?これ」
俺の腕の傷を心配そうな顔をしながら聞いてくる。
「少し、な」
「もうだめじゃない」
恥ずかしそうに笑うリディアだがクロイツはやはり心穏やかではないらしい。
しかし、流石勇者といったところか。露骨に顔には出さない。
相手が俺でなければ騙し通せていたかもしれないな。
「治してあげるね。それと今日部屋に行ってもいい?」
そう聞いてきたリディアを見て勇者が怒りを顕にしていた。
「リディア。その盗賊のところに行く前にやる事があるだろ?」
「あら?何の事かしらクロイツ?私は今日の訓練はきちんとこなしたし、あなたから貰った課題は既にこなした。ここからは自由時間のはずだけれど、あなたに私を拘束する権利があるの?」
だがリディアもまた真正面からクロイツを見て1歩も引こうとしない。
「リディア?今は大事な時期だ。その盗賊と遊ぶのはやめろ」
「大事な時期?少し前に四天王の1人を倒したところだよね?まさか更に1人四天王を見つけたと言うの?それならたしかに大事な時期だけれど」
リディアがクロイツの目を見つめる。
「見つけてはいないがそれでもその男と遊んでいる時間はお前にはないだろ?連携だってもっと練習するべきだ。パーティの仲間じゃないお前とそいつ、一緒にいるなんて時間の無駄だ。お前は俺と共にいるべきなんだよ」
やはりまだリディアの事を諦めきれないらしい。
「時間の無駄かどうかなんて私が決める。それに私はサーガの事が好きなの。前も話したよね?クロイツと自由時間まで一緒にいたくない。半径5m以内に入らないで欲しいくらいだから」
「リ、リディア!」
そうだな。
柄にもない事をしておくか。
リディアを抱き寄せて囁く。
「あっち行こう。可愛がってやるからな」
「ひゃ、ひゃぁぁぁぁ………//////も、もう………サーガ恥ずかしいから」
そう口にした途端鬼のような顔を作るクロイツ。
「おい!盗賊!」
俺の肩を掴んでくる。
「何だよ?」
「リディアを返せ」
「リディアは俺と一緒にいたい、そう言ってくれた。離すのは失礼だろう?」
「それでも俺たちは仲間だ!俺たちといるべきだ!」
かっこいいセリフを口にしているが、リディアという美少女を傍に置きたいだけの口実だ。
「しつこいよクロイツ。いい加減ウザくなってたから私たちに関わらないでくれる?」
厳しめの言葉を口にしてリディアは俺の腕に自分の手を絡ませてきた。
「行こうよ王子様っ♡」
「って訳だ。じゃあな勇者サマ?」
俺たちの姿を見て崩れ落ちる勇者。
「くそぉぉぉぉぉぉ!!!!」
そうして絶叫を始めた。
それにしてもまだ壊れないか。
だがそれでいい、もっと楽しませてくれよ?
※
あの後俺は王に呼び出しを受けていた。
何の呼び出しかと思いながら控え室に腰を下ろしていた。
流石王城の控え室と言うべきか、見たことの無い鉱石や高そうな置物が沢山だ。
「突然呼び出してすまないなサーガ」
「いや、構わない」
間に入ってくれたのはギルドマスターのシャロ。
俺も王様がどんな人か知らないから有難かった。
それにしても王城の近くにはそこそこいたと思うが、王の顔を見るのは今日が初めてか。
シャロと話をしていると控え室の扉が廊下側からノックされた。
「サーガ殿」
「入ってくれ」
答えたのは俺ではなくシャロ。
初めからこういう受け答えは彼女がすると言ってくれている。
「はっ!失礼します!」
そう言って扉を開けて入室してくるのは1人の近衛兵。
「貴方がサーガ殿でしょうか?」
「どうかしたのか?」
「い、いえ………本当に盗賊なんだな、と」
そういうことか。
俺は今いつもの黒い装備でここに座っていた。
その見てくれはまさに盗賊。
その薄汚い盗賊がこの王の住む場所に呼ばれるのが意外だったのだろう。
「王に盗賊が呼び出されるのは意外か?」
「い、いえ!滅相もありません!」
反応を見ればわかる。
滅多にないことなのだろう。
「で、用件というのは聞かせてはくれないのか?」
「申し訳ありませんがそちらは王からお話があるかと思います」
「そうか」
俺はシャロに目をやる。
あとは任せるという意味の視線。
「案内してくれるか?」
「はっ!こちらへ!」
キビキビとした動作で俺とシャロの前に立ち案内を始める近衛兵。
「あ、あれが盗賊のサーガか?」
王の間に向かう道中はあまり心地いいものではなかった。
煙たがるような態度を取る者がやはり多い。
「王城の備品を取られないといいんだがな」
「そうだよな。ここにあるのは全て100万ゼニーかかるかかからないかそれくらいの額のものだからな」
「庶民の一日の食費が1000ゼニー程度だったか?まったく、壊さないでもらいたいものだ。薄汚い盗賊に払える額ではないからな」
どこの世界でもどの時代でもやはり盗賊の評価など普通はこんなものか。
そんなことを思いながら歩き続ける。
「サーガ」
シャロに話しかけられたので顔を見る。
「遅くなってしまったが私からも聖女救助の件について礼を言っておこうと思って」
「別に気にしないでくれ」
「いやいや、流石と言う他ないよ。盗賊ならではの身のこなしと言うのかな?あんな風には我々剣士は動けないよ」
首を横に振るシャロ。
「本当に凄いと思ったよあの動き方は。良かったら今度教えて貰えないだろうか?」
「こそ泥の動き方を、か?それとも宝の盗み方を、か?」
「ははっ、君なりの冗談かい?」
「まぁ、そんなところだ」
そんな話を続けて数分経った頃だった。
俺達は王の間に続く扉の前までやってきていた。
扉の前には2人の屈強な兵士。
流石この国で1番偉い人のいる部屋というものか。
警備も半端ではない。
「それでは」
俺たちをここまで案内した兵士はここで俺たちとは別れた。
別の仕事があるのだろう。
「盗賊サーガ殿か」
「あぁ」
扉の右側にいる周りの兵士とは違う甲冑に身を包んだ男に答える。
「この先は王がおられる王の間だ。勿論貴殿には入室してもらう」
「分かってる」
「くれぐれも無礼のないようにな、それと私は近衛騎士団団長を務める男のヴァリスだ。これからも縁があるかもしれない、覚えておいてくれ」
その言葉に頷く。
「いい面構えだ。暗い過去がありそうだがそれでも前を向いている。中々できることでは無い。気に入った」
何故どいつもこいつも俺のことを気に入るんだ。
そんなことを考えていたらヴァリスと名乗った男が扉の向こう側に言葉をかける。
「入れ」
決して大きくはないがそれでもはっきりと聞こえる声が中から聞こえてきた。
「くれぐれも粗相のないようにな」
ヴァリスに念押しされながらも俺は扉のドアノブに手をかけた。
「失礼します」
そう言って入室したそこには
「盗賊、何でお前がここにいるんだよ」
存在を予想していなかった人物がいた。
勇者クロイツ何故お前が?
その目は俺への憎しみを隠し切れていなかった。
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