表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/71

21話 もう一人の勇者

 王都内での俺の評価はかなり上がっていた。

 予定通り全て順調に進んでいるな。


「お、おい。あ、あの人って?」

「聖女様を救ってくださったという盗賊のサーガさんだろ?」


 街を歩けばこんな風に噂を聞くこともある。

 この世界の未来を任されている勇者。


 そいつが不可能だと諦めたことを俺が果たし、評価を得る。

 その結果


「もう1人の勇者、か」 

「本来の勇者さんと一緒に世界を救ってもらいたいわね」


 俺はもう1人の勇者と呼ばれるまでに至っていた。

 ここまで順調に事が運んでいるのはリディアの言葉のおかげだろう。


『この人は私にとっての勇者です』


 あれが響いているとしか考えられない。


「サ、サーガさん!」


 子供が近寄ってきた。


「あ、あのこれサーガさんの真似してみました!どうですか?」

「………」


 無言で頷いた。

 俺の真似をするなんてロクでもないことだが変に傷つける訳にもいかないだろう。


「きゃー!!!!頷いてくれた!!!」


 子供はそうやって走り去っていった。


 俺が頷くのがそんなに大それたことか?

 そんなことを思いながら俺は王城に向かうことにした。


「待っていたぞ盗賊」


 王城の庭園をリディアと歩いていたら話しかけてくる勇者。


「リディアにかけた怪しげな魔法を解け」


 まだ言ってるのかこいつ。


「俺は何もしていない」

「お前より俺の方が顔もいいし、体型もいい。それに地位も名誉もあるし、家も上流だ。そんな俺を捨ててお前を選ぶ理由がリディアにはない」


 性格がいいとは言わないのは自分の性格を理解しているのか単に言い忘れたのか………。

 まぁいい。


 なんと答えようか迷ったが口を開いたのはリディアだった。


「でもあなた性格終わってるじゃん。都合のいい時だけ仲間仲間、みんなあなたが勇者だからペコペコしてるのに気付かないの?」


 俺が気になっていたことを直球で口にした彼女。

 

「お前!」


 怒りを露わにするクロイツ。


「エルザは知らないけど私はもう、完全にあなたに心も体も売るつもりは無いから。いい加減現実を見たら?」


 そう言ったリディアは勇者の隣にいたサヤに目を向けた。

 そして確認を取るように一言。


「私だって人間。好きな人だって変わるし誰を好きになるのも自由だよね?」

「貴様!!!!」


 勇者がリディアに手を伸ばそうとしたがその腕を先に取る。


「お前にリディアの気持ちをどうにかする権利があるのか?」

「ぐ………うるさい!俺は結婚の予定を!」

「そこに結婚相手がいるだろ」


 俺は視線でサヤを見る。


「可愛がってくれよ?」

「だが、リディアとも!」


 リディアは勇者を完全に無視していた。


「ね、サーガ。向こう行こうよ。私疲れたから他のみんなも誘って美味しいもの食べたい。今日も訓練で嫌いな奴と一緒にされたから疲れたんだよね」

「リディア!」


 叫ぶ勇者。だが声は届かない。


「いたんだ、クロイツ。私今からサーガ達とご飯に行くつもりだから邪魔しないで。自由時間まであなたみたいなのと一緒にいたくないんだけど」


 そう言って今度こそ完全に無視を決め込むリディア。


「さ、行こ」


 俺の手を引っ張って先に歩いていくリディア。



 予定を消化し切った俺は千里眼でクロイツの様子を確認していた。


「くそ!くそ!」


 相変わらず荒れている。


「リディア………あいつのどこが俺よりいいってんだよ、認められるかあんな盗賊如きに………」


 全部説明していただろ?聞いていなかったのか?


「あの盗賊に会ってから全部最悪な方に転がってる」


 そりゃそうだ。

 俺がお前の人生を最悪な方に転がしてるからな。


 俺から逃げられると思うなよ。

 結果としてお前は俺の平穏を破壊した。許せるものでは無い。


 お前がいなければ俺は今頃サヤと楽しくしていたのかもしれない。

 全部お前が壊した。


 この程度で終わると思うなよ。

 もっともっと泣き叫び、見えない恐怖に顔を歪め、跪き、許しを請う姿を見せてくれ。


「クロイツ」


 勇者が暴れ回っていたところにエルザが現れた。


「エルザか………。どうした」

「私はお前を裏切らない」

「当たり前だろ?俺ら仲間だもんな?」


 エルザの顔を覗いてそう聞き返すクロイツ。

 余裕が無いのか目が泳いでいる。


「リディアは完全にあの盗賊に惚れ込んでいるみたいだな」

「あぁあいつは俺らを裏切った」

「だが、それでも仲間だ。それに我々にはリディアの力が必要だ。訓練にまで私情を持ち込まないでくれ」

「分かってんだよ!」


 机を叩いて激怒するクロイツ。


「お前に指示されなくても分かってる」

「だがどうするつもりだ?その様子ではまた支障が出そうだが」

「盗賊を殺す。前に宣言した通りだ」

「どうするつもりなんだ?」

「兵を送る。明日にはあいつの死体が出ていることだろう」

「大丈夫なのか?身元とかは」

「はっどうせ辿り着けない。信頼出来る人間を何人も噛ませている。確実にあいつを殺せる!」


 悪いがその兵なら既に気付いている。

 溢れ出る殺気が敵の位置を教えてくれる。


 隠す気などないようだな。

 千里眼を切りあげ現実に意識を戻す。


「死ねやァァァァァ!!!!」

「恨みはないがその命もらった!」


 その時丁度奴の言った兵というのが俺の部屋になだれ込んで来る。

 5人。


「………」


 無言で麻痺させる魔法を使う。


「なっ!」

「体が動かない!」


 5人全員が縛りつけられたように床に転がった。


「お前らに恨みはないが、ここに来た罰だ」

「な、何をするつもりだ!」


 首に手刀を入れ兵を気絶させると道具で拘束した。


「起きた時には記憶はないだろう」


 5人を引きずって俺はギルドに向かうことにする。


 その、道中食事帰りのビクティとルゼルに出会った。

 ビクティに2人。ルゼルに1人任せる。


「これどったの?」

「宿にいたところ襲撃された」

「サーガ様大丈夫でしたか?」

「腕を少しやられた程度だ」


 傷は自分でつけた。

 明日無傷だと流石におかしいだろうと思われそうだから。


「何でダーリン襲ったんだろ」

「俺は今色んな意味で注目を集めているからな。気に食わない奴がいるんだろ」


 そう答えてギルドにやってきた。


「どうしたんだい?こんな時間に」


 こんな時間にも関わらずシャロがいた。


「襲われた」

「そいつら………Bランクの盗賊集団じゃないか!一体どこで襲われたんだ?!いや、それよりよく撃退できたね。………やはり只者ではないな」


 そう言って見てくるシャロ。

 面倒なことになりそうだな。


「偶然だ、2人がいてくれたから何とかなった」


 ビクティは兎も角ルゼルに通じるか不安だったが両方俺に合わせてくれた。


「そうか。とにかく、こいつらには私も手を焼いていたんだ感謝する」


 何とか何事もなく話を終えることが出来た。

 さて、帰るか。



ブックマークや評価ありがとうございます。

励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ほんっとすこ
[一言] サーガの次の一手は、暗殺者を向けられたことを公表してそれにクロイツが絡んでいる疑惑を流布することだろうか。 足を残すへまをしているとは思えないから、クロイツを罪に問うことは無理だろうが、リデ…
[良い点] すごく面白いです [一言] 真綿でじわじわと首を絞めていく感がたまりませんね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ