20話 サーシャに迫られる
勇者の無様な姿を見て楽しんだ俺は宿に戻ってきた。
「聞こえていますか?ダーリンさん」
「………」
「聞こえています?ダーリンさん?こちら━━━━X邪なる聖女Xです」
悪いがそんな知り合いはいないし、これからも知り合うことはないだろう。
「良かったです。あれは………」
言わなくても分かっている。
300年前だろ?知ってる。
「つい15分くらい前の話です」
なっ………いつもの妄想じゃないのか………?
「………」
「私がダーリンさんの布団に忍び込んで」
何してるんだお前。
「か、神の指で………その………」
顔を赤くするサーシャ。
何をしてたんだお前。ほんとに。
「黄昏に染る中ダーリンさんと2人で失楽園をめざし………気付けば果てていました。『エルフだから何なんだ?お前は俺の女だろ?一生守ってやるよ』と耳元で囁かれて………ひゃぁあぁあ!!!」
何をしてたんだほんとに。
それよりも俺を美化しすぎだろ。
「その時でした。『相棒!おっと取り込み中だったか!悪ぃわりぃこれ、置いとくからな、ひはは』そう言ってこれを扉と床の隙間からスライドさせて入れてきました」
あいつ………また来たのか。
「中は見たか?」
「いえ、ダーリンさんと一緒に見ようかと。組織からの挑戦状だと思ったので」
お前の脳内がどうなっているのかは分からないけど大変な戦いをしているみたいだな。
「見ますか?奴らの人類全滅計画が………記されているかもしれませんので」
それはないと思う。
「ダーリンさん」
俺の右手に自分の右手を重ねてくるサーシャ。
「私達は運命共同体です。共にこの嘆きの1000年を駆け抜けましょう」
「………」
「その反応は肯定ですね。流石私のダーリンさんです」
俺が喋らないからと言って好きに解釈しているなこいつ。
「さ、止めに行きましょう世界の滅亡を………私は黄昏の聖者(闇)です。私と絶対無敵のダーリンさんがいればどんな現実だって否定できます。さぁ、作りに行きましょう。僕の私の未来を………」
何を言っているんだ。
さっきは邪なる聖女で今度は黄昏の聖者か?
しかも闇ってなんだよ!闇って!
聖者なのか闇なのかはっきりして欲しい。
気になるだろ、そういう中途半端な設定。
そうだな。久しぶりに聞いてみるか。
「………邪なる聖女なのか黄昏の聖者なのか、聖なのか闇なのかどっちなんだ?」
「全部です」
胸を張って答える彼女。
「それよりダーリンさん喋れたんですね………組織の犬が口封じしていたのかと思っていました」
前にも喋らなかったか?
「というより危険ですね………ダーリンさんが話せるとなると私の好き勝手に解釈して振り回すという作戦が………」
そういうのは本人のいないところで困ってくれ。
「ところで手紙はどうするんですか?」
「リードを使った」
目を閉じていても魔法リードならば簡単に読める。
中身は、お疲れ相棒!いい演技だったな!今度どっか遊びに行かねぇか!という友好的なものだった。
そんなことでいちいち手紙をよこすなよ………後で燃やしておこう。
「なっ!あの禁忌魔法リードを使えるんですか?!流石ダーリンさんです!」
俺に抱きついて飛び跳ねてくるサーシャ。
「良かったら私にも使い方教えてくれませんか?私は常にダーリンさんの心の中を読みたいんです」
「拒否する」
ごねられるが無視だ無視。
そもそもさ
「そろそろ帰れ」
「えー。嫌ですけどー私は聖女候補特権で何処で寝ても自由って王様に言われましたー」
なっ………まじ?
珍しく顔に出たかもしれない。
「はい。嘘だと思うなら確認してきてください。ふひひひひ」
嫌らしい目をしている。
「というよりリードを私に使ってみてください。嘘だと思うなら。それで分かりますよね?」
「………」
ため息を吐きながら額に手を当ててみた。
「………」
首を横に振る。マジだこいつ………マジで言われている。
「その反応は見えましたね!私の記憶が!」
ついでに見たくない記憶を見た。
こいつ………俺の布団に潜り込んだ時1人で俺のことを想いながら、右手で自分を慰………いや、考えるのはやめよう。
「てことはあれも見られちゃいましたか?」
「………」
念の為首を横に振っておく。
「見たんですよね?その反応は分かってますよ」
「いや」
「何も見てないなら何の事だ?と言えばいいじゃないですか。見たんですよね?」
しまった………墓穴を掘った。
普段は頭が沸騰しているのにこういう時は頭が回るんだな。
「ねぇ、触ってくださいよ。その手で。何だか分かりませんけど凄く寂しいんです」
「何で俺なんだ?」
「私の事助けてくれたじゃないですか」
何の事だ?
ほんとに分からない。
「私が聖女の訓練で伸び悩んでた時アイテムをくれたじゃないですか。ダーリンさんだけなんですよ、生まれてきてから初めてです、あんなことしてくれたの。とても嬉しかったんです」
あの時のことか………
「私は今わかりました。あの時のあのアイテムはただのポーション」
いや、違う。
あれはチートアイテムだ。
「私に大切なことを教えてくれました。あの時は無言でしたけど、あれを飲んでみて思ったんです。このポーションには優しさが込められているって」
込めていない。
「そうなんです。あれは『挫けるなよ、俺がそばにいてやる、苦しいなら一緒に頑張ろう』目はそう言っていたのを、私は後で気付きました。この人は私にとっての生涯のパートナーだと」
妄想力豊かすぎないか?
あれだけのイベントでそこまでのストーリーを作れるのか?
「私あなたの子供が欲しいです。ダメですか?」
「………」
コミュ障すぎて何と返せばいいか分からない。
全部打ち明けるか?
打ち明けたところでその上を行く妄想力で信じてくれなさそうだが………。
「OKというわけですね。わかりました名前は私と貴方の名前をとってシャーガにしましょう。いや、これじゃかっこよくないですね、ガーシャ………だめです………」
俺から離れて1人で考え始めるサーシャ。
「名前知ってるのか?」
「はい。サーガさんですよね。でもあの時から貴方は私のダーリンさんですのでそう呼んでました。私達は300年のときを経てついに結婚したのですから」
勝手に結婚させられてたのか?俺は
「というよりいい名前が思い浮かびません」
「そうか」
「ちょっと、出直してきていいですか?それでは」
そう言って大人しく部屋を出ていくサーシャ。
「ズレてるな………あいつ」
今ここで帰るか?普通
だが………そのお陰でホッとした。
あのまま迫られたらコミュ障過ぎて断れなかっただろう。
もう、寝よう。疲れた。




