19話 リディアは完全に奪えたようだ
翌日。
色々あったことから王城内もバタバタしていたが俺はリディアと庭園を話しながら歩いていた。
とは言え俺はほぼほぼ無言か一言二言喋ってあとはリディアがマシンガントークしているだけだ。
「それでね。あそこのパンケーキ屋さんがすごい美味しいみたいだよ。今度行かない?あ、でもサーガって甘いもの苦手そう」
「嫌いではない」
こう見えて甘いものは意外といけるクチだ。
何故俺のことをそう思っているのかは分からないが甘いものは嫌いじゃない。
「あ、じゃあ今度行こうよ!」
「気が向けばな」
気が向けば、行ければ行く、この手の返事は行かないと捉えられることが多いみたいだが俺が口にした場合そうでもない。
大体行く。
なのに、どうしてこんな返事をするか、だが。急遽予定が入るかもしれないからな。
友達のいない俺に予定なんてそう入らないが。
「えー行こうよー」
「いつだ?」
「今度の休みに行こうよみんなでさ。あのビクティって子とかも連れていこうよ☆」
何かキャピキャピしてきたなこいつ。
「えへへ、マジやべぇのとかあの人面白い話し方するよね。覚えちゃった」
「覚えなくていい」
「えー?!何で?!」
「理解不能だからだ」
「そうなんだ。ならやめとこ」
そうだ。そうだ。
あいつはもう治すつもりもないらしいから例外だが、ビクティ語を話すのが2人になると考えたら結構地獄だ。
そうやって歩いていたら対面から誰かが来るのが見えた。
「さ、サーガさん、リディア?」
サヤが声をかけてきた。
「どうしたの?サヤ」
「どうして、リディアと歩いてるんですか?サーガさん?」
「歩く相手もお前に許可を取らねばならないか?」
「そ、それは………あ、あの仲直り………してくれませんか?サーガさんに無視されるの本当に辛くて………」
「………」
無視せずに無言で問いかける。
俺も思うところがない訳では無い。
彼女を信じずに俺はテレポを使ってでも支えにいくべきだったのかもしれないからな。
少なくともこいつを信じきった俺にも落ち度はあるのかもしれない。
「悪かった」
「え?」
自分からは謝りにくいのかもしれない。だから先に謝った。
どうするかと見ていたらパンと手を叩いて笑顔を作る彼女。
「やっとお友達に………」
「俺の態度は伝わりにくいか?ならはっきりと言葉にして断言しておく」
そういった途端顔を強ばらせるサヤ。
瞳を閉じて大真面目だという空気を作る。
「俺にその気は無い」
「ど、どうして………ですか?」
「お前とお友達になるのは怖いからな。勇者に言い寄られたらついていくんだろ?それで?次はなんだ?勇者に俺を殺せと言われたら刃を向けるか?そんな奴怖くて近寄れない」
「そ、そんなこと………」
「1度失った信頼を簡単に取り戻せると思うなよ………?お前はいつまでも誰かが傍にいないとやっていいこととやっていけないことの違いも分からないクソガキなのか?」
マフラーで口許を隠す。
「クロイツはいい人です。その………」
「………」
リディアに視線を向けて無言で立ち去る。
「サ、サーガさん!」
こいつは………ほんとにダメだな。
最後に振り向いて口を開く。
「最後の言葉だと思え。今何をすべきか考えろ。俺と仲直りすることか?違うだろ?まず先に他にやるべきことがあるだろ?いい加減誰かにおんぶにだっこではなく自分の足で立て」
言いたいことは言った。
俺は自分の過失を謝った、なのにお前はどうして謝らないんだ?
サヤの声も無視して俺達は歩いていこうとしたが。
「おい盗賊。貴様サヤに話しかけられて何だその態度は」
丁度勇者が来たようだ。
かなりイラついているようだな。
「リディアお前何してる?戻ってこい」
「私サーガの女だから」
勇者にそう言われても気にせず俺の腕に抱きついてくるリディア。
「なっ………」
勇者の絶句。
狙い通りでいい気味だ。
「ごめんクロイツ。私サーガの事好きになっちゃったから。それでも訓練にはちゃんと参加するからそこは信じ………」
「おい、盗賊何をした?」
「何もしていないが?」
「嘘をつくな!リディアは俺と婚約予定だった。リディア思い出せよ?約束しただろ?俺達この戦いが終わったらみんなで結婚しようって」
こいつやはりハーレムを作る気だったな。
だが、俺はそれを崩すことに成功した。
「ごめん。あなた生理的に無理」
「なっ……思い出せよリディア。勇者の俺と結婚すれば魔王を倒したあと楽に暮らせるんだぞ?!地位も名誉も約束されるじゃないか!」
そう言われても冷めた目でクロイツを見るリディア。
意思は変わらないのだろう。
「それだけのためにあなたと結婚するなんて無理。でも安心して、訓練にはいつも通り参加するから。ていうかあなた私が谷に落ちた時何で1歩も動かなかったの?」
「仕方なかっただろ!あんなもの助けられるわけが無い!」
「そこに命捨てて助けに来てくれたサーガとあなた、どっちに惚れるかなんて一目瞭然じゃない?とにかくごめんなさい」
丁寧に腰を折るリディア。
「結婚の予定はなしにして。あなた本当に無理。訓練以外の時は嫌らしい目で見てくるし。あなたの機嫌を取ってたのはあなたが勇者だからってだけ、あなたが迫ってきても理由つけて断ったのは単純に気持ち悪いから。下心見えすぎ」
そう言われて勇者が膝から崩れ落ちた。
「あぁあぁぁぁぁぁ!!!!!がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
勇者の叫び声が轟く。
いつもならこんなに叫んでいれば周りの人間が寄ってくるだろうが俺が音を通さない魔法を使っている。
「ね、サーガ今度私の両親に紹介したいの。勇者より勇気あってかっこいい人見つけたって、それでその人も………私の………」
顔を赤くするリディア。
それを見て更に叫び声を上げる勇者。
サヤはひたすら戸惑うだけのようだった。
「もちろんこれまで通り作戦には参加させてくれるんだよね?勇者サマ?」
今までは何とか堪えていたのだろうが今になって完全に非難の目を向けるリディア。
「これまで通り嫌だけど、私は勇者パーティの仲間。よろしくね。行こ、サーガ。今はサーガといたい」
頷いて歩き去ろうとしたが
「盗賊………俺から奪ってただで済むと思うなよ?」
「奪われる方が悪いってあなた言ってたよね?私を奪われたのはあなたの責任じゃないの?クロイツ?それをサーガのせいにしてほんとに最低。死ねばいいのに。逆にどうして生きてるの?教えて?」
「うぐ………くそ………くそ………」
言うだけ言うとリディアは俺の手を掴んで歩き出した。
無様だなあの勇者。
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