表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/71

18話 修羅場?

 凱旋を見ていた見物客達が勇者の口が開くのを待っている。


「勇者様?!勇者様?!どうなんですか?聖女様は亡くなったのではないのですか?」


 見物客たちの追求の声。

 どう答えるか見ものだな勇者。


「聖女は………奈落の谷に落ちた」


 勇者がポツリと呟いた声にまた騒ぐ国民。


「な、奈落の谷に?!」

「か、帰って来れない谷だろ?!そこから聖女様が帰ってきたのか?!」

「どういうことですか?!勇者様!助けられる命を亡くなった事にしたのですか?!」

「ち、違う!奈落の谷に落ちたら助かるわけが無い!」


 勇者が慌てて吠える。

 それを聞いて1歩踏み出すリディア。


「私は確かに奈落の谷に落ちました。あの、奈落の谷にです。助けるなど無理なものです。不可能です。私も死んだかと思いました。誰も助けにこず、来ようとすらしてくれず………でもここにいる盗賊サーガだけは来てくれました」


 そう言って辺りを見るリディア。


「馬鹿なんです。この人自ら奈落の谷に飛び降りて私を抱きしめてくれて………ダメージが入らないようにして守ってくれてそのおかげで私は戻ることが出来ました」


 そう言って瞬きをするリディア。


「皆さん。ここにいる盗賊サーガは私にとってもう1人の勇ましき者………勇者です。彼のおかげで犠牲者を文字通り0にすることが叶ったのです」


 クロイツに目をやるリディア。


「私達を凱旋に入れてくれないかな?」

「あの盗賊すげぇじゃねぇか!!!!」

「盗賊って盗みしか才能ないんじゃないのか?!奈落の谷に飛び込んで帰ってくるってすごすぎんだろ!!!」

「今回の影の英雄じゃねぇか!あの盗賊!!」


 周りが俺を拒むのをやめた。

 さぁ?どうする勇者サマ?


 見ていると拳を小さくわなわなと震わせ始める勇者。

 しかし意を決したのか口を開く。


「………盗賊サーガ。聖女を救ってくれて、か、感謝………する。お前は、え、英雄だ………是非とも、参加してくれ」


 俺に向かって頭を下げるクロイツ。

 だが俺には見えるぞ。その怒りで染まった顔。いい気味だ。


「ありがとうございます。勇者サマ」


 皮肉げに笑いながらそう言ってから俺はリディアの手を引いて凱旋に合流する。


「勇者様が頭を下げたぞ?!どんだけすごいんだよあの盗賊!!!」

「すげぇな!!!今回の凱旋!!!」

「こりゃすげぇよ!!!!」


 そのあとも俺たちを加えて長い凱旋が続いた。



 

 その夜サーシャ達の抱きつき攻撃を躱してパーティも終えた俺は宿で千里眼を使った。

 狙いはクロイツだ。


「くそ!あの盗賊が………」


 怒っているようだ。

 カースト最下位のただの盗賊に頭を下げたことに相当イラついているらしい。


 その様子で周りを見る勇者。


「エルザ?リディアはどこへ行った?」


 リディアがいないのに気付いたらしい。


「あの盗賊のところに行った」

「くそ!」


 あ?盗賊のところに行った?

 そう思って千里眼をやめた。


 次の瞬間

 ドアをノックする音が聞こえる。


「サーガ………いる?」


 リディアの声だ。


「開いている」


 短く答えると


「おじゃまします」


 そう言って入ってくるリディア。


「宿教えたか?」

「あ、ごめん。調べちゃった………迷惑だよね」

「別に」


 ホッと胸を撫で下ろす彼女。

 そうしてから俺の近くにやってきた。


 だが無言の時間が流れる。

 先に動いたのはリディア。


「も、もう我慢できない………」

「………」


 俺に抱きついてくるリディア。


「好き好き好き好き好き大好き………」

「ここはやめた方がいいと思うが」


 何を考えているかは大体わかる。

 それに俺も今はそういうことをしたいわけではない。


 リディアに対しての少しの罪悪感、流石に手を出す気にはなれない。


「そんなこと聞かないから」


 そう言って俺の顔に自分の顔を近付けようとしたリディア。

 丁度その時。


「ダーリンいるー?!」

「ダーリンさん、いますか?!」

「もう急にどこか行くから探しましたよサーガ様」

 

 ビクティ達が帰ってきた。

 そしてこの室内を見てフリーズする。


 最初に口を開いたのは顔を赤くしたビクティ。


「あれ?リアルにお邪魔しちゃった系………?え?まじやばくね?これ私ら超お邪魔系じゃん」

「ち、違うから!違うから!そんなんじゃないから!」


 誰も聞いていないのに急に顔を赤くして弁明を始める前リディア。


「あ、うん。分かったっしょ。うん。分かったよ聖女サマ。ダーリンのイケイケさに気付いたんしょ♡ごゆっくりー………なんてさせないから!」

「そうなんですけどダーリンさんは私と失われし楽園(パラダイス・ロスト)を見つけるんですけど!その邪魔をしないでください!」


 ビクティとサーシャがそう言いながらズカズカと部屋に入ってくる。


「はわわわ………」


 それを見て戸惑うだけのルゼル。


「よく分かりませんけどサーガ様の奴隷は私だけです!」


 ルゼルも部屋に入ってきた。

 まずいな。こんなことになるとは思いもしなかった。


「あの金髪の子は分かるんだけどダーリンさんってどういうこと?」

「……」


 やれやれ。

 面倒なことになりそうだな。


「あなた誰ですか?!ダーリンさんに夜這いしにきたんですか?!私は相棒として許しませんからね」

「相棒?」

「300年前~」


 またありもしないことを語り出すサーシャ。

 少なくともその300年前俺はスキルをひたすら育てていた頃だと記憶しているが。


「分かりますか?私たちは運命の出会いを果たしたんです!その恋路の邪魔をしないでいただきたい!」

「サーガにそんな過去があったなんて」


 ないぞ。

 斜め下に目をやって呟いたリディア。


「さぁ、退きなさい。命が惜しいならば………組織の手があなたに伸びる前にこの王都から脱出してください。ダーリンさんはこの私†漆黒の悪夢(ダークネス・ブラック・ナイトメア)†がお守りしますとも!」


 俺は守られる側なのか。


「漆黒の悪夢?だかなんだか知らないけど退く気は無いから」


 そう言ってサーシャの目を真っ直ぐに見つめるリディア。


「サーガは大切なことを教えてくれた。私を命にかけてでも助けてくれた。私はサーガの近くにいたいから」

「………」


 ため息を吐いて無言でリディアの頭を撫でる。

 サーシャに一瞬だけ目を向けて、それからリディアに戻してから口を開いた。


「全部妄想だ」


 真実を告げるとリディアは途端に顔を真っ赤に染め上げる。


「ななな………」


 フラフラとしてそのまま俺の方に倒れ込んできた。


「は、恥ずかしい………頭がぐりゅぐりゅしゅりゅ………」


 その体を受け止めてフッと笑うとビクティ達に目をやった。


「ダ、ダーリンに女?嘘っしょ………やべ………マジやばな状況なのに私M過ぎて逆に………ハァ………ハァ………」


 危ないのが1人いる。


「ひぃぃいぃ!!!!何も見てませんから!!!」


 そう言って部屋を飛び出して言ったルゼルに


「くっ………組織の犬め………ダーリンさんに何を………!」


 それに続いたサーシャ。

 やれやれ………どうやって説明しようか。


 まぁ………次に触れられるまで放置でも構わないか。

 この様子なら誰も今日のことについては触れたがらないだろうし。



いつもお読みくださってありがとうございます。

誤字脱字報告もありがとうございます。


ブックマークや評価などしていただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 別に寝取り返しても幸せに出来るならいいんじゃないかと思う。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ