17話 勇者にとっての予想外
俺はドラゴンになったハンニバルの腕の上に立つと右手の指を何本か切り落した。
こんな多少の怪我は直ぐに治る。
それに始める前にこの事は伝えてあるので問題ない。
計画通りだ。
「な、何してるの?サーガ?馬鹿なんじゃないの………?」
「………」
無言でドラゴンの手を開きリディアを左手で抱き抱えると、ドラゴンの頭に向かって走る。
そのままそこから飛んで崖の出っ張りに右手で捕まる。
下を見ると奈落に吸い込まれていくハンニバルの姿があった。
「2人で死ぬことないじゃん………このまま手を離してよサーガ。何で私なんかのために………」
「………」
無言でリディアの顔を見つめる。
「サーガ言ってたよね?!私の代わりなんて他にもいるって聖女の代わりなんているんだって………どうして」
「リディアの代わりはいないだろ」
「え………?」
ここからどうしようか悩んだが無理だな。
常人の盗賊として考えた場合ここからどうにか出来るとはどうにも思えない。
仕方ない。手を離すか。
「悪い………もたない………」
右手を離すと崖を蹴り更に高度を下げリディアの頭を抱き抱える。
「ごめん………こんな時だけど言っていい………かな」
リディアが俺の胸から顔を出してそう口にした。
「私サーガの事が好き」
「………」
「私が凹んでた時優しくしてくれたのはサーガで、私が悩んでた時隣にいてくれたのもサーガ。もっと早く言ってれば良かった………こんな事になるなら………」
そう言って涙を流す彼女。
そのラブラブアピールは帰ってからしてくれ。
「ねぇ………返事してよ………いつまで無言なの?」
「生きて帰るんだろ」
「え………?」
下は川だ。
そのまま俺はダメージが0になる魔法をかけて飛び込んだ。
向こうは計画があったなんて夢にも思っていないんだろうな。
そう考えたら少し胸が痛むのだった。
※
リディアが気絶したのを確認してから俺はテレポで王都の近くの川に飛んだ。
そのままリディアを両腕で抱き抱えて川から上がる。
身体中水浸しだ。
さて、帰るか。
そう思って歩を進める。
「あ………れ?」
リディアが腕の中で目を覚ました。
「何で私………奈落の谷に落ちて………」
「動かないでくれ傷が痛む」
「え?………どうしたの?その頭の怪我」
「岩にぶつけた」
さすがにあの高さから落ちたら川だとしても死ぬレベルだろう。
傷のひとつもないのは不自然だからわざと付けておいた。
「歩けるか?」
そう聞いて俺は腕からリディアを下ろした。
「リディアが無事でよかった」
そう言って微笑む。
歪になってないといいが。
「え………今笑った………?」
「………」
首を横に振る。
「いや、絶対笑ったから!//////」
瞬間顔を赤らめた。
「………あの時のこと覚えてる?」
「何の事だ」
「そ、その………好きって言ったこと………」
「忘れて欲しいか?」
「//////」
顔をすごく赤くするリディア。
「いい………忘れないでいい………」
「………」
心の中でニヤニヤ笑ってから再び歩き始める。
初めは勇者をいたぶるための道具程度にしか思っていなかったが中々可愛いじゃないか。
そんなことを考えながら俺達は王都に向かって歩きを進めていく。
※
王都に戻るとラッパの音が聞こえてきた。
どうやら凱旋中らしい。
門の前の兵士、本来いるべきはずの場所には誰もいない。凱旋の影響だろう。
勇者パーティはクロイツ、サヤ、エルザの3人で構成されていた。
そしてその後ろには他に参加していたメンバー達。
「そっか………私………」
「盛り上がる」
俺は行ってこいよとジェスチャーしたが。
「あの、着いてきてくれる?私は………サーガと歩きたい」
「目立つのは好きじゃない」
そう言ってみてから、考える。
あの勇者に1番ダメージを与えられるのは今すぐここで俺がリディアと出ていくことか。
それもありかもしれないな。
「お帰りなさい!勇者様!」
「お帰りなさいお疲れ様!勇者様!」
「聖女様はどうされたのですか?!勇者様!」
そんな声が聞こえた瞬間ピタット足を止めるクロイツ。
「聖女は………犠牲になりました。俺たちの手落ちです………。俺達は我が身可愛さに仲間を………」
そう言ってからも凱旋を続けるクロイツ。
その顔には違和感があった。
本当に悲しんでいるやつの顔じゃない。
そうだな。久しぶりに声でも出してやるか。
ちょいちょいとリディアの体をつつく。
「どうしたの?」
「ついてこい」
俺はリディアの手を繋いだ状態で人混みをかき分けて凱旋で通る場所に先回りした。
「おかえりなさーい!勇者様!ばんざーい!!!」
そうやって人々が言ってる中。
今だな。
丁度どうやってもクロイツの視界に入るタイミングで俺はリディアと共に道に飛び出した。
すると目を見開いて固まるクロイツ一行。
それを見た国民たちも何事かと静寂を作り出す。
好都合だ。よく声が通るな。
だがタメ口は以ての外だ。形だけは敬意を表する、俺は今一介の盗賊に過ぎないのだから。
俺は瞳を閉じて片膝を地面に付いて一言言い放つ。
「勇者様、失礼ながら凱旋に途中参加してよろしいでしょうか?私の名前はサーガ。盗賊のサーガです。死の淵より帰還しました」
俺の一言で周囲は音を取り戻す。
「お、おい!あれって………あの盗賊の横にいるの聖女様じゃないのか?!」
「聖女様だ!亡くなられたと報告があった聖女様………」
「まさか………代役じゃないのか?」
「代役なわけないだろ!こんな代役の出し方最悪だ………」
「ってことはあの聖女様は本物………?」
勇者はまだ固まったままだった。
死んだはずの者が2人現れたのだ無理もないだろう。
「しかし、勇者様の落ち度で亡くなられたはずの聖女が何故?」
「何があったのですか?!勇者様!お答えください!」
勇者がようやく口を開く。
「盗賊………何故ここにいる………」
その言葉と目は俺への畏怖を抱いているものだった。
「勇者様!何があったのですか?!落ち度とはどういうことですか?!」
質問の声は途切れない。
心の中で俺はニヤッと笑った。
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