16話 作戦開始
勇者達がハンニバルを発見(予定通り)してからは早かった。
計画が組まれて討伐作戦が俺達に伝えられ実際に動き出すまで一週間ほどだった。
そして今日ついに四天王の1人ハンニバル討伐作戦が始まる。
「みんな!緊張していると思うが自分たちの練習してきたものを全てぶつけるんだ!」
前でクロイツが指揮をとっている。
作戦としては俺達が周りの雑魚処理、それからクロイツ達がハンニバルにぶつかるという形だ。
これもこういう計画が組まれるだろうということは分かっていた。
「場所は奈落の谷!いつ崩落してもおかしくない場所だ!環境も悪いがそれでも力を合わせて戦いぬこう!」
今回ハンニバルとは事前に打ち合わせをしてここを拠点にしてもらっている。
ハンニバルは崖を背負っている状態だ。
そのためクロイツ達は追い込んでいるとそう思っている。
「「「おおおおおおおお!!!!!!!」」」
士気が高まっているな。
問題ない。
そんなことを思いながら俺達も配置につこうとしたが。
「おいおい、何で盗賊がこんなところにいるんだよ」
「面汚しが、消えればいいのに。何だって盗賊がこの作戦に」
周囲の目は厳しかった。
そして中には
「おい小僧?何が目的だ?金か?栄誉か?がめつそうな小僧だものな」
大柄な男が俺の胸ぐらを掴んだ。
「俺の親友でBランクの魔法剣士は落ちて何でお前がいるんだよ?盗賊如きが」
「そうだ!そうだ!何で盗賊を入れてるんだよ!」
「士気が下がんだろ!今すぐ帰れ!」
なんてコールまでしてくるやつまで出てきた。
まぁ予想していた事とはいえ………だが。こちらも切り札がある。
そろそろ助けてくれそうだが。
「おやめなさい」
俺達を守るような澄み渡るような声が聞こえた。
声の主は聖女リディア。
「せ、聖女様?」
「で、ですがこの者は盗ぞk」
「盗賊だから何だと言うのですか?その方はギルドマスターのシャロが選んだお方だと聞いています。その決定に異を唱えるのですか?この戦いに身を投じる覚悟と強さを持つと認められているのです」
「ぐ………ぐぅ………」
何も言えなくなり周りのヤツらは散り散りになっていった。
どいつもこいつも渋々といった感じだったが。
「サーガ………」
奴らが俺から離れていったのを確認してから俺の服を掴んでくるリディア。
「私………頑張るから。見ていて欲しい」
「………」
頷いて見ていることを伝える。
「きっと………皆を勝たせて、生かして連れ帰るから。それが聖女の役目」
そう言って彼女は俺に笑顔を向けて勇者パーティ、クロイツの元に戻っていった。
「準備は出来たか?!さぁ行くぞ!!!!」
クロイツが叫び先陣を切る。
目指すは一つ。ハンニバルだ。
「「「おおおおお!!!!!!!」」」
それに続いて駆けていく冒険者たち。
さぁ俺達も行くか。
※
「よく来たな。人間共。まさかこの俺が………ここまで追い詰められるとはな」
ハンニバルが全軍に聞こえるように言葉を放つ。
その裏で俺とは思考を飛ばしあって話している。
『サーガ………ちゃんと決めてくれよ?』
『………』
『無言か。お前らしい』
それで切り上げる。
長い付き合いだ。これで全て向こうは分かっている。
「四天王ハンニバル………俺達が相手だ!」
威勢のいいクロイツ達がハンニバルの前に立つ。
「いいぜ、来いよ!ボコボコにして谷に葬ってやる!」
そうして戦闘が始まる。
そしてこちらも丁度始まったところだった。
「ダーリン、ゴブリン来た!」
「迎え撃とう」
ゴブリン達には悪いがここは死んでもらう。
だが、一応手を抜きつつ倒す。
戦況を見ながら適度に数を減らすことに専念する。
そうして1時間が経過した。
「ぐぉぉぉぉ!!!やるではないか!人間!!!!」
予定通りハンニバルがやられている振りをしてくれている。そして第2形態に入った。
ドラゴンとの融合。
谷の上を飛びこちらの攻撃を通さないようにしているがそれではやはり甘い。
「いっけぇ!!!!」
「ここで負けられない!」
クロイツ達の魔法で徐々に高度を下げていくハンニバル。
墜落するのも時間の問題か。
そうしてしばらく待っていたところ。
「ぐぉぉぉぉ!!!(始めっぞ相棒!)」
思考が飛ばされた。
既にウォーミングアップは済ませている。
「この俺が!人間如きに!有り得ない!1人くらい!」
そう言ってハンニバルが右手を伸ばす。
それはリディアに向かっている。
捕まるリディア。
「や、やばいっしょあれ………え?!ダーリン?!」
ビクティの声は無視して俺も駆け出す。
「だ、誰か助けて!」
いきなりの事に動揺しているのか誰も動かない勇者パーティ。
無理もない。最早今から何かしても間に合わないくらいの状況だったから。
「せ、聖女様が!谷に消えるぞ!」
「誰か聖女様を救え!」
「おい!誰か!誰か!」
周囲もザワついてきたが誰も動かない。仕方ないことだ。
あと1秒もすればリディアの姿は地上から消える。
それにまだ絶命していないドラゴン。それに握られた少女を1人助けて戻ってくるなどとてもできることでは無い。
「すまん………リディア………」
勇者クロイツが崩れ落ちようとしていたのを退かす。
「お、おい!盗賊!」
そこで我に返ったのか騒ぎ出す冒険者たち。
「お、おい!何だあいつ!走ってどうするつもりだ!」
「あ、あの距離からじゃ間に合わない!」
「しかもあれ、さっきの盗賊だろ?!何をどうするつもりなんだ?!」
奴らの言う通りここからじゃ間に合うわけが無い。
「な、何をしようってんだ………盗賊ごときが………」
何って、走って間に合わない。引き上げるなんて出来ない。なら
「あいつ!飛び込みやがった!」
「奈落の谷に飛び込みやがっただと?!」
「自殺行為じゃねぇかよ!アイツバカだろ?!」
「死ぬのが怖くねぇのか?!」
声が聞こえるが俺はそのまま落下を続ける。
「サ、サーガ………」
目の前には掴まれたまま伏せていた顔を上げるリディアの姿があった。
ブックマークや評価ありがとうございます。
現在描写の加筆作業をしており明日には少し投稿できるかなといったところです。