14話 リディアと秘密の練習
翌日。夕焼けに染る庭園の片隅のベンチにリディアが1人でいるのが目に入った。
昨日のことが相当効いているようだな。とは言えそのこともここに来ることもわかっていたことだが。
「どうしたんだ?こんなところで」
「あっ………サーガ………」
「何かあるなら話してみろ」
俺も隣に腰掛けた。
「最近調子悪いんだよね」
そう言って伸びをするリディア。
「………」
黙って聞く。
ビクティに教えてもらった通りに実践する。
「って………何喋ってるんだろ私」
「構わない、続けて」
「あなたってそんなふうに相談乗ってくれるんだ」
俺は今ビクティの言葉を思い出していた。
『女の子がドキっとする瞬間?そりゃもう特別感、ダーリンクール系で通ってるから都合いいっしょ!ここは、クール系で寡黙なのに私にだけは話しかけてくれるなんて思わせれば1発。私なんか今ですらダーリンの言葉一つでも聞くと脳内幸せシャワービームブッシャーって感じ♡』
相変わらずよく話していたがこんなところでいいだろうか。
「最近訓練で活躍できないどころか足引っ張ってばかりなんだよね………それにサーシャって子がいるんだけどその子と入れ替えされそう。そんなこと思ってたら余計結果出さなくちゃって焦って………」
そう言って虚空を見つめる彼女。
「俺を信じてみないか?」
「え?」
「リディアのその状態、俺なら何とか出来るかもしれない」
『胸きゅんポインツその2さり気なく名前呼んで。ダーリンお前貴様貴公みたいな呼び方しかしないからそれでキュンとくると思うよ?私なんか未だに名前で呼ばれるとぶぎゃーー!!!♡何つーか、それだけでダーリンの女になれた感やべぇ♡』
とビクティが言っていたが効果はあるだろうか。
「何か策があるの………?」
少し顔を赤らめている。
あいつの言うことも信じてみるものか。
心の中で笑ってから、立ちあがりリディアに手を差し出す。
「俺もブランク期間があった。何をやっても上手くいかずに全部空回り。周りには煙たがられたけど、そんな時に助けてくれた人がいた」
『さり気なく自分も同じことあったって言って!それでシンパシー!感じまくりだから』
「俺たちは仲間だろ?仲間が困ってるなら助ける………柄でもないが今回は俺が助けたい」
「………サーガ………何するかは分からないけど手伝ってもらえる?」
俺は頷くとリディアを連れて移動することにした。
※
泉に移動してきた俺たち。
「ここは?」
「俺のお気に入りの場所」
嘘だ。初めて来る場所だ。
しかしビクティの言いつけに従う。
特別なことをして相手に自分は特別な存在だと思い込ませることが大切とそう言っていた。
「最近は詰まった時はよくここに来る」
「そうなん………だ」
「早速だが始めようか」
俺は彼女に細かい情報を教えて貰っているフリをする。
元々何ができていないかは把握しているので頷くだけだ。
「気の持ちようだな」
「気の?」
「力みすぎてる」
そう言って俺はナイフを取り出すと額に傷をつけた。
「な、何してるの?!危ないよ!」
やり過ぎたか?血が勢いよく飛び出ているが、まぁ構わない。
そう思ったところリディアの手に噴き出た血がついていた。
「そう思うなら治して。それとそのハンカチ貸すから」
黙って見つめる。
「焦らなくていい。ゆっくり………確実に成功する自分だけを思い浮かべろ」
「う、うん」
この時にちょうど呪いを解除しておいた。
すると、パァァァっと俺から緑の光が立ち上がる。
「あ、治った!」
「やったじゃないか」
「やった!やった!成功したぁ!!」
子供みたいに喜んで俺に抱きついてくるリディア。
「はっ………!//////」
顔を赤らめて俺から離れるリディア。
「ご、ごめん………嫌だよね。私なんかに抱きつかれて」
「何故?」
「私最悪だし………サーガの敵だし」
「今は仲間だろ?」
「クロイツと一緒に酷い言葉だって吐いたのに………」
「俺なんかお前の顎蹴り抜いた。それよりマシだろ」
「も、もう!」
ポカポカと俺を叩いてくるリディア。
「でも、ありがとうサーガ。調子取り戻したかも」
俺から離れるリディア。
「もっと冷めた人かと思ったら意外と優しいよねサーガ」
「………」
「サーガみたいな人が勇者ならみんな幸せなのに………」
ぼそっとリディアが呟いていた。
聞こえなかったフリをしておこう。
「こんなところまで連れてきて悪かったな。送るよ」
「あ、ありがとう」
帰り道リディアが呟く。
「私………幼馴染に酷いことした。私の勇者パーティ入りに反対してた幼馴染をクロイツが殺した時も私は何もしなかった………」
「反省してるんならそれでいいだろ。お前が忘れない、それで向こうは報われるだろ」
こういう時は絶対に責めてはいけないんだったな。
それにしてもサヤは開き直っていたな。
「とにかく、今日はありがとうサーガ。私頑張るから」
そう言ってリディアは俺に背を向けて走っていった。
念の為リディアの動向もチェックしておくか。
俺も宿に戻ると1人で千里眼を使う。
趣味が悪いことは100も承知だが手段を選んでいる場合ではない。
王城の部屋に戻ってリディアはまずポスッとベットに倒れ込んだ。
「サーガ優しかったな………クロイツなんてきつい言葉ばっかなのに、それにみんなもうサーシャって子に期待してるし………仲間ってはっきり言ってくれるのもサーガだけ………」
ゴロゴロ左右に転がりながら独り言を漏らすリディア。
「練習に付き合ってくれたのもサーガ。何が原因か教えてくれたのも、こんなに自分のことのように親身になってくれたのも、………って私何考えてるんだろ。でも今ならサヤの気持ちわかるかも………」
枕を抱きしめるリディア。
「サーガ………もう一度あの声を聞きたいな………こんな広い世界に私の味方は彼だけ………それよりハンカチ返すの忘れちゃった」
俺のハンカチを左手で鼻の近くに持っていくリディア。
「サーガの匂い………サーガ………こんなの一時の感情に決まってるのに………もっと近くにいてほしい………」
右手は真っ直ぐに下に………
見るのを辞めた。
やばいな。
思ったよりやばい。
だが、口許を歪める。
「奪われる方が悪いんだろ?勇者サン?」
王城のある方角に目をやって呟いた。
でも、同時に言葉にしにくい罪悪感が湧き上がるのを感じた。
勇者へのそれじゃないことは断言できる、でもなんだ?この感情は。
頭を振って忘れる。
それにしてもクロイツの奴用済みになれば仲間でも簡単に切り捨てるんだな。
そんな奴にサヤを奪われたのが本当に悔しかった。
明日には色々と落ち着きそうなので作品の見直し修正などできそうです。
ここ数日自由時間がほぼなく更新で精いっぱいでした。
誤字脱字なども申し訳ないです。
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