13話 サーシャというエルフとリディアの孤立
翌日。
訓練終了後、俺はビクティの方へ近寄っていく。
聖女や賢者に関してはそれ用の訓練を受けることになるので別々だ。
聖女が不調な時用に他も育成しているみたいだ。
「あ、ダーリン。見てみてー私聖女の服似合わないからデコっちゃった♡」
こいつがあの時に王都に行かなくてよかった理由がこれだったな。
期待値は低いし、聖女には向かなさすぎるので色々あって行かなくてよくなったのだ。
恐ろしい奴だな。
「………」
無言で頷くと周りを見る。
まだ終わったばかりのようで他にも人がいた。
勇者パーティに入れずとも他のところで聖女としての動きをするのでこの訓練は無駄にはならない。
「ダ、ダーリン?!」
ビクティの横にいた少女が悲鳴に似た声を上げた。
金色の髪を伸ばして、金色の瞳を持った美少女エルフだった。
「あ、ダーリンこの子サーシャって言うんだけどエルフなだけあって鬼かわじゃね?♡」
ウリウリーとサーシャに絡んでいるビクティ。
「ビクティ、私に触れないでください。組織の手が貴方にも………」
即座に分かった。
どうやら厨二病を患っているらしいな。
「え?組織?なにそれウケるーそんなんいるんだー♡」
「ですので火傷したくなければ私には関わらないで下さいねビクティ」
「何が来ようとダーリンがいるから平気っしょ♡」
俺の腕に抱きついてくるビクティ。
「ダ、ダーリン………?」
また俺を見て、はわわといったふうに口をわなわなさせるサーシャ。
この子でいいか。
「………」
無言でポーチに手を入れとあるアイテムを複数抜き出す。
各ステータスの上限アップアイテムだ。
「な、何ですか?それはもしかして闇の薬ですか?ダメですよ不浄ですよ」
「疲れによく効くアイテムだ。ビクティが世話になっているらしいし渡しておこう。こいつといると疲れるだろう?」
これで自然に渡せたことだろう。
「これが………禁断の闇の薬………飲んだ者は幻覚を見ることを代償に………」
そんな代償はない。
しかも飲まなくていい体に叩きつけて割るだけで効果が出る。
「気が向いた時にでも使ってくれ」
「いいんですか?こんな闇の薬?くっくっくっ………それよりもこんな薬を持っているなんてあなたも私と同じ………選ばれし者ですね」
「この子マジで面白いっしょダーリン」
そうだな。見ている分には面白そうだがあまり関わりたくは………
「気に入りましたよ。ダーリンさん同じパラグラム・ガーデンとして。このサーシャ何処までもお供しましょう」
パラノイア・ガーデンじゃないのか?
どっちなんだ?
っていうか気に入るなよ。
「はぁ?!ダーリンは私のだし奪うなっつーの♡」
「ダーリンさんは私のものですけど。私と失われし楽園を目指すんです」
右腕をビクティに左腕をサーシャに引っ張られる平和な時間をすごした。
※
俺が聖女のリディアに謝罪してから数日経ったある日の夜千里眼で勇者一行の動きを確認する。
あまり良くはない空気が流れているようだった。
予定通りだ。
「ご、ごめん………」
リディアがクロイツに謝罪していた。
そのクロイツはと言うと頭に包帯を巻いていた。
「なぁ?リディア」
クロイツが低いトーンの声でリディアに話しかける。
「お前、これで何度目だ?」
「ご、ごめんなさい………」
「別に責めてるわけじゃないリディア。俺たち仲間だからな。俺達が苦しい時みんなで支え合ってここまで来たよな?」
「そうだ。支え合ってきたから今の私たちがある」
エルザがそう声に出した。
「そうですよ。みんなの力を合わせたからですよ」
サヤも同意していた。
「でもな。だからこそ言っておくぞ、リディア」
拳を握りしめて黙って聞いているリディア。
「失敗は誰にだってある。でもな、前にできてたことを何度も何度も失敗するのはどういうことだ?」
「………」
唇を噛み締めるリディア。
「お前これ何度目だ?俺の頭の怪我………これはお前が治療できなかったから今こうなってんだぞ?前はできてた程度の傷だ。何で出来なくなった?ブランクって訳でもないだろ?こんな初歩的なヒール魔法が使えないのは何か理由があるのか?」
「ご、ごめん………ほんとにごめんなさい」
謝るリディアをキツイ目で見つめるクロイツ。
そうしてから自分の後ろから紙を取り出してきた。
「あんまりこういうことは言いたくないんだけどなリディア。あのクソ盗賊があの村で言ったこと覚えてるか?」
「………?」
「俺の代わりはそうはいない。でもな、聖女の代わりはいるんだよ」
「私をパーティから除外するんですか?」
「そうは言っていない。俺たちは一緒に成長してきたからな。悲しいや嬉しいを共有してきただろ?そんな簡単に除外はしない。それに俺たち結婚の約束をしているだろう?」
いい情報を手に入れた。
やけに女がべったりなのには理由があると思っていた。
前々から何となくその空気は感じていたが本当にそうだったとはな。
「でもな」
紙を見せるクロイツ
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【名前】リディア
【ジョブ】聖女
【レベル】63
【攻撃力】289
【体力】758
【防御力】540
【素早さ】380
【魔力】635
【名前】サーシャ
【ジョブ】聖女
【レベル】65
【攻撃力】308
【体力】896
【防御力】604
【素早さ】402
【魔力】701
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「お前がこれ以上あんまりにもヘマするようなら除外する。最近噂の聖女候補がいてな。ステータスは全部お前を上回っている」
「待って………見捨てないで………ください」
「俺たちは命をお前に預けてるんだ。期待しているぞ?リディア」
「はい!」
そこで俺は千里眼をやめる。
計画通りだ。
パーティ内部が若干ギスギスしてきた。
リディアの不調は俺が引き起こしたもの。
前の接触の時にとある呪いをかけておいた。
それで魔法の成功確率がダウンしている。
そしてサーシャの台頭も俺が引き起こしているものの一つ。
さらに幸いなのが誰もが心の中ではリディアの復活を諦めていて支えてやろうとしていないこと。
「さて、話でも聞きに行くか」
俺の狙いは、孤立したリディアを俺に惚れさせること。
婚約者を、お前が最も嫌う男に奪われた時の顔を俺に見せてくれ勇者サマ。
月を見上げてニヤッと笑う。




