10話 ゲームが別の意味で難しい
「私とゲームをしないか?」
ギルドマスターの口から出た言葉を噛み砕くのには時間が少し必要だった。
「ゲーム?」
「うん。ルールは簡単」
そう言って1本指を立てる彼女。
「その前にひとついいかな?さっきの質問の繰り返しなんだが、君はEランクからBランクに上がるのに平均してどれだけの年月が必要かは分かるかい?」
まさかこれがゲームで正解すればとか、じゃないよな?
分からないぞそんなもの。
「3週間くらいか?」
「ははは!面白いことを言うな君は」
笑われた?!
「3週間て。無理無理!どんな奴でも3週間は無理だぞ坊主!それで行けるのは前アリのサブカード野郎だけだ!」
俺はあまりにも馬鹿げた返答をしてしまったらしいな。
「新規の状態から初めて順調に進んで3年はかかる」
「さ、3年?!」
そんなにかけられるわけが無い。
「あぁ。3年だよ。殆どの人間がギルドに登録に来るのが12歳頃だ。それから初めて早くて3年後の15でランクB。しかもこれは一般的なトップランカー達の数値。これより出来が悪ければ更に2年足して5年かかるとかはザラだよ。たまに化け物がいてこれより早いという人もいるが………基本的に3年だ」
「俺は17だ。それでも3年なのか?」
「基本的にはね。冒険者に上も下もない、年齢なんて関係ない。文句があるなら」
「力で示せって訳だ坊主」
ガシッと肩を組んでくるカイサ。
「そういう訳だよ少年」
「だが………」
3年もかけられるわけが無い。
さすがに俺の見通しが甘すぎたというのもあるが………どうする。
いや、そういうことか。
「力………か」
「そうだよ。力こそが全て。ゲームやるかい?」
「内容は?」
「それを言ってしまえば面白くないじゃないか」
ふふふと笑うギルドマスター。
ここまで説明したってとはゲームで力を示せということか。
「やるのかい?やらないのかい?」
力を示せ………なるほどな。
それなら負けないだろう。
「受けて立とう」
ギルドマスターに鋭い視線を向ける。
「決まりだね」
彼女がそう言った途端ワっ!と歓声が上がる。
「ギルドマスターと新人がゲームだって?!」
「そんなのギルドマスターの圧勝に決まってる!」
「ギルドマスター!流石にそれは可愛そうですよ!」
よく聞けば俺が負けると思い込んでいる声が殆どだった。
なるほど………何をするにしてもとりあえず接戦を演じた方がいいんだろうなというのは分かる。
「これは私たち2人の冒険者の戦いだ。彼が戦うと決めた。外野がとやかく言うことじゃない」
そう言ってギルドマスターは俺に目をやった。
「ゲームのルールは簡単。至ってシンプル。この私と決闘だ。私に勝てば君のランクをBに引き上げよう」
「俺が負ければ?」
「そう身構えなくていい。私も意地悪な勝負を挑んでいる自覚はあるし、噂の化け物君には挫折を知ってもらう、それだけでいいだろう?何もかけなくていいよ、ゲームなんだ。楽しんでやろうよ」
舐めてやがるな………こいつ。
「で、その決闘とやらはいつやるんだ?」
「今から1時間で準備出来るかい?勿論後ろの2人の女の子も作戦に参加したいのならこのゲームに乗ってもらう問題ないかな?」
挑戦するような目で見てくるギルドマスター。
「ダーリン、ぶっとばすしかないっしょ!」
「そうですよ!サーガ様!倒しちゃいましょう!」
「決まりかな」
今ので肯定と取ったギルドマスター。
「1時間に闘技場に集合しよう。全力で来なよ化け物君」
そう言って奥に引っ込んでいったギルドマスター。
※
1時間後俺たちは闘技場までやってきていた。
「………」
黙ってスタート位置に付く。
「実はこうして化け物君と戦いたかったんだよね」
俺と向かい合ってそんなことを言い出したギルドマスター。
「私の名前はシャロ。共にいい決闘にしよう」
そう言っているがいい決闘にはならないだろうな。
━━━━━━━━
【名前】サーガ
【ジョブ】盗賊
【レベル】85
【攻撃力】2758
【体力】9586
【防御力】2586
【素早さ】3582
【魔力】9825
【名前】シャロ
【ジョブ】ギルドマスター
【レベル】78
【攻撃力】452
【体力】958
【防御力】458
【素早さ】542
【魔力】932
━━━━━━━━
どうやって接戦を演じようか悩む。
これだけステータス差があれば多分ワンパンで終わる。
一旦ステータスをリセットしてきた方が良かったかもしれないな。
俺ならこいつとステータスの差が多少不利でも地の経験で勝てる。
よし、これでいくか………。
作戦をまとめる。
最初は避けに徹して後半巻き返す。
力を溜めていた設定でいくか。1番不自然じゃないと思う。
「両者位置について」
審判が試合を進めていくので俺達もそれに従う。
「それでは、よーい、開始!」
さて、時間を稼ぐか。
シャロの剣と俺のナイフの攻防が始まる。
俺はナイフで彼女の剣を受け流すだけ。
(剣遅すぎだろ………逆に失敗して当たりそう)
ステータス差がある奴を相手にするのは本当に骨が折れるな。
「はははは!どうしたんだい?!手が止まってるよ?!」
逆だ。意図的に止めてるんだよ手を。
「もしかしてこの動きに付いてこられないかい?」
それはない。
逆に遅すぎて苦労しているくらいだ。
良かったらもう少しペースをあげて貰えないだろうか。
遅すぎて辛い。
仕方ないな。
俺が合わせた方が早いか。
「む、距離を離してどうしたんだい?」
「………」
無言でポーチからアイテムを取り出すと瓶を体に叩きつけた。
「バフかい?」
違う、デバフだ。
シャロが遅すぎて辛いから自分を弱体化させる。
演技はもうやめだ。本気で取りに行く。
制限ありのデバフアイテムだ。
俺がもしもピンチになった時、とそれから一定時間経過で解除されるようになっている。
━━━━━━━━
【名前】サーガ
【ジョブ】盗賊
【レベル】8
【攻撃力】275
【体力】958
【防御力】258
【素早さ】358
【魔力】982
【名前】シャロ
【ジョブ】ギルドマスター
【レベル】78
【攻撃力】452
【体力】958
【防御力】458
【素早さ】542
【魔力】932
━━━━━━━━
やはり、若干ステータスは不利になってしまったか。
だが負けるビジョンは見えない。
さて、勝ちに行くか。
ブックマークや評価ありがとうございます。
励みになっています。
完全に私事で申し訳ないんですが、今日を含め五日ほど所用で不定期での更新になってしまうかもしれません。