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プロローグ 灰雪原に狼はただ1人(主人公の前世での話です)

本編とは少し温度差があるかもしれませんが、よろしくお願いします。

 俺は魔王軍四天王の1人ルーヴィス。

 ナイフの技と体捌きだけでこの地位まで来た。


 友はいない。

 愛を知らず。

 何も持たぬ。

 血に飢えた獣。


 周りに来る奴らは損得勘定で利益のあるやつだけ。

 俺とそいつらの関係はそれで成り立つ。

 利用する価値があるかどうか、それだけだ。


 そんな根暗な俺を人はこう呼んだ。


 【灰雪原の狼】と。


 冷たく虚しいだけの灰色の雪が降り積もる灰雪原。

 そこに住むのが無機質で血の通わない冷たい獣である俺だった。


 その通りだ。


 殺すことしか、壊すことしか知らないただの獣。

 今宵も勝利の返り血を浴びて帰路につく。


 命令を下されれば毎日何かを壊して、殺して家に帰り眠るだけの日々。

 特別何かが変わればいいなんて思ってもいなかった。

 ただ、この無機質な平穏が続けばいいと漠然と思っていた。


 俺に親はいない。

 俺を産んでしばらくして親は人間に殺された。


 だから皆が口にする情を知らずに俺はただ1人灰色の世界を歩いていた。

 何も無い。ただの灰色の雪が降るだけの世界を。


 マトモなコミュニケーションも取ったことはない。

 だから自然に口数は減っていきやがてそのうち殆ど喋らなくなった。

 それに口を開くメリットもあまりなかった。


 気に入らない事があれば壊して黙らせる。

 それだけで済んでいた。


 俺にコミュニケーションは不要。

 最悪全て壊せば解決するのだから。



 そんな俺だったがある日勇者パーティと呼ばれる奴らに倒された。

 俺のナイフや道具はあと少しのところで及ばずに無様に倒れて、初めて床の味を知った。

 だが、奴は情けなのか俺にとどめを刺さずに冒険を続けた。


 惨めだった。

 情けなかった。

 こんな自分が。


 でも折角拾った命………何とか這いずってここじゃないどこかを目ざしていた。

 生き延びて次に繋げるために。自分ではそう思っていた。


 でも、心の底ではせめて最後くらいは灰色じゃない世界を見たかったのかもしれない。

 一瞬でもいい。どこかにないのか?

 灰雪原以外の世界は。


「あ、あの………こんなところで何してるんですか?ひどい怪我です………」


 その時世界に積もっていた灰色の雪が少し解けた気がした。

 今まで灰色の無機質な雪しか降らなかったこの寒い雪原の雪が止んだ気がした。


 初めて誰かに心配された瞬間だった。


「………」


 痛む体を強引に動かして無言で見上げる。

 そこにいたのは黒髪の少女。


「………」

「喋れないんですか?」


 今は、そうだな。

 喋ろうとしていないのではなく喋れない。


 気力的にも体力的にも。


「ボロボロの格好ですけど大丈夫ですか?」

「………ア………」


 声が出ない。

 掠れている。

 喉がかなりのダメージを受けているようだった。


「あ、あの、服退かしてもいいですか?」


 俺の服を脱がす彼女。


「………何ですか?この傷はそれに………ひ、ひぃぃい!!!!」


 尻もちを付いて後ずさる彼女。

 無理もない。


「こ、この傷跡………し、四天王ルーヴィス?!………こ、殺されちゃいます………」


 そう言って逃げだそうとした少女。

 ここまでか………元々ろくな死に方をするとは思っていなかったしそう思った。


 もう体はボロボロで立ち上がれない程だった。

 全てを諦めた時だった。


「あ、あの………良かったら………これ」


 彼女は一言で言うと馬鹿だ。


『目の前に死にかけの四天王が一人居ます。首を持ち帰れば貴方は英雄で一生遊んで暮らせるでしょう。殺しますか?』

→YES 

・はい

・殺す


 彼女はこの選択肢でいいえを作りだす。馬鹿だ。


「ポーションです………足しにならないかもしれませんけど………使ってください」

「………」


 俺は生まれて初めて驚きで声が出ないという状況に出会った。

 この状況で俺を助けるのか?


 頭がおかしいのか?

 俺は四天王だ。


「……ハァ………ハァ………殺せよ人間………バカなのか?」


 何とか絞り出した声はそれだった。

 既に虫の息の俺。

 こんな少女でも殺せるはずだ。


「いいえ………困っている人は見捨てられません」


 俺に肩を貸す彼女。


 閉ざされた雪の世界は徐々に解け始める。

 俺は灰色の世界から救い出されようとしていた。


「………」


 ありえない物を見る目を少女に向けながら歩いた。

 こんな奴生まれて初めて見た。初めて━━━━本当の意味で俺の横に立ってくれた存在だった。


「大丈夫ですか?必ず………助かりますから」


 俺はこの時に初めて見た。

 灰色じゃないものを。


 損得勘定抜きでこいつは俺を助けようとしている。

 生まれて初めて俺は愛というものを見たようなそんな気がした。


「………」

「怖いですけど………絶対に助けます。あんなところで死んじゃだめです」


 馬鹿みたいな女だった。



 その後も彼女は匿ってくれて、日々の介抱で回復し救われた。


 しかし俺は礼の一つもせずに暫くしてから彼女の家を離れた。

 四天王の身でいつまでもいられない。


 初めて己の出生を呪った瞬間でもあった。

 そして彼女から離れた俺の視界の中ではまた灰色の雪が降り始めていた。


 今までは何とも思っていなかったこの灰色の雪が今は忌々しくて。

 何とか彼女の隣に立てないか?そう思ったが俺は無力だった。


 しかし諦めずに俺は四天王であるうちに、固有スキルを育て上げた。

 今は望みがあった。彼女の横に立ちたい、という願い。


 俺はただ、来る日も来る日もスキルを使いひたすら盗み続けた。

 最初は冒険者の剣しか盗めなくても、次第に盗めるものが増えていった。


 エリクサー、ハイエーテル、ハイポーション。

 高レアと呼ばれ、ポーチの奥深くに隠すアイテムなども問答無用に盗めるようになっていた。

 そしてある日1匹のスライムを相手にした時スキルウィンドウが現れたのだ。


【何を盗みますか?現在以下のアイテムを盗むことが出来ます】

→ハイポーション


 スライムがそんなもの持っているわけが無い。

 しかし盗めるとなっていた。


 半信半疑にやってみると手に握られていたのはハイポーション。

 どうやら俺は虚空から存在しないものを盗むというとんでもないスキルを持ってしまったらしい。



 それからは早かった。

 相手が"所持していなくても"様々なものを問答無用で盗めるようになった俺は全てから盗みまくった。


 そしていつしか文字通り何でも盗めるチートスキルになっていた。

 要した時間は百年単位。

 全てはもう一度………今度は人間として少女の隣に立つためだった。


 そして今俺は処刑台に立っていた。


「長かったな」


 俺は様々なスキルや魔法を習得していた。

 そして今日前代未聞の大魔法━━━━転生魔法を使う。


 自分の魂や経験、現在のステータスやスキル等を新しい肉体に移し替える大魔法。

 しかしステータスだけは引き継がないようにしてある。

 あとで振り直そうと思っているからだ。


 これの使用をする前に様々な手段を使い世界のルールを知った。

 その時に俺はあの少女が次の輪廻で何処に産まれるかどの時代に産まれるかを知ることに成功した。


 後は俺の転生先の指定だが、狙いは定めた。

 大魔法の使用準備も整っている。


 後はこの肉体からの脱出。

 生物には知ってしまえば忘れられないものがあるらしい。

 俺にとってそれは暖かさだった。


「この灰色の世界からの脱出を。ここは寒い、あの温もりをもう一度………」


 そう呟いて俺は魔王に目をやった。


「覚悟を決めたか?これより四天王ルーヴィスの処刑を執り行う」


 自決では輪廻から外れる可能性がある。

 だから処刑の道を選んだ。


 騒ぎ出す周りの奴ら。


「あの灰雪原の狼が?」

「魔王だって食っちまいそうな獣が素直に処刑されるのか?まぁ処刑されんなら万歳だわな。あの陰キャ、喋んねぇし何考えてるか分かんないしいきなり殺されないかビクビクしてたし」


 もうごめんだ。

 1度貼られたレッテルは簡単に外れない。


 俺は転生して獣をやめる。

 そして幼馴染として仲良くしたい。


 彼女なら雪原からの脱出法を知っていそうだ。

 もう嫌だ、この灰色の雪原は。暖かさを知った今の俺には寒すぎる。


「………」


 死ぬのは怖い。

 でも俺はこの世界から抜け出すんだ。


 仲良くなれるといいが………。

 でもどうやって話せばいいんだろう?分からないな。


 俺はただ彼女と共にのんびりと暮らしたい。


 そんなことを考えながら魔王にもう一度目をやる。


「処刑しろ」


 斧が振り下ろされた。


━━━━━━━━


【名前】ルーヴィス

【ジョブ】四天王

【レベル】100

【攻撃力】9999

【体力】9999

【防御力】9999

【素早さ】9999

【魔力】9999


【固有スキル】幻影盗賊

・ファントムスティーラー

 概要━━━━対象から任意のアイテムをどんなものでも盗むことが出来る。


【汎用スキル】

・魔力リジェネEX

 概要━━━━使用した分の魔力を時間経過で回復する


・体力リジェネEX

 概要━━━━使用した分の体力を時間経過で回復する


・剣の心得EX・槍の心得EX・弓の心得EX

 概要━━━━どんな武器だろうと自由自在に扱えるようになる


・鑑識眼EX

 概要━━━━物や人のステータスを確認できる。(EXランクだと非表示設定のステータスも確認できる)

 etc………


━━━━━━━━


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― 新着の感想 ―
[一言] 壮大なストーカーやん
[気になる点] ・剣の心得EX・槍の心得EX・弓の心得EX  概要━━━━どんな武器だろうと自由自在に扱えるようになる 概要の所のどんな武器でもだと、説明がおかしいと思いました。 剣と刀、槍と棒…
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