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96、転生者の疑問

 ライナルトの父を知らぬ人はいない。オルレンドルの全権を有し、大国の名をほしいままにする皇帝カール・ノア・バルデラスである。この皇帝、数ある歴史の中でも愚者とそしられる皇帝だが、歴代と違う点があるとすれば傀儡政権を良しとせず、自らその権限を勝ち取ったという部分だろう。

 皇帝カールは元々前皇帝の末弟であり皇位とは遠い人間であった。前皇帝崩御に伴い、皇位継承のごたごたでカールに至高の冠がやってきたのだが、どうせ傀儡人形だろうという人々の予想を裏切った。ライナルトには直接関係ないため仔細は省くが、皇位についた男はこれまで皇族を操り人形としてきた特権階級の人間を処刑、あるいは孤島へ送り込んだのである。そうしてカールは人々に新たな時代の幕開けを予感させたのだが、その後は堕落の一途である。

 まず歴代皇帝を称える廟や像を作らせた。地下墓地にあった扉がそうであったように、あちこちで歴代皇帝の姿が人々の目に焼き付くよう国の予算を消費した。

 次に女を囲った。無類の女好きである皇帝カールは既婚未婚、気に入った相手はおかまいなしに寝台に呼びつける。いまは二十人前後の側室で収まっているが、過去は最大五十人前後の女性を後宮に住まわせ、それとは別に一夜限りの愛もあったと語られる。

 他にも賄賂等の噂が多々あるが、その一方で法を整え、教育機関へ力を注ぎ、軍への予算強化を図ると悪い面ばかりではない。……一番の問題は皇帝の奇行だろう。

 酔っ払って裸で踊り出した、気に入らない配下に落とし穴を仕掛けた、下劣極まりない新しい遊戯を国に広めようとしたくらいなら序の口。「皇帝カールの愚行記録」と人々に話題を提供する程度ですんでいるが、ただ声がいいからと気に入った馬番に貴族の称号を与える、素手の人間と野生の大型動物を檻に入れ競わせる。ある時は「文字が読みにくい」というだけの理由で稀覯書を燃やしたり、国宝を炉にくべたりもした。行動がまったく読めないのである。

 ライナルトが皇太子の待遇で迎えられたのも皇帝の一声だ。実際は皇妃や諸侯の反対の声は半分以上にのぼり、劣勢だったのだ。本来彼はただの皇子として迎えられるはずだったのである。


「奴さん結構大変な立場みたいですよ。おまけに自分を推挙したはずの皇帝が無理難題を押しつけているみたいだ」

「……それ、こんなところに出かけてる余裕なんてないんじゃ」

「そのはずなんですがねぇ……。噂じゃ四苦八苦しているのを反対派が酒の肴にして楽しんでるとか。だってのになんだろうなぁ、あの余裕は」


 ライナルトが皇帝カールから押しつけられた難題はいくつかある。

 一つが地下水路の全把握、二つ目が砂漠の国の交易解除と城塞都市の奪還、三つ目が反帝国派の殲滅……と他にも複数指折り数えていく。


「砂漠の国はえーと、たしか国同士仲が悪いのだっけ。三つ目もなんとなくわかるとして、地下水路ってなに?」

「それねぇ、おれも気になったから聞いてみたんですけど、この国とんでもないですよ」


 帝都に地下水道が備わっているのは他国にも知れ渡っているが、水路とは初耳だ。詳しく聞くと、帝都の地下に水道が走っているのは事実だが、実際は迷宮のように入り組んだ水路となっているらしい。一度道を逸れたら脱出不可能と言われており、管理しているはずの皇族でさえ全容を知らないというのだ。


「水路は初代皇帝が作らせたそうですが、完成間際になって血で血を洗う争いが起こり、挙げ句水路を作らせた関係者全員が殺されて、いまじゃどうなってるかわからないんですと」


 おおよその路は判明しているらしいが、地下の下にさらに路が作られているらしく、しかも灯りがないのも手伝って未だ把握に至ってないとのことだ。噂では宮廷に繋がる秘密の通廊や脱出口があるのだと、まことしやかに囁かれている。


「で、わけわからん地下は初代の時代から放置され続けたそうで」

「……そんなものを押しつけられたの?」

「無傷でファルクラムを落とした皇太子ならできるはずだってね。だけど砂漠の国の件にしたって、相手を怒らせたのはカール皇帝のはずだ。おれには息子を弄んでるようにしか見えませんよ」


 そして周囲は無理難題を押しつけられたライナルトを観察している状態らしい。ヴィルヘルミナ皇女らも彼が失敗するのを待っている状態との噂だ。


「ほぼ無理な話ですよ。蹴落とさせるために皇太子につけたようなもんだ。その点だけはちょいと同情しますね」


 幸いにも、彗星の如く現れた美貌の皇太子の存在は市民の人気を集めているようだが、アヒムは珍しく同情の眼差しを隠さない。

 しかしいまの話が事実なら、ライナルトはこの国においても苦労していることになる。彼、大丈夫なんだろうか……。

 案じていると、どんどんと植物が生い茂る区画に入っていくことになる。道は三叉に別れており、青い屋根が見える方角へ進むと、やがて五階建てにも及ぶ建物が見えてきた。

 入り口には門番が在住しており名を尋ねられたのだが、エルの名で何故かうんざりした顔になる。


「他の方にも伝えているのですが、いかなる御方であろうとクワイック研究員に面会するにはあらかじめ予約を取って頂く必要があり……」

「ニーカ・サガノフ様のご案内でこちらに伺ったのです。それかクワイック本人に尋ねていただければ、大丈夫だと思うのですけれど……」


 サガノフの名は絶大だった。門番の態度がさっと引き締まり姿勢を改めたのである。


「確認して参ります。そちらでお待ち願えないでしょうか」


 残った一人が中へ入ると、しばらくして駆け足で戻ってくる。

 お会いになるそうです――。そう呟いた門番は驚愕に満ちていた。

 建物の内部はなんら変哲のない、しかしどこか無機質さを感じさせる作りだ。場所によっては埃臭いし、傷んでいるのか、所々軋む床を鳴らして案内されるのだが、すれ違う研究員と思しき人は僅かに驚きに目を見開く。

 指示された場所は、一階の角の部屋だった。扉の前の名札表には「クワイック室」の文字。学校を思わせる引き戸を叩くと、中から「どうぞ」と懐かしい声が聞こえてくる。


「エル?」


 見知った顔を期待して戸を開いたのだが、そこにあったのは意外な光景だ。

 中は多数の机と無数の植物や、用途のわからない器具や書籍が積まれている。そこに三人の人間がいた。

 二人は見知らぬ人間だ。きょとんとした顔で見覚えのない客人を見つめているが、奥に座る女性だけは本から目を離さない。

 ――見間違いでないなら、席の位置からして上席じゃない?

 二つのお下げも、愛嬌のある顔立ちも変わらないが、いまは片眼鏡をかけて本をめくっている。


「……えーっと、エル?」

「ちょっと待って、これ読んだら行くから」

「ちょっとってどのくらい?」

「あと十頁」

「長い」

「声かけられるともっと延びるけど」

「エルー?」


 ここで待たされる身にもなってほしい。再度名前を呼ぶと、眉間に皺を寄せたエルが本を閉じて立ち上がる。


「突然押しかけてきたくせに随分じゃない」

「でも通してくれるのは、会ってくれるって意味でしょ?」


 裾の長い外套を羽織ったエルは、それこそ研究者、いや魔法使いといった出で立ちだ。残る二人に出かける旨を伝えると颯爽と退出し、ついてくるよう促してくる。

 外に出るとアヒムには待っているよう伝え、二人で庭に向かうのだが、そこは休憩もかねているのか、ちらほらと他の人の姿もある。


「エ……」

「こ、の、ば、か、が――」


 いたぁ!?

 振り返るなり両の頬を掴まれた。いたい、なんで、いたぁい!!


「え、いは、ひょ、いひゃいぃぃ!?」

「痛くしてるんだこの馬鹿……!」

「えりゅ、ゆるひ――いはいいはいいはい!」


 抵抗してもエルの力は揺るがない。周囲に助けを求めるも、エルが睨みをきかせると近寄る人を遠ざけてしまう。ぎゃあぎゃあ騒いで、ようやく解放されたときには私の頬は真っ赤である

「いたい、いたい、エルひどい……」


 本気で涙が止まらない。鼻を啜る私を、エルは黙って見つめている。謝るなりしてくれたっていいじゃないか! 訴えようとすると鼻息荒く腕を組まれた。


「忠告無視して危ない橋を渡ったわね。命がけで手紙を送ったのに、なんで言うこと聞かないのよ」

「もちろん覚えてたけど、あ、あの状況で家族置いていけるわけないでしょ!?」

「気持ちはわかるけど、わたしから送られたんだから、アレを見たら危なさそうなことくらいわかるでしょうがっ」

「それだけであんな目に遭うなんてわかるか馬鹿ー!」


 いきなり頬をつねっておいてなんたる言い草か。こっちは命がけで綱渡りしてきたんだから、少しは再会を喜ぶなりしてくれたっていいじゃないか。エルの二の腕を掴んで精一杯の力を込めると「ぎゃあ」と蟇蛙を潰したような声が上がった。


「ちょ、カレンんんんん……!」

「ああああやめ、いだ、いたいぃぃぃぃ――」


 女二人、青空の下で何故かキャットファイトを繰り広げている。

 お互い静かになったのは不毛な争いに体力を消費してからだ。肩で息をしながら、どちらからともなく腕を下げたのがきっかけである。

 なぜこんなことになったのか、息を整えて黙りこくると、目の前に小さな袋包みが差し出される。


「飴」

「……食べる」


 飴一つでほだされるわけではない。ただ疲れたので糖分が欲しいだけだ。


「ニーカさん、エル・クワイックって言ってた。名前はどうしたの?」

「こっちにきてからはそう名乗ってる。エルネスタは親くらいにしか言わせてない。……でも、もうエルネスタって名乗ることはないと思う。カレンが覚えておいて」

「ん、わかった。……あと、部屋の前に名前があったけど、エルの研究室?」

「あれから昇格して研究室を一つ任されてる。あそこにいたのは助手」

「まだ十八なのに?」

「カレンだって同い年で婚家の家乗っ取ったじゃない」

「乗っ取りじゃない。その言い方はやめて」

「わかってる。いまのはわたしが悪かった」


 エルはエレナさん経由で、簡単にだが私の置かれた状況を知っているらしい。いま詳しく話すことではないが、理解している、というのはありがたかった。


「……お疲れ」

「うん」


 もう一つ飴が渡される。今度は多分「ごめん」という意味だろう。

 受け取った飴はポケットにしまい込んで、長い息を吐く。簡潔に近況を報告し合うと、呆れたように言われてしまった。


「あんた、見合わないことしてるね」

「損益考えてなったわけじゃないから。置いていくなんてできなかったし……エルはどうなの。研究室任されたってことは、なにか凄いことでもしてるの?」

「してるというか、したというか……でも、そこそこに名前は売れてる。多分」

 

 煮え切らない態度だが、この若さで助手がいるってことは相当優秀なのだと推測できる。彼女はなにを研究してるのだろう。なんとなく尋ねてみると、なぜか気まずそうな表情で目をそらされる。話したくないなら別に構わないが、いまの表情は妙に引っかかった。

 なんだろう、エルをこのまま放置してはいけないような――。


「エル? なにか隠してる?」

「別に――……あ、そうだ。ねえカレン、わたしさ、前々から気になってたことがあるんだけど」

「なに、はぐらかそうと……」


 詰め寄ろうとした瞬間、ぽん、と目の前で煙があがった。といっても危険なものではなく、紙吹雪が宙を舞ったのである。

 びっくりしていると、膝の上にぽとんと何かが落ちた。


「なにこれ」

「チョコ菓子」

「なっ」

「もともと原材料はあったの。ただ作り方が広まってなかったから、教えたら改良されていった。いまは高級品だけど、そのうち下にも広がるようになる」

 

 エルはぼんやりとした製法を伝えただけ、食べられるように創意工夫したのはこの国の人たちだと語る。


「カレンは向こうの知識を伝えるのは好まないみたいだけど、このくらいなら構わないでしょ」

「だから違うから。学校時代からずっと嫌とはいってないでしょ? チョコだってすごく嬉しいし、甘い物が増えるのも歓迎してる」


 このあたりは私とエルの考えの違いだろう。実現が可能かどうかは置いといて、だ。もしも、もし私が万能であったのならの話。人々に現文明を越える知識を唐突に、そして過剰に与えるのはやめた方がいいと考えている。

 こんな風に考えるようになったのは、たしか傘を発明しようとした頃だ。あれは諸事情あって挫折したけれど、そのあたりから意識を変えだしたと記憶している。

 様々夢想して、特殊技術を有していない現実に落ち込んでいたのは、いまでは笑い話、いや黒歴史と言おうか。

 ……あの頃はまだ……まだ……異世界転生にいくらか夢を託していた……。

 

「わたしの提案になんでもケチ付けて駄目って言ってたじゃない」

「現実になったときの結果を考えてっていったの。エルがよく言ってた車だってそう。いきなり現物を作っても道が整備されてないし、運転技術を広める術がなきゃどうにもならないでしょ。大体このチョコみたいに可愛らしい話じゃなかった。過激なものばっかり挙げるんだもの」

「車は諦めた。代わりになりそうな燃料がない」

「企みはしたのね……」


 お互い転生者だから、この世界にアレを伝えたらコレを伝えたらなんて話したことくらいある。そうしてわかったのは、エルはどちらかと言えば生活を豊かにしていきたい、動機はわかるけれど、なにより持ちうる知恵はガンガン使うべき派ということ。

 この点は何度話しても相容れなかった。エルは私を臆病と呼び、私はエルを過激派と呼んでいた。せめて慎重派と呼んでくれたら先鋭派と改めるのだけど。

 包みを開くと、茶色い欠片が指に転び出る。口に含んだ味はまごうことなきチョコレートだ。

 ……美味しい。もうほんと、脳が痺れるくらい、どうしようもなく美味しい。

 思わずため息が出るおいしさだった。舌はこの味を知らないはずなのに、懐かしさのあまり多幸感が溢れて止まらない。

 エルはそんな私を探るように見つめ、うん、と頷く。


「前々から少しずつ変わっていってたけどさ、カレン、やっぱりわかりやすくなったよね」

「わかりやすいって、どこが?」

「主に表情かな。日本人ってことを抜きにしても感情豊かになったっていうか、年相応になった」

「……そうかしら。賢しいとか生意気とは言われてそうだけど」


 ここのところは忘れがちだが、精神年齢的には倍である。

 実際の三十路なんて子供の頃夢見た大人とは違い、気がついたら三十になってた、位の感覚だけど。それでも一応、多少は年を経ているからこそコンラートの件を含め越えられたのだ。

  

「揶揄ってるわけじゃないんだ。それにいま言ったことはカレンだけじゃなくてわたしにも該当してる」

「……どういうこと?」

「精神は肉体と魂、どちらに左右されるのかって話。最近はずっと気になっててさ。……カレンくらいでしょ、わたしとこんな話ができるのって」


 エルは器用に片目を瞑り、ウィンクを投げて寄越す。

 たしかにその仕草は学校時代のエルと比較すれば自然で、可愛らしい女の子そのものだった。


「わたしはさ、子供の頃よく親に言われたのよ。お前はしっかり者だ、とても子供とは思えない聡明さをもった天からの贈り物だって。ちゃんと子供らしく振る舞ってたつもりなのに、親はわかってたみたいなのね」

「ああ、うん。それは……わかるかも。私も使用人に可愛げがないって言われてた。兄の乳兄弟にもかわいくねーって言われたことがあったかな」

「でしょ。いま思えば大人が無理に子供の振りしてるわけだから、わからなくはないんだけど……あ。会話は聞かれてないから安心して。そのあたりは対策してるから」


 エルは落ちた紙吹雪の欠片を拾い上げて指で丸める。最近、と不思議そうに首を傾げるのだ。


「最近は楽しそうだって母が言うわけ。いつもと変わらないわよって返事をしたら、きっと仕事が充実してるのねって。それは間違ってないのだけど、そのあたりで色々振り返った、具体的にはこれまでの自分をね」

「で、どうだったの?」

「……子供やって青春してるわー」

 

 身も蓋もない、だがこれ以上ないほど明瞭な答えだ。


「勿論記憶やこれまでの経験が消えるわけじゃないけど、年を重ねるにつれて見た目に沿う行動を取るようになっていた感覚はある。いまの自分と比べたら、赤ん坊の頃の方がまだ斜にかまえてた」

「まぁ……そうねえ。お互い学校時代の方が世の中を皮肉ってた感はあるかも」

「周囲に子供扱いされて、それに甘えたっていうのもあるんだけどさ」


 環境に変えられていった……というのはあるだろうなあ。こうして考えると人間の順応力は高いというか、我ながら感心するところである。


「……エル、昔ほど主の思し召しと、だとかは言わなくなったね」

「そうかも。奇跡は自分で体現できるから。それに――少し、わからなくなったし」


 エルはぼうっと空を見上げて、子供みたいな眼差しで疑問を口にした。


「ともあれ不思議になったわけ。こうして新しい肉体を得てるんだから、きっと魂は別に存在している。だったらこの心はどっちに左右されるんだろうってね」

「ねえ、エルは魂と心は別って考えになるの?」

「そりゃそうでしょ、人間の三つの要素――あ、そうか。カレンは無宗教だったか」

「……まあね。でも言いたいことはわかるから大丈夫」


 宗教は詳しくないが漫画等で蓄えられた知識はあるので。

 エルとこんな話をすることになるなんて思ってもみなかったから、降ってわいたような話にうまく追いつけない。一日一日が濃縮された毎日なせいか、論じる相手のいない転生論なんて遠い出来事だった。


「難しい問題だなあ。人外視点の物語も、難しく考えずに読んでたし」

「わたしはそういう娯楽ものは買ってもらえなかったから……。お互い似たような感じになっているし、肉体に左右されてるって結論でいいのかね」

「そうね。でもこんな話したところで、転生の優位性があるっていっても年齢くらいだから……」


 ……エルは優れた魔力もありましたね、はい。

 しかし魂だ肉体だの語るのであれば、同僚にでも尋ねてみたらいいだろうに……と言ったら盛大に眉を寄せられた。


「話題を誤魔化すなりして持ちかけてみたらいいじゃない」

「嫌だ。笑われるのがオチ」

「そうかもしれないけど……。ええと、そうだ。たとえばシスとか」


 エルの前で彼の話題は御法度だろうに、自分でもなぜ彼の名前が出たのかはわからない。しかし、どういうわけか彼ならきっと笑い飛ばさずに話に応じてくれるだろうという不思議な確信もある。

 しかし案の定、げえ、とエルは口元を歪めるのだ。


「冗談。あの詐欺師より信用ならない存在はな…………カレンは知らないのか」


 あの男、まだ他に秘密があったのだろうか。


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