表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/365

154、わたしのともだち+イラスト

 どれほど残酷な時間が流れても、世界は相変わらず動き続けていく。

 

 どのくらい座っていたかはわからない。

 おそらく長くはなかった。動くのを止めてしまった友人を抱えて、失われ行くぬくもりを感じていた。

 現実感がなかった。

 銃の反動で肩や腕が痛かった。床にまき散らされた彼女の欠片は目に毒で、その結果が物言わぬ骸だったけれど、やはり頭はどこかふわふわして浮わついていた。


 誰かが入ってきた。


 なんて声をかけられたかは覚えていない。ただ、誰かが「なんてことを」と呟いたのを皮切りに、言わねばならない言葉を探し当てた。


「反逆者は私が討伐しました。皇帝陛下にはそうお伝えください」


 振り返りはしない。残り少ない時間で血まみれの指で彼女の頬を撫でた。先ほど目を閉じてあげたから、頭部を穿つ酷い傷を除けば悪くない死に顔だ。

 永遠に続くと思われた時間はすぐに終わりを迎えた。

 目前に立った男は一隊の隊長であり皇帝の腹心だ。彼女を私から奪うと、お姫様のように横抱きに抱える。

 男とまともに目がかち合った。


「……貴女の功績は私から陛下にお伝えすると約束しよう」


 彼女がこの手に返ってくることはもうない。これが本当のお別れだ。

 

「友人を自ら討伐された事実を陛下はお喜びになるだろう。私からも、か弱き女性の身でありながら反逆者を仕留めた貴女に感嘆を禁じ得ない。なにせクワイックの反逆については触れをだしたばかりだ、内密にしようにも噂は人の口を渡るだろう」


 粛々と称えてくれるけれど、その目は別の言葉を語っているようだ。

 ――やってくれたな、と声なき恨みを上げる男からは視線を逸らさない。たぶん、男は初めて私という人間をまともに認識したのだろうから。

 やがて、男は私の友人を抱えて遠ざかっていった。

 男に続くようにひとり、ふたりと去って行き、残されてしまったのは私だけ。


 ふと、外を見た。


 窓はとっくに砕けて無残な木枠だけが残っている。室内と合わせて酷い惨状だけれど、枠の向こう側は呆れるくらいに晴れ渡り、美しい青を空一面に広げている。

 外で雀が鳴いていた。

 確か彼女と、私の親戚を招いてお茶会をした日も良い天気で――。 

 

「……ル」

 

 掠れた声で彼女の名前を呼んだ。

 目元が熱を持っている。苦しくなる息の中で呻き声をあげながら、冷たくなった血の海を叩く。

 もし彼女を語ることを許される日が来るのなら、私は間違いなく最初にこう述べるだろう。

 

 ――私の友人は酷い人だった、と。




 


 栄光の代償編  終




イラスト:https://twitter.com/airs0083sdm/status/1376002591415394305


エル:https://twitter.com/siro46misc/status/1376016453858566148



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 副題の回収がエルで終わるとかそんな簡単な仕掛けであるはずがなかった…女子会のイラスト素敵です… 最後の独り言。サミュエルは多少なりエルとテディに情が湧いてたのてしょうか…それともエルの…
[一言] 情緒もへったくれもないけれど今後を考えると2人にとってベストな終わりに思える。 エルは敵作りすぎたのと兵器開発に手出した時点で多分もう駄目だった。 皇帝がアレなのと帝位争い中なの考慮すると…
2021/04/01 22:54 退会済み
管理
[良い点] 栄光の代償編完結お疲れ様です。 この章はエルという主人公を描く為のものだと考えていましたが、カレンちゃんが失うものが描かれた章でもあったのだと最後に気付かされる展開がすごいです。 [一言]…
2021/03/30 17:40 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ