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幸運

「次はこの調香師会議最終日に行われるフレグランスコンテストについてですが、今回に限っては会期中、今日と明日の会議終了後に提出作品を作製していただたくのはどうでしょうか」

 シャルロッタ院長の問いかけに驚く面々。それほどまでにこの問いかけは驚くべきものだった。

「それは、なんでいまさら……――すでに昨年の調香師会議の中で事前に作製してくるというのを決めていたではないか」

 ダミアンがほかのメンバーの代表となって尋ねる。シャルロッタ院長はええ、そうでしょうと微笑んだ。

「もちろん、混乱は承知の上ですし、公平を期すために各国調香院長立会いのもとで調製するのはとても手間がかかるは思いますが、どうにかその時間を作っていただきたいものです」

 なかなかのゴリ押しに事情を知らない他国の面々は顔を見合わせる。するとシャルロッタ院長にかわって、レリウス男爵がそっと口をはさむ。

「ちょっとお恥ずかしい話ですが、我が国の調香師のひとりがほかの国の調香師から喧嘩を売られましてなぁ。その調香師はもともと参加予定ではなかったものの、参加しろと圧をかけられまして」

 彼の言葉に色めきだつ参加者たち。調香師を侮辱する。それは一歩間違えれば内政干渉にも受けとられないその行為である以上、その加害者を突きとめようとなっていた。リュシル院長だけは顔色が悪いが、誰も気にしてない。


「別にこちらとしては加害者を断罪しようとは思っておりませんが、そのかわりにマザーグリム院長の提言を認めてもらいたい」


 レリウス男爵の言葉に全員が黙りこむ。数分近く沈黙が降りて、やがてミハイルが口を開いた。

「いいんじゃないのか。いつも欠員とかがでて、ときどき一人しか出場しない国が出てくるくらいなんだから」

 その言葉に頷くグレゴールとミハイル。リュシルは自身が口をはさむのはためらったようだった。

「そうだな。ホスト国の調香師の参加があまりにも多くなるのならば、それはねぇだろと言うが、たった一人増えるだけだろう? それだったら、こちらに異議はない」

「うん、ヴァーヴェン院長の言うとおりだよ。もし、エルスオング大公国だけが増えるのが嫌だったら、自分で出ればいいんだし」

 二人の後押しにより、今日と明日の会議後にフレグランスの作製が認められた。

「では、今日はミュードラ大公国、カンベルタ大公国の二か国、明日は残りの三か国、エルスオング大公国、フレングス大公国、アイゼル=ワード大公国という組み合わせではいかがでしょう? もちろん、調製をしない国の院長が監督するという条件つきで」

 シャルロッタ院長の提案に乗り気なミハイルとダミアン、そしてグレゴール。彼らにとってはかなり好都合だったのだろう。それに引き換え一人浮かないリュシルだったが、彼女も渋々受けいれていた。


「どうだい、はじめての会議は? なかなか緊張しただろう?」

 昼休憩に入ったときにレリウス男爵に声をかけられたフェオドーラはまったくですと肩を竦めながら笑った。会場内の食堂にいる二人の目の前にはエルスオング大公国内で栽培されたハーブがふんだんに使われた料理が並べられていた。

「やっぱり国の代表として発表するのは、いつもの会議よりも緊張しました」

 彼女の言葉にそりゃそうだろうと苦笑いするレリウス男爵。彼も同じような経験をしたのだろうか。

「お前さんの場合、ちぃと相手が悪かった。というよりも、たまたまゲオルグ調香師(そういうひと)に当たっちまったからなぁ。メルセベス院長がグランデル院長に味方しなかっただけでもかなりお前さんは幸運だったな」

 まさしくレリウス男爵の言葉どおりだ。ミハイル院長は貴族の中でも高位貴族。リュシル院長に(くみ)してもおかしくなかったのだ。あそこでドーラに味方してくれたのはかなり幸運だったのだ。

「まったくです。皆さんのおかげでなんとか立っていられました。そういえば、今日はハーブティーが出ませんでしたね」

 最初、レリウス男爵が言っていたことを思い出した。そういえばそうだったなぁと彼も気づいたようだ。

「もしかしたら、午後に症例報告かねて配られるのかもしれんな」

 その可能性をドーラは考えていなかった。なるほどですね、彼女は楽しみですと笑った。

「ああ。そうだな。寝てしまわないように気をつけねばな」

 冗談交じりに言ったレリウス男爵の言葉にそうですねとつられて笑うドーラ。今からそのときが楽しみになった。

学会に限らず研究発表って眠くなるんですよねぇ…(経験談)

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