三章の前に
*五大公国と帝国
[ヴェーデルガンデ五大公国]
帝国から170年前にそれぞれが独立した国となった。
当初から政情は不安定で、五大公が結んだエルニーニ帝国に対抗するための暫定的な同盟、いわば、休戦状態によって成り立っている国。各国内外で派閥争いが絶えない。
*序列(厳密に明文化されてはないが、建国年やかつての帝国内での爵位や家格によって、決められている)
第一位:ミュードラ家
第二位:カンベルタ家
第三位:エルスオング家
第四位:フレングス家
第五位:アイゼル=ワード家
[エルニーニ帝国]
現在、大陸で最も勢いのある国であり、フィオリーノ帝の親政政治をとっている。『調香典範』を作った大皇帝カストと父、ドナートが調香制度を確立。ドナートの十五代前を祖に持ち、五大公国も元は帝国の一部だった。
*認定調香師(調香師)
世界共通の資格。1800年続く『調香典範』に準じる。各国国立調香院での修学、もしくは認定調香師に弟子入りし、一定年数修行したのち、国立調香院で筆記と実技(調香)試験を受け、合格した者のみが名乗れる、狭き門(一級調香師は100分の1以下、二級調香師は30分の1前後)。基本的にどの国でも年齢制限はないが、多くは25歳までに受からなければ、その道は閉ざされたものであると考える。調香院での修業をおこなうにしろ、認定調香師に弟子いりするにしろ、かなり金銭面でのハードルが高く、平民が調香師になれるのはごくわずかであり、大多数が金に余裕のあるもの(貴族や大商人など)である。
国立調香院の卒業生でも半数以上は取得できない資格であり、医師や法曹三資格(弁護士・裁判官・代書士)よりも難関であると言われている。この資格がないと、『香り』に関わる仕事ができない。
また、毎年、国をまたいだ調香師の交流会や調香院の研究会がある。
『香り』に関わる仕事一例
・香水師:香水や芳香剤の調香・販売
・癒身師:マッサージ師、セラピスト。医術の勉強もしているので医療行為もできる。
・粉黛師:化粧品の製造・販売
・紅茶師:食用ハーブ関連製品の製造・販売
・精油製造官(公務員):精油の製造・保管・品質管理を担当
原材料となる薬草・精油などの素材は、原則、国が管理し、規格を統一している。調香院に一度納品され、そこから市場に出回ったものを購入する。
調香師を取ったものは各専門の職に就くものが多いが、ドーラのように個人で店を構え、何でも扱える調香師もいる。
・第一級認定調香師…一か国あたり数人ずつしかおらず、平民であっても国を挙げて保護される対象となっている。事案調査権を持ち、単独処方や国内外で『調香』を行うことができる反面、責任は重大。公式での行事や調香師として働く時は白い制服を着用し、胸元にアザミの花のピンバッチ(黄色)を着けておかねばならない。
※事案調査権:香りに関わる事件が発生した時、国内外問わず正式に調査できる権利。原則、調査するには、事前に調香師所属国の担当大公の命令書が必要だが、場合によっては潜入調査や囮調査が可能である(その場合は、後日必ず事情の説明が必要)。
・第二級認定調香師…第一級認定調香師には及ばないが、ある程度の知識を兼ね備えた知識人としての地位がある。所属国内においては第一級認定調香師の元でならば処方や『調香』できるが、所属国以外では下働き程度の地位しかない。公式での行事や調香師として働く時は灰色の制服、胸元にアザミの花のピンバッチ(赤)を着ける。第一級に昇格する試験もあるが、合格した者はごくわずか。





