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世界樹と生きる  作者: 池田瑛
第2部 軌道エレベーター『コスモス・ツリー』
59/73

58. 17歳、ゴンドラに揺られて見る、満腹の夢

「なんか子どもっぽい格好だよね」


 彼氏の発言で、私は激怒! カッとなった。だが、冷静になれ。


 まだ、コース料理は始まったばかりではないか。いま食べている前菜のカルパッチョは、いま流行の食材なのだ。


 重力と遠心力の釣り合いによって、擬似的に生み出された無重力環境下で生み出された蛸、ゼログラビティー・オクトパスが使われている一品だ。


 無脊椎動物である蛸は、体の90%が筋肉である。その蛸を無重力で育てたらどうなるか。

 筋肉が発達せず、極上の、まるでトロを食べたかのような、口に入れた瞬間、融けていくような味わいの肉質に変化するのだ。口に入れた瞬間に蕩けていく蛸のカルパッチョ。すこしきつめのビネガーが、きゅっと酸っぱさで口を締めてくれる。


 美味しい……。酷いことを言う彼氏なんて放置して、料理を堪能しよう。

 

 次に来たのは、「四種類のチーズピッツァ」だ。無重力下で熟成されたチーズだ。重力によって沈殿することなく、満遍なく広がったチーズは、生で食べてもフワフワだけれど、ピザとしてコンガリ焼くとさらにとろりと美味しい。

 

 『美しい国日本』から『重力に縛られない国日本』へ!


 政府のキャッチコピーを思い出す。


 ロケットなんて燃費が悪いものを使わず、エレベーターで宇宙まで運べる。しかも、電力は宇宙空間で発電した太陽光エネルギーというエコ具合。

 無重力下で精製可能な、カーボンナノチューブを越える強度と軽量を誇るシリコン・ナノチューブ。人類の夢!

 

 まぁ、そんな感じで宣伝していて、その国家プロジェクトの財源確保の為に、消費税が上がったのだけど……


 あぁ……ゴーダチーズ、クリームチーズ、チェダーチーズ、そして、パルメザンチーズ。


 無重力下で熟成させると、こんなにもまろやかになるなんて……。私たちは重力に縛られていたのね!


 もう彼氏の分まで食べちゃおう……


 あぁ! 次は、「カルボナーラ」!


『地球上で進化した生物は、月の満ち欠けによって生理現象が左右させるなど、微力な重力の変化も受けています。地球上での生物が無重力環境下での生殖に適応するには時間がかかります。しかし、我々は、我々を構成する炭素と似た元素、シリコンによって、新たにケイ素生物を生み出せることに成功したのです! 高齢化で喘ぐ我が国に、新たなる労働力が誕生したのです!』


 政府の広報車が私の食事の邪魔をしようとしている。だけど、私は、そんなことに耳を貸さず、味覚と触覚、そして嗅覚に全意識を注ぐ!


 無重力環境下で産卵した鳥の卵を最後に混ぜた究極のパスタ! 卵白でありながら卵黄のような、卵黄のようで卵白のような……なんて素敵な味わい! フワフワなカルボナーラ!!! 


「お代わり!」


「お代わり!」


「お代わり!」


「もう食べられない〜〜〜」


「お〜い。もうそろそろ起きろ〜」


 私の体を揺する声。


 ん?


 にゃむ?


 ん?


 はっ!


 ゴンドラの揺れが良い感じで、そしてお腹いっぱいで夢を見ていた!


「すみません、寝ていたみたいです」と私は、よだれを拭う。


「気にするな! それより、到着したぜ」


 おっ。どうやら、ゴンドラは辿り着いたようだ。 


「頑張って、六花を取ってくれよ!」


 世界樹を登って行くにあたって、何人ものゴンドラの番人さんにお世話になった。


 私が、黄色いワンピースを着ているからだろう。みんな、私がこれからΤιγριςと戦うことを知っている。

 

 既婚者エルフなら誰でも通る道。それが、Τιγριςとの戦い、そして、六花を得ること。


 見上げれば、世界樹の次の枝のところでは、目を閉じたくなるような閃光。そして、世界樹の枝が大きく揺れている。


 誰かが、戦っているのだろう。きっと、私と同じ独身のエルフが、Τιγριςと戦っているのだろう。情報では、セルグとタマルの息子アベルさんか、キムハムとナオミの娘オルパさんのどちらかが戦っているのだろう。


 ゴンドラに乗って、美味しい料理と、そして素敵な光景を見ながらの旅は終わりだ。


 これから、私は、Τιγριςと戦うことになる。


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