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世界樹と生きる  作者: 池田瑛
第1部 Δάφνη
52/73

51. 16歳 白馬の王子様

 セリムさんは、ここで私を殺す気でいる。この殺気は本物だ。これは、避けられない戦いだと私の本能が告げている。頭の中で意識をカチリと切り替える。狩人としての私へと。


 腰にある二本の剣に注意が必要。


 すっとセリムさんの右腕が振り払われた。


 私に向かって飛んできたのは、苦内(くない)だ。矢より遅い。簡単にかわすことができる。


 私は、苦内(くない)の飛ぶ方向を避けるように後ろに跳ぶ。飛びながら背中に背負っていた弓を持ち、矢筒から一本矢を取り出す。


 剣を持つ相手と戦ったことはない。いや、正確には、どこかで拾った剣を持っていたゴブリンを射殺したことはある。


 相手の剣が自分に届く前に、エルフは弓を射る。剣が近距離の武器だとしたら、弓矢は遠距離の武器だ。そして、エルフの戦い方は、相手を近づけさせる前に、倒すこと。


 初動でエルフ相手に距離を取られたセリムさんの負けだ。


 私は地面に着地し、弓を構える。セリムさんが剣を持ってこちらに走ってきても、その間に五矢は射ることができる。


 もちろん、一矢で終わらせる。


 全身を覆っている鎧の隙間……


 セリムさんの右目を打ち抜く……セリムさんが構えているのは何だろう?


 音叉のような……飛び道具? セリムさんは魔導具を持っているとアーサーが言っていた。本当の得物は、腰の剣ではなく、あの魔導具? きっと飛び道具。だけど、音速程度なら、発射されても、かわせる。その前に、射る——

 

 『エステルちゃん、ダメだ。避けろ!』


 アーサーの声が聞こえた—— セリムさんの右の人差し指が動くのが見えた。


 私はアーサーの声に従って、とっさに横へと転がる。


 ヒューーーーーーンという音が、私の近くを通り抜けていった。だけど、その前に、何かが起こった。

 私の左足の太ももに穴が空いている。何かで撃ち抜かれている。世界樹の葉が直ぐに傷を塞いでいく。


 火傷のような跡はない。


 それに、回復が遅い。世界樹の葉をたくさん、エアフルトで使ってしまったからだ。体に空いた傷穴を回復させるには心許ない量だ。


 私は、右脚だけで跳んで岩陰に隠れる。


 え?


 岩を突き抜けいった。いや……気付いたら岩に、握り拳ほどの大きさの穴が空いていた。


 のぞき穴でもできたかのように、その穴からは、セリムさんが見える。地面にまでその穴は続いている。

 貫通力が凄まじい。空間をえぐり取っているようだ。


 これは、岩を盾にしても無駄だ。


 あれ?


 左腕に力が入らない。左腕が、ブランブランしている。皮膚の皮で腕が繋がっているだけだった。


 ——撃ち抜かれていた——  


 止まっていてはダメだ。


 右手で左腕を押さえながら走る。相変わらず回復は遅い。身に纏っている世界樹の葉が全部なくなるような勢いで、葉が消えていく。


 あ……。体のバランスが突然崩れた。


 私は山肌を転がっていく。私の右脚の(くるぶし)から下が消えていた。血が止まってくれない。


 痛い……。逃げないと……。私は無意識に空を見上げる。そして気付く。


 ——ここは森じゃない——


 森の葉で、森の枝で、森の幹で、私の姿を隠すことができない。照準できないように隠れることができない……。


 痛い。血が流れすぎて頭がぼぉっとしてきた。


 でも、とりあえず何処かに逃げないと……。


 坑道? いや、たぶん駄目だ。逃げ道のない処に逃げ込むようなものだ。


 このまま私……。


『エステルちゃん〜掴まって、乗れ!!!!!!』


 私に向かって、白馬が走ってくる。


 そうだよね、ピンチのときは、白馬の王子様が助けに来てくれるって……私の王子様は誰だろう? キアランが来てくれたのかな?


 あれ? でも、誰も乗馬していないみたいだ……。なんだか体が寒くて、眠たくなってきちゃった……。


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