51. 16歳 白馬の王子様
セリムさんは、ここで私を殺す気でいる。この殺気は本物だ。これは、避けられない戦いだと私の本能が告げている。頭の中で意識をカチリと切り替える。狩人としての私へと。
腰にある二本の剣に注意が必要。
すっとセリムさんの右腕が振り払われた。
私に向かって飛んできたのは、苦内だ。矢より遅い。簡単にかわすことができる。
私は、苦内の飛ぶ方向を避けるように後ろに跳ぶ。飛びながら背中に背負っていた弓を持ち、矢筒から一本矢を取り出す。
剣を持つ相手と戦ったことはない。いや、正確には、どこかで拾った剣を持っていたゴブリンを射殺したことはある。
相手の剣が自分に届く前に、エルフは弓を射る。剣が近距離の武器だとしたら、弓矢は遠距離の武器だ。そして、エルフの戦い方は、相手を近づけさせる前に、倒すこと。
初動でエルフ相手に距離を取られたセリムさんの負けだ。
私は地面に着地し、弓を構える。セリムさんが剣を持ってこちらに走ってきても、その間に五矢は射ることができる。
もちろん、一矢で終わらせる。
全身を覆っている鎧の隙間……
セリムさんの右目を打ち抜く……セリムさんが構えているのは何だろう?
音叉のような……飛び道具? セリムさんは魔導具を持っているとアーサーが言っていた。本当の得物は、腰の剣ではなく、あの魔導具? きっと飛び道具。だけど、音速程度なら、発射されても、かわせる。その前に、射る——
『エステルちゃん、ダメだ。避けろ!』
アーサーの声が聞こえた—— セリムさんの右の人差し指が動くのが見えた。
私はアーサーの声に従って、とっさに横へと転がる。
ヒューーーーーーンという音が、私の近くを通り抜けていった。だけど、その前に、何かが起こった。
私の左足の太ももに穴が空いている。何かで撃ち抜かれている。世界樹の葉が直ぐに傷を塞いでいく。
火傷のような跡はない。
それに、回復が遅い。世界樹の葉をたくさん、エアフルトで使ってしまったからだ。体に空いた傷穴を回復させるには心許ない量だ。
私は、右脚だけで跳んで岩陰に隠れる。
え?
岩を突き抜けいった。いや……気付いたら岩に、握り拳ほどの大きさの穴が空いていた。
のぞき穴でもできたかのように、その穴からは、セリムさんが見える。地面にまでその穴は続いている。
貫通力が凄まじい。空間をえぐり取っているようだ。
これは、岩を盾にしても無駄だ。
あれ?
左腕に力が入らない。左腕が、ブランブランしている。皮膚の皮で腕が繋がっているだけだった。
——撃ち抜かれていた——
止まっていてはダメだ。
右手で左腕を押さえながら走る。相変わらず回復は遅い。身に纏っている世界樹の葉が全部なくなるような勢いで、葉が消えていく。
あ……。体のバランスが突然崩れた。
私は山肌を転がっていく。私の右脚の踝から下が消えていた。血が止まってくれない。
痛い……。逃げないと……。私は無意識に空を見上げる。そして気付く。
——ここは森じゃない——
森の葉で、森の枝で、森の幹で、私の姿を隠すことができない。照準できないように隠れることができない……。
痛い。血が流れすぎて頭がぼぉっとしてきた。
でも、とりあえず何処かに逃げないと……。
坑道? いや、たぶん駄目だ。逃げ道のない処に逃げ込むようなものだ。
このまま私……。
『エステルちゃん〜掴まって、乗れ!!!!!!』
私に向かって、白馬が走ってくる。
そうだよね、ピンチのときは、白馬の王子様が助けに来てくれるって……私の王子様は誰だろう? キアランが来てくれたのかな?
あれ? でも、誰も乗馬していないみたいだ……。なんだか体が寒くて、眠たくなってきちゃった……。




