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世界樹と生きる  作者: 池田瑛
第1部 Δάφνη
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14. 10歳 お父さんの職場訪問④ 姿を象るとそこに精霊が宿り言霊となるらしい

 泣きそうになった、そして聖霊術を使いたくないと駄々をこねる私に対して、父は優しく諭す。


「正しく使うためにも、言霊(ことだま)について教えるね」と父は言って、地面に落ちていた小枝を拾い、そして地面にその枝で絵をかき始めた。


 私が聖霊術を学ぶことを嫌がっていることを父は気にしていないようだ。自分の娘は、絶対に聖霊術を使えると確信しているのだろうか。


 もしくは、最初はエルフの子供はみな、最初は聖霊術を怖がるものなのだろうか。自転車に乗るのが最初恐いと思うようなものなのだろうか? 慣れるものなのだろうか?


「エステル。あの木をご覧。こんな形をしているよね?」

 

「え?」


 私は、父が地面に書いたモノを見て驚きの声を上げてしまった。


 父は、地面に漢字を書いていた。それも【木】という漢字だった。楷書ではなく、多少崩れていて、書道が上手な人が書いたような感じであるが、私はそれが【木】という漢字だと一目見て分かった。


何故父が、漢字を書いているのだろうか。


「細かいところは、違うけれど、似ているだろ? この部分が枝だよ、そして、こっちが大地に根を張っている根っこを現わしているんだ」


 あれ? 言霊の話だったよね? まるで、小学校の国語の授業みたいになっているぞ? あれ? 頭が混乱してきた。少なくとも、エルフの間で使われている言葉は、日本語などではない。音だけで考えたら、英語とかフランス語に近いような感じだ。


「イメージできたかな?」という問いに私は首を大きく縦に振る。だって、『木』という漢字は、小学生で習うしね。それに私は、英検は5級しか持っていないけど、漢字検定は2級を持っているのだ!


「エステルは飲み込みが速いね。それで、このようにあそこに生えている木をこうして象ったことになる。そうするとね、精霊はこの絵も木なのだと思って、この絵にも精霊が宿るんだ。そして、精霊が宿った絵の事を言霊と言うんだ」


「それって、この絵を本物の木だと精霊が勘違いするということ?」


「勘違いというか……だけど、そういう理解でも問題ないかな」


 『木』という漢字を、精霊は本物の樹木だと勘違いするのだとしたら……。何だか、花の絵を画いたらそれを本物の花だと勘違いして、蝶が蜜を吸いに集まるみたいな話だ。精霊って、おっちょこちょい? なんだか、締まりのない話になってきたような気がする。


「そして、切りたいときに使うのが、この絵だよ」と、父はまた地面に絵を画き始めた。


【切】という漢字を書くのだろうと思っていたら、私の予想とは違った。なんだろう、この漢字は……。


「これはね、斧を持っている姿の精霊が宿った言霊なんだ。斧を持って、何かを切るということだね」


 あぁ~。分かった。これは、伐採の『伐』という漢字だ。確かに、これも切るという意味があった。そうか、父は『伐』という字を書いたつもりなのか。楷書体で書いて欲しいなぁ。


「今から使うのは、この絵とこの絵の言霊だよ。言霊を使いたいときは、頭でイメージしながら、言霊を音で表現する。つまり、口に出すということだね。こっちの言霊を『Βαθυ』で、こっちが『Κι』だ。二つを合わせて、『ΒαθυΚι』と口に出せばいいんだよ。それが精霊術だ」


 『伐』という漢字の読み方が、『Βαθυ』……バツ? これって、ただの漢字の音読み? 『木』とか、そのままんま『Κι』って「キ」だよね? 何だか親近感が……。


「それじゃあ、エステル。あの木を斧で切ることを頭で想像しながら、『ΒαθυΚι』と唱えてごらん」と父は、一本の樫の木を指差す。

 

 いきなり実践! って、「伐木」ということか。「伐採」と同じ意味か。って、何だか私にもできる気がしてきた。


「『ΒαθυΚι』」


 あっ、出来た。樫の木が切断され倒れる。


 切株の年輪、凄いなぁ。って、あっけなく成功しました。精霊術、私にも使えるようです。って、私の心配は何だったんだ……。余裕じゃん。


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