第三話 屍
生きていると死んでいるの境って何でしょう?
生きているのに死んでいるようだとか死んでいるのに生きているみたいだとかいやはや日本語って難しい。
これは境が分からなくなった女性の物語
東京某所。
あまり目立たない様な場所にあるカフェ。
そこには一人の少年と一人の男がいた。
男の方はいかにもフリーターと言ったよれよれの服を着ており胡散臭げな眼鏡をかけている。
顔は整っているが服や雰囲気が全てを駄目にしている。
更に男の変なところは頭だ。
その男は頭に耳を生やしている
黄金色の狐の耳だ。それだけでこの男は人間じゃないことが分かる。
そしてもう一人の少年は黒いパーカーを着ておりTHE不審者といった風貌である。
目は鋭い目付きをしておりそれだけでキツい印象が手に取るように分かる。
しかしどことなく高貴な雰囲気が漂っている。
背中には細長い何かを背負っており部活帰りの高校生にも見える。
「おーい。不死っち。」
男が少年に声をかける。
不死。それが少年の名前か若しくはあだ名なのだろう。
言われた少年は眠そうに顔を上げ
「何の用だ。」
と男に声をかける。
「いやぁね。ネットで不死の情報について募集してみたら一件妙なダイレクトメールが来たんだよね。」
「お前何やってんだ。」
「えーっとね「最近変な化け物に襲われて困ってます。助けて下さい。」」
「無視かよ。でそれがどうしたんだよ。」
「聞いてみる価値はなくないかい?」
不死は少し頭に手をおいて考えた後
「まぁ確かに。少し話を聞いてみる価値はあるかでどうせここに来るように言ってるんだろ。」
「今日」
「は?」
「多分時間的にそろそろ来るんじゃないかな?」
噂をすればなんとやら軽い鐘の音を鳴らしながら扉が開く。
入ってきたのは長い黒髪を持った女性だった。
「すみません……ここが化け物の話を聞いてる相談所ですか?」
すると男は直ぐに立ち上がりにこやかな笑みでその女性に近づいて「はい。こちらがその相談所ですよ。どうぞこちらにお座りください。」
と言う。
その頭にあったはずの狐耳は何時のまにかなくなっている。
女性は少し頬を赤く染めながらも案内されるままに椅子に座った。
少年は溜め息をつきながらもその二人に近づいた。
すると女性はゆっくりと話始めた
「まず化け物に襲われ始めたのは春頃だったと思います。
その時期から時々記憶がなくなる事が多くなってきたんです。
その時間がだんだん短くなってきたので大丈夫だろうと思ったんですけど最近になって化け物を見ることがあるのです。
その化け物はよく言うゾンビみたいな奴で目が覚めると視界の隅に出てくるんです。
それも時間が経てばなくなると思ったらこの間私の知り合いがその化け物に襲われているのを見てしまったんです……
それで怖くなってきて……」
「その事を警察等には言ったのか?」
不死は女性にそう訊ねた
女性は不思議そうな顔をしながら男にこの少年は誰かと聞いている。
「あぁこいつはあなたの悩みを解決してくれるかもしれない奴だよ。
まぁ良いから質問に答えてやってよ。」
「は、はぁ。
えーっと警察には信用されないと思って言ってないよ。」
「だそうだよ。不死っちこれで大丈夫?」
それを聞いた不死は少し考えた後
「あぁ。すまない少し気になったからな。」
「それで解決していただけるんでしょうか……?」
そう女性が言うと男は大きく頷き「任せて下さい。我々が責任をもって解決にあたらせてもらいます。」
と堂々と言い放つ。
そうすると女性は安心したのか男によろしくお願いしますと言うと
店から出ていった。
「さて、どうしようか不死」
「いきなり真面目な声を出すんじゃない。
それにどうしようかってお前はなんもしないだろ……」
「そんな事ないよぉ。俺だってやるときはやるって。」
不死は溜め息をつくとカフェの扉に手をかける。
「おや?何処に行くんだい?」
「調査だよ調査。不死者に関係してるかもしれないからな……というわけで飯は自分で買って食え。んじゃ。」
そう言うと不死は店の外に出ていった。
夜の道を一人の女性が歩いている。
それはあのカフェに相談に来ていた女性だ。
傍らに買い物袋を持っている事から買い物から帰ってきたのだろう。
その女性の目の前にその女性が話していた化け物が4体現れた。
女性は絹を裂くような悲鳴をあげて座り込む。
どうやら腰が抜けてしまったようだ。
ジリジリと化け物達が近づいてくる。
後数cmで女性に触れるという距離で化け物が1体ぶっ飛んだ
残りの化け物達は何があったのかと辺りを見回している。
「なるほど……こう言うことか……」
「へ?君は……」
そこにはあのカフェにいた少年……不死がいた。
手にはあの袋から抜いたのだろう、太刀を持っている。
「ちょっとあんたは後ろに下がってろ」
そう言うと不死は太刀を振るう。
すると化け物達はなすすべもなくぼろぼろと崩れていく。
崩れたものはそもそもそこに存在して無かったかのように消えていく。
「大丈夫か?」
そう不死が訊ねる。すると女性は
「え、えぇ大丈夫よ。ありがとう。でも今のは一体……」
と戸惑いながら不死に問う。
そんな女性を見て不死は不敵に笑い、一枚の紙を女性に投げて渡した。
「これは?」
「化け物の正体が分かった。明日の午前0時にその紙に書いてある場所に来い。」
それだけ告げると不死は女性に有無を言わさぬ態度で去っていった。
そして、その紙に書いてある時間が迫る。
するとそこに女性が姿を現す。
そこは墓地だった。
その墓地に不死と狐耳の男がいた。
男は墓石の上に立ち煙草を吸っている。
罰当たり極まりない。
女性もそんな男を見て嫌悪感を露にしている。
そして不死は墓石にもたれ掛かっている。
そして女性に気づくとその方向を見た。
「来たか……」
「本当にここにくれば化け物の正体が分かるの?」
「あぁ。たが最初に言っておく。あんたにとってこの話は中々にショックな話だぞ。それでも良いなら話すが……」
そう言うと女性は少し顔をひきつらせながらも首を縦に振った。
「よし。それなら順をおって話していこう。まずこの化け物の正体から話そう。
そもそも何故いきなりあんたの目の前に現れて来たのかそれはその必要が無くなってきたからだ。
というより時間が無くなってきたんだ。
そしてその化け物は要は末端の端末のような物だ。
つまり本体がいる。それがあんただ。
あんたは今年の春にもう死んでるんだよ。」
そう言うと女性は少しヒステリック気味に叫ぶ。
「そんなのあり得ない!だって今私は生きているじゃない!」
「だったら何故会社に行ってないんだ?あんた位の年なら会社にも行っているだろう。
それが言えないならあんたの家は?年齢は?実家は何処にあるんだ?
あんたの名前はなんだ?」
そう不死に矢継ぎ早に質問されるとしばらく考えた後顔を青くする。
「答えられないだろ。
それこそが答えだ……
事の顛末はこうだあんたの体には元々不死者がいたんだ。
それが春の事故で目覚めた。
しかし目覚めた不死者は困った。
その事故では女性の体はズタズタになったらしいから、その不死者と体が別れたんだろう。
その体があんただ。
その不死は度々あんたの体を乗っ取ってその体を動かして仲間を増やした。
それが記憶がなくなる理由だ。
それが短くなってきたのはその手順に不死者が慣れて来たからだ。
しかしそんな時間も無くなってきた。
それもそうだ、魂と体が長らく離れていれば生命力がある体が勝る。
故に消えかけた、だから本気で体を取りに来た。
体を乗っとるのは離れていても出来るが体をとるのは近くにいないとだからな。」
女性の顔はどんどん青くなってくる。
「その不死者は【屍】一度だけ復活出来るという能力を持っている。
それにプラスして同じ属性を持つ仲間を大量に増やすという特性を持っている。
だが今あんたを殺せば全て終わ……」
その女性の体はボロボロになっていく。
その体を不死は切り裂く。
周りからどんどん同じ化け物が出てくる。
その数は
「ちっもう体を乗っ取られてたのか……。おい!」
「はいはい分かってるよ不死っち」
そこで狐耳の男が飛び上がる。
そこでゴニョゴニョと唱えている。
それが唱え終わると化け物達は全て一ヶ所に固められた。
周りには狐耳の色と同じ電気が散っている。
「ほら。不死っちこれなら一撃でしょ。」
「あぁ助かる。」
不死が持っている太刀を振るうとその化け物達は一気に消え去る。
「さて終わりだな……」
不死はもう何も無かったかのように振り返り帰ろうとする。
その後ろを男が駆け寄っていく。
二人がいたところには煙草の吸い殻と大量の灰が残っていた。
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