第一話 知
死とは何でしょう?
死とは知らないからこそ面白いのです。
何が起こるか分かる物語なんて読んでて面白くないでしょう?
これはそんな死を知ってしまった女の子の物語。
「♪~♪♪~」
私の名前は倉野理香子。歌が好きで将来は音楽系の仕事につきたいと思っている新高校一年生
「鼻歌何か歌っちゃって機嫌が良いね。どうしたのリカ?」
この子は友達の古川千里。私の小学校からの友達で、本が好きな少しおとなしめの子だ。
「いやー聞いてよ千里。ネットに出した歌ってみた動画で誉められちゃって。」
「そうなの!?良かったじゃんリカ!」
「ありがとう千里。」
そんな事を話しているといつのまにか学校の近くまで来ていた。
その時。
私の横をある人が通った。別に普通の黒いパーカーを来ている男の人だ。だがしかしその男の人が通った後私の背筋がゾワッとした。まるで魂そのものを素手で捕まれたみたいに……
「何してるのリカ?早く行こう?」
「う、うん。待ってよ千里~。」
「ただいま~」
あの後気が付くと放課後になっていた。楽しい時間はあっという間に過ぎるというのは本当らしい。
「お帰りなさい。理香子。」
家に帰るとお母さんがTVを見ていた。
「今日の午前9時●●公園で殺人事件が起きました。殺されたのは東京都在住の●● ●●さん(〇〇歳)犯人は●● ●●被疑者(〇〇歳)容疑を認めており、「正直誰でも良かった。一瞬女子高生を殺ろうと思ったが嫌な予感がしたので止めた。」と述べており……」
「いやー。通り魔何て怖いねー理香子。理香子?」
私はそのお母さんの言葉もTVの言葉も耳に入ってこなかった、TVに犯人として映し出されたのは今日の朝見かけた黒いパーカーの人だったからだ。
女子高生を殺ろうと思ったって私の事じゃない?
そう思うと突然怖くなってきてしまった。お母さんの声が遠くで聞こえる気がした。
り……り…こ……りかこ!理香子!理香子!
「はっ。」
「理香子?大丈夫!?」
「お…母さん?」
目を覚ますとそこは私の部屋だった。お母さんが心配そうに覗きこんでいる。
「いきなり倒れるから心配したんだよ。何かあったの?」
「ううん。大丈夫。」
そう言うとお母さんは調子悪いなら明日学校休みなさいよと言って部屋から出ていった。私はさっきの出来事は偶然だったと自分に言い聞かせ今日学校から出た宿題を始めた。
私は次の日学校を休んだ。昨日倒れたからとかではなく、普通に熱を出してしまったからだ。昨日倒れたのもこれに関係あるのかもしれない。しかし午後になると熱も一気に下がり、体調も回復した。私は気晴らしがてらに外に散歩をしに出た。
外は晴れていてポカポカと春の陽気だった。千里だったらもっと良い表現思いつくんだろうなと思った。私は町をブラブラと歩いて工事をしているところを通った。かなり高く建てているからもしかしたら商業系のビルが建つのかもしれない。その時私はまたあの魂を素手で捕まれたかのような感覚がして立ち止まった。すると目の前に上から鉄柱が何本も降ってきた。そのまま止まらないで進んでいたら貫かれて死んでいただろう。私は怖くなってその場から早足で逃げ出した。だがそのまま交差点に差し掛かるときまたあの感覚が今度は目の前の女の人から感じた。私はもしやと思って止まってみる。すると先程の女の人がトラックに引かれた。その体は一瞬の内に肉片へと姿を変えてしまった。
私は吐いてしまった。恐ろしかった。自分の事が怖くなった。多分これは、この感覚は死を知る力なんだと思う。
私はこの力があると分かってから色々な実験をしてみた。
まずは故意で死のうとしたときそれは働くのか。
近所にある廃ビルの屋上まで上って飛び降りようとしてみた。するとあの感覚が身体中を駆け巡った。
よってこれは死に反応していると分かった。
次にそれをどのような死に反応するのかの実験。これは本当に色々な死に反応した。ネットで言い合いをしようとしたら反応して、コンビニで万引きをしようとした時にも反応した。
これは多分私が思っている死に反応しているんだと思う。
更にこの能力が出てきてから身体能力が上がった。
そう思うとこれはとても便利な能力だ。
最初はこんな能力気味が悪いと思ったけどだんだん慣れてきた。人は直ぐに慣れる生物っていうけど
本当にその通りだと思う。
ほら今も。
目の前で車が壁に轟音をたてながらぶつかる。
中からは死の雰囲気はしない。
車から血が出てきているけれど大丈夫だろう。
「最近変わったよねリカ」
「えっそう?」
学校でのお昼休み。一緒にご飯を食べている千里からいきなりそんなことを言われた。
「うん。なんだか少し大人になったっていうかミステリアスになったとかそんな感じ。」
「そ、そうなのかなぁ?」
多分それはこの能力で色々な死に関わったからだと思う。
「大人の魅力ってやつじゃない?コクられるかもよ~。」
「えーそんなこと無いよ。」
私達がそんな話をしていると
「ちょっと良いかな?」
そうやって声をかけてきたのはクラスで人気の池谷君。
「どうしたの?池谷君?」
「ちょっとさ。」
そう言うと池谷君は私の耳に口を近づけてきて
「今日の放課後校舎裏に来てくれる?」
と言うと元の位置に戻って
「やっぱり。倉野さん髪にゴミついてたよ。」
「あ、ありがとう。」
「いえいえ。」
といった感じでどっかに歩いていってしまった。
隣を見ると千里がニヨニヨしている。
「ど、どうしたの?千里?」
「リカ。頑張ってきてね。」
と言うと自分の席に戻っていった。
私はその後どんな授業を受けたのか緊張で覚えてない。
そして直ぐに放課後がやって来た。
私は急いで校舎裏に行く。途中でコーラス部の先輩に今日は休みます。と言ったら千里からもう聞いていると言われた。心の中で千里にありがとうと言う。
校舎裏に着くともう池谷君が待っていた。
「ごめん。待たせちゃった?」
「大丈夫。今来たところだから。」
という定番の言い合いをした。
「それで何のよう?」
「あのね。」
そう言って池谷君が口を開く。
その時何時もの感覚が身体中を駆け巡る。
反射的に私は池谷君を抱えながら回避した。
後ろを見てみるとナイフを持ち血走った目をした私と同じくらいの年齢の女の子がこっちを見ていた。
「やっぱりだ。やっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱり。私が思った通りだ。ふぅ危ない。もう少しで私の池谷君がこの女に取られるところだった。大丈夫だよ大丈夫。池谷君安心して。池谷君の私が今この女を片付けて助けてあげるから。いやぁあんたが池谷君に声をかけられた時から分かってたけどやっぱりね。残念だけど池谷君は私のものなの。あんたみたいなバカな女が話して良いような人じゃ無いのよ。何時も思ってたんだよねぇ池谷君が向く方向に何度も入ってきて。もう何回殺そうと思ったのか覚えてないよ。簡単にまとめるとあんたは存在が邪魔だからさっさと死んでくれないかなぁ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
そう言ってその女の子は私の方にナイフを振り上げながら走ってきた。
「危ない!」
池谷君はそう叫ぶが回避したときに足を捻ったようで動けない。
私は体制を低くしてそのナイフをかわす。
女の子はいきなり目標物がいなくなったため戸惑う。
ナイフが空を切る。
その瞬間私は女の子の伸ばされた手をとって。一本背負いの要領で投げる。
女の子の手からナイフが落ちる。
私はそのナイフを拾って女の子の方を向く。
痛みで動けないみたいだ。
しかし「何で何で何で何で何で何で何で何で何で!」と呪詛のようにずっと繰り返している。
騒ぎを聞き付けたのかそれともこれを見た生徒に教えられたのか分からないけど先生がやって来た。
私と池谷君は事細かに今起こった事を話すと先生は真っ青な顔をして女の子を何処かに連れていった。
私達はその後色々な事情聴取みたいなものがあって
帰るのが夜になってしまった。私の隣には池谷君が歩いている。
「ごめんね。」
ふいに池谷君が喋る。
「どうして池谷君が謝るの?」
「だって本当は男の俺が守らないといけないのに君に守られているだけで。」
「そんなこと無い。」
「えっ。」
「池谷君がそこに居てくれたから私は安心できたんだよありがとう。」
これは本当の事だ。多分あれが一人の時だったら私は焦って何もできなかったと思う。
「そうかな。」
「それで」
「?」
「さっき呼び出して何を言おうとしてくれたの?」
「えーっとそれは……(勇気を出せ!勇気を出せ池谷 孝二!さっき倉野さんは勇気を出して俺を守ってくれたんだ俺もそれをならって……)」
小声で言っているが私は聴力も強化されてるみたいで全部聞こえてる。
「倉野さん。」
「何?」
「勇気のある倉野さんに比べれば俺は頼りないのかもしれない。だけどだけど俺は倉野さんの事が好きだ!俺と付き合ってくれ。」
「良いよ。」
「そ、そうだよなぁやっぱ駄目って良いの?!」
「うん。」
これも本当の気持ち。自分でそう判断できる人はそこまで勇気の無い人ではないしそれに優しいしだから
「これからよろしくね池谷君。」
「あぁよろしく倉野さん。」
池谷君は顔が涙でぐしゃぐしゃになってる。
可愛いなぁ。
次の日学校に行くと
「大丈夫?倉野さん?」
「昨日殺されそうになったって本当?」
「というか池谷君と付き合うことになったって本当?」
男子の群がってる方を見ると真ん中で池谷君がもみくちゃになっている。
「池谷君。」
そう言うと池谷君は男子の輪の中から飛び出してきた。
「何?倉野さ」
私は不意打ちで頬にキスをした。
女子と男子から歓声が上がる。
池谷君はポカンとしてたけど自分がされた事が分かるとみるみる顔が赤くなっていく。
「なっなっななななぁ!!」
「これからもよろしくね池谷君。」
皆の声の大きさが一気に大きくなる。
その後から色々な人と友達になったり池谷君とデートに行ったりと色々な事をした。ネットでの音楽の方もどんどん軌道に乗り始めた。
そんな忙しい日々を過ごしているある日久しぶりに千里と話した。その顔は最後に見たときよりやつれていた。更にその体からは死の雰囲気が何時もよりも強く感じられた。今までの経験上ここまで凄いとそれを回避することは出来ない。
「千里?大丈夫?」
「うん大丈夫だよリカ。それにしても凄いじゃん音楽!あんなに見てもらえるなんて!」
「うん私も嬉しい。」
そんなことを話してると鐘が鳴った。
「もうこんな時間か行かなくちゃ。」
「じゃあね。また今度。」
そう言うと千里は息を飲み、何かを堪えるように言う。
「うんまた今度。」
「ただいまぁー」
今家には誰もいない。
両親共々旅行に行っている。
すると私の携帯からメールの着信音のメロディーが流れてくる。
差出人を見てみると古川千里と書いてある。
何だろうとメールを読んでみる
「リカへ
今まで私と友達で居てくれて本当にありがとう。
今まで色々な事をしたね。でもごめんリカとの約束、リカが成功するまで友達でいるというのは守れそうに無いや。本当にごめん。後池谷君とはお幸せにね。そして
さよなら」
私は携帯と荷物をほっぽりだして学校まで走った。途中で何回か人とと当たりそうになったけどそんなのはお構いなしに走った。学校に着くと人混みが出来ている所がある。私はその人混みを掻き分けて前に出た。そこには血まみれで倒れている私の大切な大切な友人がいた。
私の叫びが学校中に響いた。
「昨日私達と同じ学年の古川千里さんが自殺した。何か理由を知っている奴は先生に話してくれ。よろしく頼むぞ」
私は昨日から放心状態だ。
「大丈夫?理香子?」
そう言ってくれるのは私の彼氏の孝二君。
私達は名前で呼ぶようになっていた。
「うん。大丈夫だよ孝二君。」
「あまり無茶しないでね。」
そう言うと孝二君は自分の席に戻っていった。
その日の休み時間。
私はトイレに来ていた。すると何か話し声が聞こえる
「ねぇ。これであの調子乗ってる女もしばらくは何も出来ないでしょ。」
「しかし頭良いよねぇあの女の周りにはいっぱい人がいるからその友達の古川から消しちゃうなんて。」
「こうやってどんどんあいつの周りから人をいなくさせてあいつの場所を無くしてやる。」
「今度は誰行こうか。」
「次はあいつの彼氏を私の物にしようかなぁ。」
私はそこに入っていく。
「何か楽しそうな話をしてるねぇ」
「お前は倉野!」
そこにいたのは私がこんなになる前にクラスの中心人物だった奴だ。
「な、聞かれてたのか!」
「お前らか?千里を虐めたのは。」
「何言ってるの?変なこと言うとお父さんに言いつけるよ。」
私はポケットからスイッチをいれていた録音機を取り出す。
「録ってあるよ。それでも?」
「くそっ!何であんたが皆に好かれてんだよ。」
「じゃああなたは自分が好かれるために千里を殺したの?」
「私が殺した訳ではない。あいつが勝手に死んだんだ!」
「黙れ」
「ッ!」
「それでも変わらない。貴様らの罪は変わらない。」
だんだんそいつらから死の雰囲気が出てきた。
「お前ら死なないように気を付けてね。」
みると私の顔を見てガチガチと歯を鳴らしている。
「ば、化け物」
そう言うと気絶してしまった。
私はそいつらの上に録音機を置いてトイレから出ていった。
「ただいまぁー」
私は家に帰ってきた。
あいつらは録音機がきっかけで退学処分にさせられた。
ざまぁない。
私は家でTVを見てゆったりしている。
するといきなり私からあの死の雰囲気が漂ってくる。その死の雰囲気はどんどん近付いてくる。
私は怖くなってきた。
一応私はバッグに包丁を入れて外に逃げた。
外はかなり暗くなってきた。
あれから何時間が経ったのだろうそれは分からない。
だがしかしあの雰囲気は消えない。それどころか前よりも酷くなってきてる。
逃げなくちゃ。逃げなくちゃ。でも何処に?何処に逃げたら大丈夫なの?
そうこうしているうちに目の前にそれは表れた。
それは一言で言うのな“死”だった。
一目で分かるこいつはヤバイ奴だと。
見た目は私と同じくらいかもうちょい年上な感じだ。
だがそんな感じだがいつの間にか死の雰囲気がしなくなった。安全になったというよりは感じなくさせてる。そんな感じだ。
そしてそいつは口を開く。
「貴様が倉野 理香子か?」
「そうだよ。」
そいつの声は低くくそれでいて響く声だった。
「ふむ。確かに死を知っているようだな。」
「どうしてそれを!」
「本人からの証言もとれたことだしさて『知』の不死者貴様は討伐対象だ。」
そう言うとそいつはいきなり襲ってきた。
私は咄嗟にバッグから包丁を取り出して応戦する。
そいつが降ってるのは大きな刀だった。
太刀と呼ばれる物なのかもしれない。
「ほぅ。意外と戦えるか。」
「これでもこの力を手に入れてから少し武術を勉強したからね。そっちこそ何者だ。」
「俺は貴様ら不死者を殺すものだ。」
不死者?何を言ってるのか分からない。
「不死者ってどういう事?この力は何なの?」
私は攻撃を避けたりしながら聞く。
「良いだろう。教えてやろう。貴様のその力は
“知”と呼ばれる物だ。死を知り、死を回避する。立派な不死者の力だ。不死者というものも説明してやろう。不死者とは666年毎に1体表れる。その一体は自分の他にランダムに665体生物を選んで不死者としての力を渡すことができる。その内の一体がお前だ。俺の仕事はその不死者の抹消。」
「何で?何で私がそれに?」
「ランダムだと伝えたはずだぞ。それに手を抜くのもそろそろ疲れた。一気に終わらせて貰う。」
そう言った途端死の雰囲気を一気に感じた。そして足や手から力が抜けていく。そして私の首と体は離れていく。
何で?何で何で何で何で?私は何も悪いことはしてない。まだ生きたい!なのになのにどうして!
「死にたくない。」
「運命だ。諦めな」
私の視界はそこでブラックアウトした。
その後女の子の体はどんどん灰になっていく。
少年はその様子をじっと見つめてる。
やがてその体が完全に灰になると少年は興味を失ったようにその場から去っていく。
「次のニュースです。東京都在住の倉野 理香子さん(15歳)が昨日から行方不明になっています。
現在も捜索が続けられており、家族や友人は「家出するなんてあり得ない。」と言っております。無事に帰ってくることをお祈りしています。それでは続いてはスポーツの……」
あるところに一人の少年がいました。
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その子は立派な不死者殺しになりました。
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ですがある日少年は不死者になってしまいました。
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彼は家を追い出されフリーの不死者殺しになりました。
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彼のことを聞くと人は口を揃えてこういいます。
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不死者になりながらも不死者殺しをするもの。
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不死の不死者殺しと……
次週第二話 師