勇者に託す
「うわあああ!来るなー!」
品評会に参加していた企業の社長の1人がパニックになって逃げようとした。
「バカ!少しは落ち着け!」
帝国兵が注意する間に1体の犬型機械が社長に向かって行った。
「光旋嵐」
犬はヒカリが剣を抜いた瞬間にバラバラになった。
「非戦闘員は壁際に集まってくれ。バラバラになってると守りづらいからな」
ロベリアが周りの人たちに指示を出した。
「孤立する兵を作るな!チームで撃退すれば消耗を抑えられるであります」
エリザが檄を飛ばすことで護衛の兵たちは奮い立った。これならこの場は大丈夫そうだな。
「この場だけはしのげるだろうが、問題は外だな。機械が市民に攻撃を加えていないとは思えん。おそらく残虐戦機は外から攻撃してるはずだから邪魔が入らないように手下を街に放っているだろう」
あの様子だとマザーと衛星をウィルスで攻撃するだけでは済まないだろうな。あいつに戦えない者に対する気遣いがあるとも思えない。
「イドルの予想通り被害出てるわね。それに残虐戦機の居場所もわかったわ」
サヤはMePhoneの画面を見せてきた。
「マザータワーに残虐戦機が上ってますね。他にも何人も写真を投稿しているから信憑性は高そうですが…。この残虐戦機は本物なんでしょうか?」
ジョーブは訝しげに画面を見た。
「確かに目立ち過ぎてるな。攻撃するにしても普通隠れてやらないか?」
正直ジョーブが言う通りこれが残虐戦機なのか定かじゃないな。実物も見てないのに判別出来るわけがないだろう。
「常識的に考えたらそうね。でもあいつの自己顕示欲は金田並みだから有り得なくはないわ。それにあたしたちを閉じ込めたから自分の所にたどり着ける者がいないと油断しているかもしれない。怯える人間たちを高い所から見下ろしたいと考える可能性はあるわ」
サヤはサラリと毒を吐いた。
「ふざけるな!あんなガラクタと一緒にするな!」
カネダは大剣で身を隠しながら吠えた。少しは口じゃなくて手を動かして欲しい。
「いずれにしてもここを何とか突破しないと…。このままじゃ帝都だけじゃなくて世界中が危険です」
ヒカリは簡単に機械の装甲を切り裂きながら言った。どうやら特効が有効なようだ。
「突破しようにも倒した側から補充が来る。ひとまず扉から出ることを考えよう」
「そうでありますな。どうやって開けたらいいでしょうか」
機械を捌きながらエリザが返した。
「ドーターでシステムに入れば開くかもしれないけど…。出来るだけ消耗は抑えたいのよね」
サヤはじっとMePhoneを見た。
「なら手っ取り早く破るか。彗星槍」
ロベリアはそう言って扉に槍を投げた。槍は光を纏い大穴を空けた。
「よし、これなら逃げられるぞ!」
社長の1人が歓声を上げた。
「いや、よく見ろ。穴がだんだん塞がっていくぞ」
護衛がいうように穴がゆっくり小さくなっている。自己修復出来るようだ。
「どの道帝都に出ても機械に狙われるだけだ。ここは帝都を救う組だけ脱出させるしかない」
そうなるとチーム分けが必要になるな。
「まずヒカリとサヤは確定だな。残虐戦機とウィルスは任せた」
おれはヒカリとサヤに指示を出した。
「で、でも」
ヒカリは不安そうな目でおれたちを見た。
「心配するな。おれたちはそこまでヤワじゃない」
おれはそう言いつつ電撃を浴びせた。
「…わかりました。ここの皆さんのことは任せます」
「こっちはサクッと倒してくるわ」
ヒカリとサヤは穴から出ていった。
「後はタワーから撃ち落とすためにロベリアは必要だとして…。雑魚退治とウィルス退治の時のサヤの護衛がいるな」
植物は少ないからエリザの方がいいかもしれない。でもここにチェリルを残して大丈夫か?
「心配ありませんわ。ここならまだ戦えますもの」
そう言ってチェリルが手を振った瞬間、床に落ちた皿のしたから葉っぱが出てきた。
「そうか。料理も攻撃に使えるのか」
「普通ならもったいなくて使いませんけどね。下に落ちたなら話は別ですわ」
そう言ってチェリルはスイカに彫られた竜を実体化させた。やっぱり使い勝手いいな。
「なら自分はヒカリ殿とサヤ殿について行くであります。誰かマザータワーへの道案内を頼めますか?」
エリザは周りを見回した。
「なら我が親衛隊を1人つける。…そうだな。そなたに任せる」
そう言って皇帝は1人の親衛隊に促した。
「はっ。必ずや期待に応えてみせます」
親衛隊はそう言ってエリザの所に向かった。
「行くなら早くしよう。穴が閉じかけている」
ロベリアはそう言いながら穴をくぐった。
「了解。行くであります!」
エリザは穴に駆けて行った。
「それでは行ってきます。ご武運を!」
親衛隊が通り抜けると同時に扉の穴が完全に塞がった。
金田が完全に蚊帳の外なのは仕様です。しばらく光と沙夜視点が中心になりそうです。