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構陣師  作者: ゲラート
第1章 サミュノエル動乱
9/185

「よくぞ来てくれた客人たちよ!今日だけは魔王軍の侵攻のことを忘れて宴を楽しもうぞ!」

王は国賓たちを前にとんでもない問題発言をした。

「いや、忘れちゃダメでしょ。侵攻されてる時に来たりしたらどうするのよ」

黒いドレスを着たサヤがひっそりと毒を吐いた。

「た、多分勇者の私たちのことを国に紹介するために来たんですよ。人々に希望を与えるのは必要なことです」

白いドレスを着たヒカリが必死でフォローした。

「でしょうね。まああたしはただのイレギュラーだからやらかしてもそんな問題じゃないだろうけど光は注意しておきなさい」

サヤは軽い調子で言った。 


「そんなわけないだろう。サヤ、君は対勇者召喚陣から逃れてこの国にたどり着いた最初の対勇者だ。君の不始末は後世まで伝わることになるんだぞ」

「はいはい。それにしてもエリザはともかくイドルまであたしたちの護衛につくとは思わなかったわ。あんたそういうの避けるタイプでしょうに」

サヤは探る目付きで見てきた。

「君たちはまだ魔法を使えないからな。1番の専門家のおれが駆り出されることになったんだよ」

「へー。あんたこのまま勇者パーティーになっちゃうんじゃないの?」

サヤはサラリと痛い所をついてきた。

「言うな。考えないようにしてたんだから」

「嫌なんですか?イドルさんがいたら心強いのですが」

ヒカリはおれを子犬のような目で見つめてきた。

「そんな目で見るな。結局決めるのは王だからおれにどうにか出来る問題じゃない」

「それならなおさら選ばれるでしょうな。イドル卿以上の魔法使いなど他におりませぬ」

エリザは自信を持って言い切った。


「それでは勇者を紹介しよう。勇者ヒカリ・シラミネ、対勇者サヤ・クロタニ、そして勇者ヒデオ・カネダだ!」

王の話がいつの間にか進んでいたようで勇者の紹介になった。

「話は後だ。行って来い」

おれはヒカリとサヤを王の前に転移させた。当然おれとエリザも後ろに転移している。

「おお!あれが勇者様か!何と可憐で愛らしいのだ」

「闇属性の対勇者…。どのような化け物かと思っていたが何と美しい」

「あの身のこなし、確かな武術の心得がありそうだな」

国賓たちは王の前に現れたヒカリとサヤを見て歓声を上げた。

「あ、ありがとうございます」

ヒカリはおずおずと周りに手を振った。

「はあ…。いきなり転移とか有り得なくない?」

サヤはブツブツ言いながらそっけなく手を振った。こういう反応には慣れているのかもしれない。


「ぐっ。二人だけ目立ちやがって…」

普通に王の前に歩いて行ったカネダは悔しそうな顔で2人を見ている。

『ねーマスター。そいつ転移させなくてよかったの?』

監視用に飛ばしていたデビルズアイのゼルフィナが念話を送ってきた。

『近くに誰もいないのに転移してる所が見られたら大騒ぎになるだろう。あからさまに監視されてることがわかっても気分が悪くなるだけだ』

まあそれでも飛び交ってるデビルズアイを目で追っているやつは何人かいる。そういう時はおれの契約紋を見えるように向けているから攻撃を仕掛けて来ることはない。召喚獣に手を出しておれを敵に回すリスクは侵したくはないはずだ。

『ホントに自分が関わらなくて済むようにする言い訳うまいね。まあいいけどさー』

ゼルフィナはそこで念話を切った。


「積もる話はそこまでにしてまずは乾杯をしよう。皆、手近な席にあるグラスを取ってくれ」

王から促されたので王の前のテーブルから手近なグラスを取った。

『乾杯!』

王が乾杯の音頭をとると全員乾杯した。

「これお酒ですよね?飲んじゃっていいんでしょうか?」

ヒカリは心配そうにグラスを見た。

「15歳以上なら飲んでも大丈夫だ。文献によるとJKの君たちは大丈夫なはずだ」

「どこの文献に書いてあったの?…少し後付けな設定な気はするけど、郷に従うことにしましょう」

サヤはためらわずにグラスの酒を飲み干した。

「後は各自自由にしていてくれたまえ。勇者や対勇者と話したければ何でも聞いてよいぞ!」

「勝手に決めてくれるわねあのデブ王。光、来る前に少しは食べた方がいいわよ」

サヤはいつの間にか取ってきた料理を食べながら言った。

「そうですね」

ヒカリも目にも止まらぬ速さで料理を取ってきて食べ始めた。

「とりあえず交代で行くか。エリザ、先に行っていいぞ」

おれは隣でよだれを流してるエリザに声をかけた。

「そうでありますか。ならお言葉に甘えるであります」

エリザは駆け足で料理を取りに行った。


「貴殿が勇者殿でござるな。それがしと手合わせ願えぬか?」

いきなりヤマトのキモノを着た大男がヒカリに話し掛けた。

「聞き捨てなりませぬな。先に戦うのは自分であります」

皿に山盛りで持ってきたエリザが宣言した。

「アホウ。この場でそのようなこと出来るか。済みませぬな。何分血の気が多いやつなので」

一緒にいた細身の男が頭を下げた。

「気にしないで下さい。うちにも似たのがおりますので」

おれはエリザを横目で見ながら答えた。

「貴殿もかなりの武人のようだ。是非手合わせ願いたい」

「ほう。胸が踊りますな」

エリザと大男が互いの剣とカタナに手をかけた。

「騎士団長が率先して宴で揉め事を起こそうとするな。手合わせならいずれヤマトに立ち寄った時にでもやればいいだろう」

おれはエリザの頭に手を置いて諫めた。

「…そうでありますね。この場は剣をおさめることにしましょう」

エリザはそう言って剣をフォークに持ち替えた。

「貴殿は勇者パーティーに選ばれるような騎士なのだな。ならばその時にするでござる」

大男は刀から手を離した。


「あなたたちはヤマトの人たちですよね?本当に異世界でいう日本みたいな国なんですね…」

ヒカリは目を輝かせながら言った。

「ニホン…。勇者の伝記に載っていましたな。対勇者様はともかく勇者様もニホンから来たのですか?」 

そういえばヤマトの2人も黒髪黒目だな。もしかして普通なら全員髪や目の色が同じなのか?

「私はドイツ人のハーフなので髪が白くて目も青いんです。…背はなぜか伸びませんけど」

混血というわけか。サミュノエルに色々な髪や目の色をした人たちがいるのも血が混ざってるからなのかもしれない。


「ニホンという国には強者はいるのでござるか?」

大男が興味深そうに聞いてきた。

「剣術家という意味ならいないことはないとは思うわ。ただ実際に剣で命のやり取りをするなんてことはない関係上殺気はあまりないから戦場慣れした人には物足りないかもしれないわね」

サヤが淡々とした口調で答えた。

「今は精神や肉体を鍛える意味合いが強いですからね。自衛隊の人たちは命のやり取りはしてますが武器が違い過ぎます」

「侍対自衛隊…。どこかで聞いたような話ね。この世界に銃ってあるの?」

サヤは少し考えながら言った。

「ありますよ。ほら」

エリザは武装空間からガトリングを出した。

「バカ。ここでそんな物取り出すな」

「むう。ならこっちにするであります」

エリザはガトリングを一瞬で二丁拳銃に換装した。

「その一瞬の換装…。貴殿があの『紅の武装姫』でござるか」

大男は目を丸くしながらエリザの二つ名を呟いた。

「見た感じオートマチックの45口径ね。銃弾とかあるの?」

「もちろんありますよ。今は色々な弾丸があるので状況によって換装するのが主な使い方であります」

エリザはそう言って武装空間から弾丸を取り出した。


「何か換装だけ異様に早くない?」

サヤがなかなか鋭い指摘をしてきた。

「重点的に錬度を上げておりますからね。常に武器を持ち歩いているのだからわざわざ新たな武器を出す必要もあまりありませんからね」

エリザは二丁拳銃を2丁のリボルバーに換装しながら言った。

「…エリザさんってどれくらい武器持ってるんですか?」

ヒカリはリボルバーを見ながら言った。

「数えたことはないですが多いのは確かであります。ちなみに全てイドル卿作かイドル卿が術を施した物でありますよ」

エリザは胸を張って答えた。

「出した所で銃とか使えるの?」

「武器の申し子のギフトがあるから一応使い方は完璧でありますよ。まあ剣以外の立ち回りは本職のトップには及ばないでしょうが」

エリザが客観的な自己分析をした。こう見えて案外戦闘脳はすごいからなかなか的確だ。


「ギフト?」

ヒカリは不思議そうな顔をした。異世界にはない概念なのかもしれない。

「先天的に備わっている特殊な才能のことだ。後から身につけた技能はスキルと呼ばれている。最も鑑定したら表示される程度の物で区分は曖昧だがな」

「いよいよゲームじみてきたわね。ヒカリとあたしのはどうなってるの?」

サヤが聞いてきたのでおれは鑑定魔法陣を発動させた。

「ヒカリはギフトが天眼、超反応、戦闘反射、気配察知、神速、天性のバネ、救済の天秤、災厄招来。スキルは剣聖、明鏡止水の極意、合気道、カンプフリンゲン、料理、体操、パルクール、トランポリン、フィギュアスケート。サヤはギフトが鷹の目、地獄耳、百合園の女王、不動の体幹、弱点看破、虚実の魔眼、悪魔の頭脳。スキルは剛弓、読唇術、話術、バイオリン。…ヒカリのスキルはよくわからんな」

「この世界にはないからかもしれませんね。スキルは大体出来ることだからわかりますがギフトはやっぱりよくわかりません」

ヒカリはいまいちピンと来ないという顔をしている。


「特に天眼と救済の天秤がわかりません。災厄招来は周りで悪いことがよく起きてたので実感はありますが」

「天眼は動体視力が高く、動きから次の動きが予測出来るギフトらしい。救済の天秤は守るべき物が多い程力が上がると鑑定には書いてあるな」

かなり勇者向きのギフトだな。少し精神的な物のような気もするが。

「虚実の魔眼は?」

「真実を見抜き相手に幻術を見せるようだ。接近戦では役に立ちそうだな」

「完全にファンタジーじゃない。でも本当にギフトが先天的な物なら地球で変なことになったりしないのはなぜかしら?」

サヤはよくわからないという顔をした。


「歴代の勇者様方もサヤ様と同じ疑問を持っていたようですわね。未だに答えは出ずじまいですわ」

チェリルが話に入って来た。後ろにはセインティアの聖女がいる。

「無限神教の巫女姫様に光神教の聖女様…。三大神教のトップ2人が揃うと壮観ですね」

存在を忘れかけてた細身の男が感嘆の声を上げた。

「あなたが闇の対勇者ですね。もっと角や牙や翼が生えてるのかと思ってました」

聖女はサヤを見ていきなり天然失礼発言をした。

「どんな化け物よ。あんたの闇属性のイメージどうなってるの」

サヤは呆れたような目で聖女を見た。

「セインティアは光の神ジャスティを信仰する光神教の総本山ですわ。闇属性への嫌悪感はわたくしたちより強いんですの」

チェリルは淡々とした口調で説明した。

「闇属性は前世で罪を犯してジャスティ様から見限られた存在です。我々からしたら受け入れられない異端というわけです」

聖女はチェリルよりはある胸を張って言い切った。


「それってあたしを敵に回す気があるってこと?」

サヤは聖女に対して軽く殺気を放った。

「ピィッ?!ま、まさか。いくら異端とは言えジャスティ様が選んだ勇者のご友人なのだから現世で悪事をなさなければ手を出してはいけないというのがセインティアの総意です。勇者様の魔王討伐に支障が出ることなどもってのほかでしょう」

「結局異端認定なんじゃない。まあ危害を加えないなら信教の自由だからなにも言わないわ」

サヤは殺気を引っ込めて微笑んだ。

「ただ光神教の過激派は対勇者の存在を快く思っておりません。私や教皇様も暴走しないように手は打ってますが十分用心して下さいませ」

聖女は声を潜めて言った。

「忠告感謝します。向かってきたら何をされても気を悪くしないで下さいね」

「…絶対にそんなことにならないように力を尽くします」

聖女は拳を握りしめて言った。

「そう気に病まなくていいですわリリエンヌ様。むしろ不穏分子が勝手に消えてくれるのだから喜んでもよろしいんですのよ」

チェリルはサラリと外道なことを言った。

「ふぇえ?!そんな恐ろしい考え出来ないですよ!」

だろうな。チェリルのしたたかさは生まれついてのものだ。聖女リリエンヌの方が年上とはいえ同じレベルを求めるのは酷というものだろう。


「所でギフトについてだけど本当に何もわかってないの?」

サヤが聖女を冷めた目で見ながら言った。

「今のところ異世界からアノゼルへと転移した時にギフトが付与されるという説が最も有力ですわ。実際勇者様方もあまりにも自分に都合がよすぎると思っていたそうですわね」

チェリルは首をひねりながら言った。

「可能性としては有り得るわね。偶然選んだ物全てに適性があるなんてあまりにも都合がよすぎるもの」

サヤはなかなか興味深いことを言った。

「なるほど。ギフトが見えないと向いてない道を選ぶこともあるのか。この世界の人間は皆ギフトを活かすか欠点を補うスキルを学び、将来もギフトに合った道を選択することが多い。ある意味で異世界の方が自由なのかもしれんな」

「向いてる物がわかるのも困り物なのね。それでもどんなに努力しても大成しなかった人からしたら羨ましいのかもね。結局は無い物ねだりだろうけど」

サヤは他人事のような感じで言った。おそらく持っている側の人間だからだろう。


「ふっ。ギフトやスキルなど魔導機にとっては関係ない話だ。どのような機能でもつけられるのでね」

魔導機を引き連れた初老の男が話に入って来た。彼はジョーブ・リンゴー。仕事上では深い付き合いだ。

「これロボットよね。この世界ってこんなに科学が発達してたの?」

サヤは魔導機を興味深そうに見つめながら言った。

「これは魔導機と言って魔石によって動く兵器です。ホムンクルスやオートマタと違い錬金術師や魔法使いのクセが術式に出ないので整備が容易で、ゴーレムよりも頑丈で強い。まさにマシニクルでも最高峰の魔導科学を誇るこのジョーブ・リンゴーのペア社とイドル殿の魔導回路の技術の結晶と言った所でしょうか」

「…そこは普通にアップルでよくない?」

サヤは小声で何かを呟いた。

「どうやら我が社の魔導機は異世界人から見ても遜色のない物のようですね。まさにこの魔導機は異世界のロボットをモデルにしているんです」 

ジョーブは誇らしげに胸を張った。

「異世界のロボットを見たことがあるんですか?」

ヒカリが信じられないという顔をした。

「マシニクルは次元漂流物がよく流れ着きますが実物はないですね。ただ書物で見た物を参考にしただけです」

「なるほど。道理で機動戦士にでも出てきそうなデザインだと思ったわ」

サヤは魔導機を眺めながら言った。


「マアソレモ全テマザーノ解析能力ガアッテノコトデスケドネ」

ジョーブに連れられていた魔導機が言葉を発した。

「あら、会話出来るのね。所でマザーって何?」

「私ニ意思ヲ与エテクレタ偉大ナル存在デス。思考モ感情モ全テマザーヲ通シテ処理サレテイマス」

魔導機は淡々とした口調で答えた。

「メインサーバーみたいな物ってわけね。それにしても機械が意思だの感情を口にするとかまさにSFね。マザーが暴走とかしたら大変なことになりそうね」

サヤはサラリととんでもないことを言った。

「ハハハ。有り得ませんよ。マザーは機械の神マキナ様が我々に下さった言うなれば神の分身です。当然セキュリティも万全です。魔王軍の七魔将残虐戦機ヴァイラスと言えどもマザーに侵入は不可能でしょう」


「キラーマシンの親玉がいる時点ですごいフラグが立ってるわね。…ネットワークがあるならこれも使えたりするのかしら?」

サヤは懐からスマホとやらを取り出した。

「これは…携帯電話ですかな?」

「その次世代機みたいな物ね。通話やメールよりも検索機能が使いやすいし、アプリをインストールすることで機能を拡張出来るのよ」

サヤの言葉にジョーブの目が輝いた。

「素晴らしい!マザーにはこの世界の膨大なデータが蓄積されています。そのデータもっと効率的に利用出来ないかと常々思っておりました。これなら念話のせいで庶民にしかいまいち広まっていない携帯電話のノウハウも活かせますし、アプリというのは魔導機の機能拡張にも応用が効きそうです。用途ごとにタイプを分けて作っていましたがこれなら同じ素体で利用者がカスタマイズするという方式も取れるでしょう。開発者としても商売人としてもこれほど魅力的な物はありません。少しお借りいただけませんか」

「うーん。正直あまり気が進まないわね。元の世界に戻った時のことを考えるとデータが消えるのも他人に見られるのも嫌なんだけど」

サヤは珍しく躊躇した。

「なら複製しよう。コピー」

複製魔法陣を唱えると全く見た目のスマホが出来た。

「わあ。全く同じスマホが出てきました!」

ヒカリは感嘆の声を上げた。

「…起動は問題ないわね。コピーした方にはあたしのデータはないし、元の方のデータにも問題なし。これなら持って行っていいわよ」

サヤはコピーした方をジョーブに差し出した。

「ありがとうございます!帰ったらさっそくマザーに解析してもらわないといけませんな」

ジョーブは子どものようにはしゃいでいる。年を取っても少年の心を忘れないということなのかもしれない。


「かなり儲かりそうな商談がまとまったやんけ。まさに勇者さまさまやな」

金髪にヒョウのような黒いブチがついた髪型の女が話に入ってきた。彼女はチカゲ・アークウィンド。アークウィンド商会の会長で1番仕事上の付き合いが深い人物だ。

「旅立つ前に仕上げないといけない仕事が増えましたね。課長」

おれの秘書のルーシーもメガネを光らせて話に入ってきた。

「これはこれはチカゲさん。ご助力いただけるのですか」

「当たり前やろ。こないおもろい話よそに持ってかれてたまるかいな。ジョーブはんが勇者に近づいたさかい見とってよかったでホンマ」

チカゲはそのままヒカリとサヤを放ってジョーブと商談を始めた。本当に商魂たくましい女だ。

「魔法陣課の全力を尽くさないといけませんね。勇者様たちと旅立つまでのスケジュール管理はするので頑張りましょう」

ルーシーは懐から手帳を取り出して宣言した。

「何でみんなおれが選ばれるの前提なんだ。魔法使いなら他にいるだろう」


「そんなの当然じゃん。お兄ちゃんほど頭がよくて魔法陣を書くのがうまい魔法使いいないよ」

「うんうん。お姉ちゃんなんて火力しかないもん」

妹のレイティスと姉さんが割り込んできた。

「おまけにフォルビドゥン指定で連携もしやすい。選ぶなという方が無理だ」

ロベリアも話に入ってきた。隣にはウィザドリカ王太子妃でロベリアの姉上のディアナ様もいる。

「私もウィザドリカに嫁いで最初の魔術対抗戦で拝見しましたが凄まじかったです。妹の思い人だけのことはありますね」

ディアナ様は微笑みながら言った。

「当然です。我が未来の夫ですから」

ロベリアは誇らしげに答えた。

「正妻はロベリア様に譲りますがわたくしも婚約者ですが」

「自分もそうであります」

チェリルとエリザも話に割って入ってきた。

「一夫多妻なんですか…。今の日本人の感覚としては理解出来ませんね」

ヒカリは複雑な顔でおれたちの方を見た。

「異世界では一夫多妻制ではないのか?」

「あまり一般的ではないわ。そういう国もあるにはあるけどね」

こちらの常識がそのまま当てはまるわけではない。わかってはいたがそこまで違うと戸惑うな。


「それにしてもあんた妹いたのね。チェリルにお兄様とか呼ばせてるからいないと思ってたわ」

サヤはおれをジト目で見ながら言った。

「人聞きの悪いことを言うな。チェリルが勝手に呼んでるだけだ」

「だってお兄様はお兄様ですもの。小さな時から呼んでるので今更変えられませんわ」

チェリルはそう言ってニッコリ笑った。

「今だって色々小さいくせに」

レイティスがボソリと呟いた。

「あら、そちらこそないじゃありませんの」

「あるもん!レイの方がちょっと年上だから大きいはずだよ!」

レイティスはチェリルに迫った。

「ケンカはやめろ。レイティス、少しは年上の余裕を見せろ。チェリルも巫女姫なら子どもが言うことくらい受け流せ」

おれは2人の額を押さえて引き離した。

「だってこいつがお兄ちゃんの妹気取りなのが悪いんだよ。お兄ちゃんをレイだけのお兄ちゃんなのに」

「ふっ。血が繋がっていない分わたくしの方が有利ですわ」

何が有利なんだ。子どものケンカはよくわからん。

「はいはい。2人ともケンカしないの。でないとお灸を添えるよ」

姉さんは指に火を灯して宣言した。

「け、ケンカなんかしてませんわ。ねえレイティス様」

「う、うん。レイたち仲良しだよ」

レイティスとチェリルは思いきり力を入れて握手した。  

「うんうん。2人ともお姉ちゃんの妹なんだから仲良くしないとね」

姉さんは満足そうに頷いた。


「なかなかぶっ飛んだ家族ね。所で魔術対抗戦があるってことはウィザドリカって魔法が発達してるの?」 

「はい。最もここ最近はサミュノエルが独占してるのでウィザドリカ王太子妃としては喜んでいいのか嘆いていいのかわからないです」

ディアナ様はそう言って溜め息を吐いた。

「しかもお姉ちゃんが殿堂入りした次の年にイドくんがフォルビドゥン指定だしね。今年代表のレイちゃんがフォルビドゥン指定になったらマギスニカ家全員殿堂入りだよ」

姉さんはおれに抱きつきながら言った。

「うん。レイ絶対フォルビドゥン指定になるよ」

あれ目指してなる物じゃないぞ。まあレイティスならほぼ間違いないだろうが。

「さっきから言ってるフォルビドゥン指定って何なんですか?」 

「通常はミアーラさんのように3連続優勝しないと殿堂入りになりません。ですがあまりにも圧倒的な実力で対戦した相手に強いトラウマを植え付けたり、殿堂入りするまでの年の対抗戦が完全に消化試合になりかねない魔法使いもいます。そんな魔法使いを殿堂入りさせて次の大会に影響が出ないようにするのがフォルビドゥン指定殿堂入りです」

ヒカリの質問にディアナ様が淡々とした口調で答えた。

「なるほど。出禁スケコマシっていうのはあながち間違ってないわけね」

サヤは小さな声で呟いた。


「ホンマええ商談出来たわ。…あ、勇者はんに対勇者はん。ウチチカゲ・アークウィンド言います。よかったら旅の資金援助と提携店舗や支店で出血大サービスするさかいうちらの広告塔になってくれへんか?絶対損はさせへんで」

ジョーブとの話を終えたチカゲがあいさつもそこそこに取引を持ちかけてきた。

「妥当な交換条件ね。そういうことなら喜んで協力するわ」

サヤは即答した。まあ断る必要がないから当然だろうな。

「ちょっと恥ずかしいですけど頑張ります…」

ヒカリは少し顔を赤らめて拳を握った。

「まいどおおきに!ホンマ勇者が話通じる相手で助かったわ」

チカゲは2人とガッチリと握手をした。


「それにしてもあんたの大阪弁って翻訳魔法の誤作動なの?」

サヤは不思議そうな顔でチカゲを見た。

「オオサカ?…ああ、確かニホンの西の地域やったな。多分ウチの祖先がナニワ出身でナニワの訛りがあるからやないか?ナニワもヤマトで天下の台所呼ばれとるんや。文化が似とるから自然と言葉も似たような物になったんやと思うで」

「なるほど。理屈としては納得できますね」

実際の所は確かめようはないがな。仮に出来たとしてもおれの領分ではない。


「それにしても今の魔王はアホ過ぎやわ。人間だけやのうて獣人や水中人に竜人、エルフやドワーフまで敵に回しとるんやで。そないに国交断絶しとったら当然貿易も滞る。魔界は単独で資源や軍資金を捻出出来る場所ちゃうんやから取引相手くらい残さんとあかんやろ」

チカゲは吐き捨てるように言った。魔界との取引停止してイラついてるから無理もないかもしれない。

「そういう種族もいるんですね。会って話を聞きたいです」

「あんたらの異世界には人間しかおらんのやったな。お、ちょうどええ。おーい、パンテ。ちょっとこっち来いや」

チカゲは遠くから目を光らせている黒ヒョウの獣人の男を手招きした。

「何だチカゲ殿」

「ちょっと勇者はんと話してくれへんか。獣人のことを知りたいんそうや」

チカゲはパンテに笑いかけながら言った。

「雇い主の頼みとあらば仕方ない。何でも聞いて下され」

パンテは無表情で言った。


「かなり毛深いわね直に獣耳としっぽがあるのね。ちょっと触ってみてもいい?」

サヤが最初から飛ばしてきた。

「ちょっとサヤちゃん。そういうの失礼でしょう」

そういうヒカリも耳としっぽを見ている。本当は触りたいんだろう。

「かまいませんよ。どうぞ」

パンテは身を屈めた。サヤはともかくヒカリは小さいからな。

「では遠慮なく」

サヤはためらいなくパンテのしっぽに手を伸ばした。

「ではわたしも」

ヒカリも恐る恐る耳に手を伸ばした。

「わあ。すごくモフモフしてます」  

「本当に黒ヒョウみたいね。わっ、肉球まであるのね」

サヤは今度は手を触っている本当にやりたい放題だな。   


「気を悪くしないで欲しいんだけど獣人と魔物って何が違うの?あたし魔物見たことないからいまいち違いわからないのよね」

サヤがストレートで疑問に切り込んできた。

「難しい質問だな。この国でも七魔将の獣王が獣族の魔物を率いて隣国のノルマルと交戦してることで獣人に対して悪感情を抱いている者も少なくない。境界線が曖昧なのは事実だ」

「高位の獣族ほど獣人に似てくる。我らは臭いや気で判断出来るが判別法を持たない多種族からしたら脅威なのだろう」

パンテは複雑そうな顔をする。あまり気分がいい物ではないだろうな。

「まあとりあえず契約して使役出来るんが魔物、出来ひんのが獣人でええんやないか?」

チカゲは軽い口調で言った。

「それで流されるのは獣人としての矜持に関わるのだが…」

パンテは不機嫌そうな顔をして呟いた。


それから他国から招かれた客人と話したり、多種族と交流している間に宴が終わった。

「結局あまり食べられなかったわね。話すのヒカリだけでよかったじゃない」

サヤは不満そうに呟いた。

「確かにそうですね。ですが守るべき人たちのことを知れた。それだけでも大きな収穫がありました」

ヒカリは満足そうに微笑んだ。

「相変わらず真面目ね。所で金田はどこ?いつの間にかいなくなったみたいだけど」

サヤは不思議そうな顔をした。

「さあな。どこかで拗ねてるんじゃないか?」

おれは軽く返しながらゼルフィナとヨーソロが送ってくる情報に神経を研ぎ澄ませた。


ーー


「お願いです勇者様。どうか我々の助けになって下さい!」

月の光が差し込む中庭でヴィレッタがカネダに頭を下げた。

「わかった。ぼくにまかせてくれ。必ず君の敵を倒してみせるよ!ぼくこそが真の勇者だからね」

カネダはそう言って胸を叩いた。

「ありがとうございます。真の勇者様」

ヴィレッタは扇で口元を隠しながらカネダに感謝の言葉を述べた。

適当に設定ぶちこんだので長くなりました。とりあえず設定がわからなくなったら読み返していただけたら幸いです。

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