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構陣師  作者: ゲラート
第1章 サミュノエル動乱
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武器選び

「ここが武器庫です。好きに武器を選んでいいそうです」

メイドはそう言って手を武器庫に向けた。

「選びたい武器が決まってるなら言って下さい。何がどこにあるかは大体把握しておりますので」

なかなか有能なメイドね。勇者の案内役に指名されるなら当然なのかしら。

「おれが術式を見るから決める前に持ってきてくれ。希望があれば強化や弱点をなくすことくらいはしてもいいぞ」

イドルがさらりとすごいことを言った。

「ふん。そんなの必要ない。ぼくはすごい武器に選ばれるに決まってるからな!」

選ばれるねえ。まあある種間違ってはないかもしれないわね。

「それはいい武器を選べてから言うんだな。じゃあ開けるぞ」

イドルはそう言って武器庫の扉を開け放った。


「わあ。すごく広いですね」

光は武器庫を見て感嘆の声を上げた。

「武器は種類毎にまとめられております。使う武器が決まっているなら案内いたします」

メイドは深々と頭を下げた。

「あたしは弓よ」

「弓ですね。それならあそこにございます。矢も色々ありますので合わせて選んではいかがでしょうか」

最初から戦術の幅が広がりそうね。よっぽど変な効果じゃなければ矢は多い方がいいわ。

「私は日本刀…ヤマトの刀を見てみたいのですがあるでしょうか?」

「ヤマトの武器ですか…。それならあちらですね」

メイドは右の方を指し示した。

「ありがとうございます。選んで来ますね」

光は早足で駆けていった。

「ぼくは剣にするよ。勇者といえば剣だしな」

「剣ですね。こちらです」

メイドは正面を指し示した。

「ふっ。見ていろ。すごい武器を手に入れてやるからな」

金田は偉そうに宣言して正面に向かっていった。

「イドル。並行して矢もみたいから着いて来てくれる?光は割と時間かかるでしょうし」

あたしはイドルに話しかけた。

「わかった」

イドルはあたしの隣に立って歩いた。


「まず第一に耐久性よね。フルパワーで壊れてたら話にならないわ」

あたしが近くの弓を徐々に引っ張ると弓が軋み始めた。

「やっぱり並の弓じゃダメみたいね。…これなんかどうかしら」

今度は長くて黒い弓を試してみた。 

「おー。強いわねこの弓」

弦を思いっきり引っ張っても弓はびくともしなかった。離してみると風切り音が武器庫に響いた。

「いいわねこれ。どんな術式が刻まれてるの?」

あたしは黒い弓をイドルに見せた。

「認識阻害、気配遮断、矢毒付加、闇魔力の浸透…。おそらく魔弓と呼ばれた伝説の四天王を倒した時に持ち帰ったという戦利品だろう。まさか実物を拝むことになるとはな」

かつての四天王の遺産…。なるほど。禍々しい気配がするのも道理ね。

「ねえ。これ呪いとかある?」

「…闇属性でないと使いこなせないだけで特に問題はないようだ。かなりの剛弓だが君にはちょうどいいだろう」

何だか馬鹿力のイメージがついてるわね。金田をぶっ飛ばした光景を見たから無理もないでしょうけど。

「ならこれにするわ。いわくつきなのもポイント高いしね」

「普通なら避けないか?まあサヤの自由だから別にいいが」

イドルは苦笑いを浮かべて言った。


「後は矢ね。どんな矢があるかしら?」

イドルは矢を1本ずつ確かめた。

「術式はないがこれは威力が高いな。後は分裂、発火、凍結、爆発、麻痺あたりが使えそうだぞ」

イドルはめぼしい物を選び取った。

「あたしって闇属性よね。発火とか凍結とか他属性に組み込まれてそうなの使えるの?」

「術式による発動だから問題ない。まあ元々属性に含まれている特性だからその属性持ちは使わないがな」

属性を持ってなくてもそれっぽい魔法は使えるんだ。この世界の魔法ってそういう物なのね。

「つまり複数属性持ちにはメリットはあまりないってこと?」

「そうでもない。属性魔法陣の方が術式で性質を足すより遥かに単純だからな。だから普通魔法使い同士の戦いでは属性が多い方が掛け合わせがしやすいから有利になる。魔法陣を早く書ければその分早く魔法を発動出来るしな」

なるほど。手間をかけずに色々出来る方が強いってわけね。


「チェリルが術式で様々な植物を作れるのも同じ理由?」

「そういうことだ。所でチェリルの出した花のことだが…」

イドルは少し言葉を濁した。

「チェリルの花?花自体は貴族派の話をしてる時に無意識で出してたと考えればそこまでおかしくなかったわよ。あくまであたしが知ってる花言葉ならの話だけれど」

実際あの時出た花の花言葉はそこまでおかしくない。オトギリソウには恨みや敵意、黄色いバラには嫉妬という花言葉がある。貴族派にそういう負の感情を抱いてても変な話ではないわ。

「今度チェリルと話す時はカマかけたことを謝らないといけないわね。所でこの国のデータを知りたい時はどこで許可取ればいはいの?」

「資料室の閲覧許可を取れば大丈夫なはずだ。対勇者も国賓待遇だから許可は下りるだろう」

イドルは何か言いたげな目であたしを見た。

「ただのデータ収集よ。どう動くかはデータ次第よ」

「そうか。データをうまく分析してくれることを期待してるよ」

イドルは溜め息を吐いてまた矢を選別し出した。


ーーー


「次はこの刀ですね」

手に取った刀の鍔を右手で弾き、柄を握り締める。左手で鞘を持ち全身の力を抜き精神を集中しーーー。

「はあっ!」

ーーー刃を鞘から抜き放ち、軽く払ってから納刀する。しばらくするとメイドさんが持ってきてくれた巻藁の薄切りが1枚床に落ちました。

「やっぱり何かしっくり来ませんね…」

「そうなのですか?私には見事に切れているように見えますが」

メイドさんは切れた巻藁を重ねながら誉めてくれました。


「確かに切れ味はありますがどうも強度と靱性に難があるんですよね。白峰流は受け流しや返し技が主体ですから切れ味だけでなく耐久性が必要なんです」

まあ一応他の斬り合い主体の流派と違いぶつかり合わなくてもいいから先手を取り続ければスピードで圧倒は出来るんでしょうけどね。スピードだけじゃ通用しない敵の存在を考えると使える手札は多いに越したことはないです。

「そういう質はあまり期待できないかもしれませんね。ここにあるのはほとんどサミュノエル製か量産品のはずですから。ヤマトの秘術と呼ばれているカタナの技術の粋を極めた名刀の類などがあるかは怪しいです」

この世界でもヤマト特有の物というわけですね。鎧が西洋の物だから予想はしてましたがここで満足がいく物には出会えないかもしれません。

「一応美術館や宝物庫に名刀と呼ばれている物があります。勇者の権限があれば使用可能かと」

メイドさんが真顔でとんでもない提案をしました。

「…まずはここにある物を試してからですね。後のことはそれから判断します」

「そうですか。よい巡り合わせがあるといいですね」

メイドさんの励ましを受けて私は刀選びに戻ることにしました。


それから何振りか試してもしっくり来る物は見つかりませんでした。

「うわ。ずいぶん試し切りしたのね。何枚あるのよこの薄切り」

沙夜ちゃんは薄切りを拾い上げて言いました。

「難航しているようだな。やはりサミュノエル製のカタナがほとんどだから質はあまり期待出来ないか。さすがにヤマトの秘術の再現は厳しかったようだ」

イドルさんは私が試した刀を見てメイドさんと同じことを言いました。

「これでは本当に展示してある物を持ち出すしかないかもしれませんね」

メイドさんは先程の提案を念押ししてきました。

「そういうの折れたらどれだけ弁償が大変そうね。あっ、勇者の活躍の証っていう付加価値で相殺すればいいのか」

沙夜ちゃんがさらりと爆弾発言をしました。


「そこは折らない方がいいでしょう。所で沙夜ちゃんは武器決まったんですか?」

「これよ。イドルによると魔弓とかいう伝説の四天王が使ってた弓らしいわ」

沙夜ちゃんは胸を張って答えました。

「沙夜ちゃんが好きそうな武器ですね。どんな力があるんですか?」

「気配遮断に認識阻害に矢に毒効果つけるのと闇の魔力を流すとからしいわ。闇属性しか使えないからあたしがこれを使う初の異世界人になるわね」

まあそうでしょうね。もしイドルさんの術式がない時代に誰かが巻き込まれていたとしてもたいていの闇属性の人は対勇者になるでしょう。この城まで来ることは滅多になかったでしょうね。

「後は矢よ。少し鷹の目になった気がするわね」

また沙夜ちゃんがわけわからないことを言い出しました。沙夜ちゃんサブカルチャーに詳しいですから話についていけないことも多いです。

「まあとりあえず当たり引けるまで引き続ければ絶対当たるものよ。その中に当たりが存在すればだけどね」

沙夜ちゃんは軽い調子で言いました。


「そうですね。頑張ってみます」

次に白い柄の刀を手にとった時、何だか今までと違う感覚がしました。鍔を弾くと何か指がチクッとしたので見てみました。

「な、何ですかこれ?!」

何故か鍔から無数の白い糸が出ていて私の指に刺さっていました。段々紅く染まってるということは血を吸ってるんでしょうか?

「リビングウェポン…。そんな物まであるとは思わなかったな」

イドルさんは淡々とした口調で言いました。

「生きてるんだあれ。光は大丈夫なの?」

沙夜ちゃんは矢を弓につがえながら言いました。

「…どうやら血で使い手としてふさわしいか見極めているようだな。特に危害を加えるつもりはないらしい」

糸はしばらく血を吸うと鍔の中に飲み込まれていきました。

「ヒール」

イドルさんが唱えるといつの間にか指先にあった魔法陣から光が出てきて刺された傷を治しました。


「ありがとうございますイドルさん。…これって認められたんでしょうか?」

「さあ?とりあえず振ってみたらわかるんじゃないかしら」

沙夜ちゃんは矢を矢筒に戻しながら言いました。

「そうですね」

柄を握ると異様な程手になじみました。まるで体の一部のように感じます。

「はあっ!」

巻き藁を斬った時の感触も完全に理想通りです。刃を軽く払って納刀すると巻き藁の薄切りがヒラヒラと舞い降りてきました。


「決まりました。これにします」

「わかった。もう一度抜いてみてくれないか。しっかり見ておきたいんだ」

イドルさんは真剣な目で私を見てきました。

「いいですよ」

私は刀をゆっくりと刀を抜き放ちました。

「…なるほど。血を吸った種族に対する特効と、血を吸った相手の力を得るのか。人斬りと光魔力浸透、…緊急時所有者防衛に自動迎撃能力?カタナが鞘から勝手に飛び出すとでもいうのか?実際に見てみないと何とも言えんな」

イドルさんは首をひねりながら言いました。

「本当にいいの?どう考えても妖刀の類じゃない」

沙夜ちゃんは刀を見つめながら言いました。

「いいんです。何だか私に似ている気がしますから。誰かを傷つけてしまったことを自らの罪としてその身に刻み込む。勇者の武器としてはこれ以上ふさわしい武器はないでしょう?」

私の言葉に皆さん固まってしまいました。


「…難儀な性格だな。少しくらいは正義のためとかいう理屈で正当化してもいいだろうに」

イドルさんは複雑な顔で私を見てきました。

「でしょ?そのくせ困ってる人を放っておけないから誰にも言わずに首を突っ込んで、勝手に傷付いて1人で泣いてるのよ。そんなに傷付きやすいくせに折れたり砕けたりしないのが余計に始末に終えないわ。こんな危なっかしい泣き虫放っておけるわけないじゃないの」

沙夜ちゃんは真顔で失礼なことを並び立てました。

「儚げな割に芯が強いからこそ危ういというわけか。おれも側にいる間は目を配ることにするよ」

イドルさんまで?!私ってそんなに危なっかしくないと自分では思ってるんですが…。


「二人ともひどいです…。まあ何はともあれよろしくお願いしますね、紅雪」

私が名付けると紅雪の白い刀身が紅く染まりました。名前をつけたから喜んでるんでしょうか?

「いい名前ね。解号は血吹雪けでいいかしら?」

沙夜ちゃんがまたよくわからないことを言い出しました。


「武器が決まったなら急ぎましょう。そろそろ準備を始めなくてはいけません」

メイドさんが背後から話に入ってきました。

「もうそんな頃合いか。ならもう出ないとな」

私たちはメイドさんを先頭にして出口へと歩きました。

「遅いぞ!いつまでかかってるんだ」

最初に別れた所に大剣を背中に担いだ金田さんがいました。

「すみません。少し手間取りました。金田さんは立派な大剣を選んだんですね」

「そうだろう。この輝きにこの壮大さ。まさに勇者の武器にふさわしいだろう!」

そういう金田さんを尻目にイドルさんは冷めた目で大剣を見ています。もしかして術式を見ているんでしょうか?


「よかったですね。宴の準備があるのでそろそろ行きましょう」

メイドさんは金田さんに簡潔に伝えました。

「そうか。グズグズしてないで行くぞ!」

金田さんは先頭をきって武器庫から出ていきました。

「ねえ。あの大剣ってどんな武器なの?」

沙夜ちゃんが声を潜めてイドルさんに尋ねました。

「発光、重量錯覚、他武器装備不可、破棄不能、術式完全固定。そこまで大した効果じゃないのにデメリットが多すぎる武器だな。見た目はいいし威力はあるが、特性上魔王を倒すまで使わないといけない武器としては力不足だろう。デメリットなくせればいいんだが完全固定がある以上どうにも出来ん」

イドルさんは辛辣な評価を金田さんの大剣に下しました。

「ほぼ見た目に全振りなわけね。ある意味あいつにふさわしいわ」

沙夜ちゃんはそう言ってニヤリと笑いました。

「そんなこと言っちゃダメですよ。…所で金田さんどこ行くかわかってるんでしょうか?」

結局メイドさんが先頭に立ってみんなを案内することになりました。

沙夜の部分も書いたので長くなりました。宴をどうするかは未定です。

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